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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
ファウル・レプリカ
22/70

突撃、Aクラス



 戻ってきたファウルであるが……なんていうか、話しにくい。ファウルのはずなのに、いつものファウルじゃない。話しかけるなオーラを出している。



「なーなーファーちゃん、それでどーよ?」



 だがそんな空気、この(バカ)には必要なかったようだ。バカだバカだと思っていたが……


 まあ、今回はそのバカさが役に立つ。このままなにも話しかけないというのも、不気味だしな。



「……なにが?」


「ほら、さっきクラス代表補佐の話したじゃん! その返事!」



 この(バカ)……やっぱり、バカのくせにいろいろ考えてるな。クラス代表補佐……それを話題に出すことで、スムーズに会話を進められることになる。今までどこ行ってたんだ、といきなり聞くわけにもいかないしな。


 しかも突拍子もない話ではなく、実際に先ほどした話だ、クラス代表補佐をファウルに選びたいというのは。ここから、なにかしら会話を広げられればいいのだが……



「……そう、それ、か。……ごめん、私には無理かな。他を当たって」



 しかし、その返事はそっけなく……また、これ以上会話を続ける意思もないと感じさせられた。まとう空気が、違う。


 その空気に、さすがのシャーベリアも「あ、そっか」のみで言葉を失ってしまう。おい、もう少し頑張れよ。



「……これは、深刻だな」



 もしかしたらさっきは、教室に戻らずガラム・ヴォルガニックとまた会っていたのかもしれない。で、密会がバレたから下手にそのことを話してしまわないように誰とも話すなと命じられたとか。


 まあこれは憶測だが……これ以上なにかを聞き出すなら、ガラム・ヴォルガニックの方に突撃した方がよさそうだな。


 あいつが素直に話すかはともかくとして。



「…………」



 以降、ファウルはなにも話さなくなり……いつもならオレたちと帰るのに、その日はそそくさと一人で帰ってしまった。帰るといっても学園の敷地内だ、距離はないが……それでも、ファウルがいないことに確かな違和感があった。


 このままでは、いけない……ファウルが離れていってしまう前に。



「オレっちもいくぜ、ユーくん」


「わたくしもですわ。勘違いしないでください、貴方のためじゃなく友達のためでしてよ」



 放課後、三人でガラム・ヴォルガニックがいるAクラスへと向かうことに。まだ教室に残っていてくれればいいんだが。


 それにしても、他のクラスの所に来たのは初めてだが……なんか、周りの目がやな感じだな。他の、というか自分たちより下のクラスの連中を見下しているのだ。


 まあ、そんなことはどうでもいい。目的はただ一つ。



「なあ、ガラム・ヴォルガニックってまだ残ってるか?」



 Aクラスにて、目的の魔族を探しだし、ファウルとなにをしていたか聞き出すこと。おせっかいと言われるかもしれないが知るか、オレがしたいからしたいんだ。


 別にファウルのためじゃない。ファウルがあんなだと、オレの調子が狂うからだ。



「あぁ? なんだお前ら」



 うわ、ガラ悪いな。Aクラスっつったら優等生揃いなイメージがあったが、所詮は魔族。ただ魔力がでかいだけの、チンピラと変わらない。


 ざっと五人ちょっとってとこか、な教室にいるのは。これでAクラス全部なのかは知らないが、ガラム・ヴォルガニックの姿はない。


 ちっ、いないか……無駄足だったか……



「おいてめえら、知ってるぞ。確か魔王の息子とかいう、Dクラスの残念な奴だろ?」


「あぁ、あの目立ってた奴な! しかも、ガラムとひと悶着起こしたらしいじゃねえか! Dクラスに分類される程度の力でよく絡もうって気になったな! バカな奴だってあいつも言ってたぜ!」



 あぁ、オレやっぱ目立ってたのか……悪い方向に。しかも、ガラム・ヴォルガニックと同じクラスの奴らは当然、あいつがオレとちょっとあったのを知っているってか。大方、あのバカそうな口から下品に笑いながら言ってたんだろうよ。


 だがあれは、ひと悶着っていうかガラム・ヴォルガニックの方から一方的に……いや、もう別に、どうでもいいことだが。



「あぁ、バカでいいから。で、そのバカがあいつに会うにはどうしたらいい?」


「どうしたらぁ? ひゃはは、服脱いで土下座でもすりゃあ、場所を教えてやらんこともないぜ?」


「おいおいかわいそうじゃねえか、へはは」



 ……我慢しろオレ。バカがバカ言ってるだけだ、気にする必要はない。


 ここは落ち着いて、場所を聞き出して……



「だいたいてめえなんかがガラムに会ってなにしようってんだぁ? 魔王の息子だかなんだか知らねえが調子に乗ってんじゃねえのぉ?」


「常識を知らねえんだろ。てめえらDクラスみたいなゴミが、Aクラスの俺らに会おうって時点でわきまえてねえんだよ」



 …………我慢しろ我慢。ガラム・ヴォルガニックといいこいつらといい、ただ噛みつく相手がほしいだけのガキだ。オレたちがなにかしたか? いやしてない。なら、いいじゃないか言わせておけば。



「なぁユーくん行こうぜ……こんな奴らからなにか得られると思えねえ」


「同感ですわ。Aクラスともなればもっと上品かと思っていましたのに……こんな、下品の巣窟のようなところに一秒もいたくありません」



 って、おいぃ! せっかく人が我慢してるのになに言ってんだ! しかも、わざわざ聞こえるように! にらみ付けんな!



「あぁ? 聞こえたぞゴミども。どうやら目上に対するマナーがなってねえらしいな」


「あいにく、クズに対するマナーなんて持ち合わせていないんでね」



 おい、なんで喧嘩腰だ! 相手ももうその気になってるじゃねえか! これじゃあガラム・ヴォルガニックの居場所を聞くどころじゃねえよ!



「自分たちより下のクラスだからという理由だけで見下して……この学園に通う者として、恥ずかしくありませんの?」


「ずいぶん強気だなお嬢ちゃん。けど、へぇ……あんた、Dクラスに置いとくにはもったいないくらい上玉だなぁ。どうだ、俺のものになるならAクラスに置いてやるぜ?」


「は……?」


「なんせガラムとはマブだからな。俺が頼みゃ、あいつの家の権力であんた一人くらいクラス操作できんだろ」


「……下衆が」



 同感だな。さっきから聞いてれば……聞くに耐えん発言ばかりで耳が腐りそうだ。


 自分の女になればクラスに上げてやる、なんて……こんなクズ思想をする奴が、いたのか。しかも、自分じゃなくダチの家の権力頼りだと? どこまで腐ってるんだ。


 やはり、魔族は……滅ぼすべき、人間の害となる連中だ。ありがとう、その認識を再確認させてくれたことに関してだけ、お前の生きてる価値を認めてやる。



「わたくしは、確かに上のクラスを目指しています。ですが、そんな卑怯な手段を使ってまで行こうとは思いません」


「へぇー、そう? けど、お前らのお友達にその、卑怯な手段使ってる奴がいるだろうが」


「……は?」



 下衆の戯れ言なんて、聞く価値はない……はずだった。だが、こいつの言葉を聞き逃せない言葉が、聞こえてしまったから。


 オレは反射的に、男の顔に視線を向けていた。



「な、なにをバカな……わたくしたちのクラスに、そんなことをする者なんて……」


「あれぇ、もしかして知らねえの? お前らがお探しのガラム……あいつに取り入ってご機嫌取ってるDクラスの女が、いるんだよ。わざわざ二人きりで会ってるだなんて、やらしいよなぁ」


「二人きり……密会……」



 男の言葉が、うまく理解できない。ガラムと二人きりで会ってる、Dクラスの女? そんなの、馬鹿馬鹿しい……笑い飛ばせなかったのは、その条件に会う奴が想像できてしまったから。


 その条件に会う奴って、まさか……いや、まさか。あいつに限って……ファウルに限って、ガラム・ヴォルガニックに取り入ろうだなんて……



「しっかしガラムの奴も、まさかあんなお子さまボディが好みとはね。俺は断然肉付きのいい女が好みだねぇ、この金髪お嬢ちゃんみたいに」


「まあ好みなんてそれぞれだしよ。俺も正直、あのお子さまは好みだぜ。未成熟な体つきがたまんねぇよ」


「お前ら性癖歪みすぎだろ!」



 こいつら、人前で……なんて、下品な会話を……


「バッカ、それがいいんだろうが! あぁ、なんつったっけあの子……ふぁ、ふぁ……そう、ファウルちゃん!」


「!」


「あぁ、一回でいいから貸してくんないか……んぁぼっ!?」



 あぁ……ダメだ。おとなしくしてようと思ってたのに。我慢しようと思ってたのに。こいつらの会話の内容のえげつさに手が出て……いや、違うな。ファウルの名前が出た瞬間、手が出てしまった。


 じゃないと、しゃべらせないように顔の下半分をつかみあげるなんてこと、しない。



「んごっ、おばっ、あにを……!?」


「答えろ」


「!?」



 頬を握りつぶすように掴んでいるから、なにを言っているかわからない。けど、こいつの声はもう聞きたくない……だから、黙らせる。



「ゆ、ユーくん……って、エリちゃん落ち着いて!」


「あ、ぁ……」


「こ、このガキ……!」


「んぐごっ……!」


「一度しか言わない、よく聞いて答えろ」



 早くしてくれ、このままだと……



「ガラムはどこだ。その答えにのみ、しゃべることを許してやる」



 こいつを、殺してしまう。

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