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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
ファウル・レプリカ
20/70

気になる二人の関係



 クラス代表の補佐となる人物をファウルに決め、オレはシャーベリアが彼女を探すために校内を歩きしばらくして……休憩時間も終わりになろうかというタイミングで、ついにファウルを見つけた。


 オレたちがいたのが校内に対して、ファウルがいたのは建物の外だ。あんなところでなにをしているのか……その疑問は、次に見た人物によりさらに深まる。



「ガラム・ヴォルガニック……?」



 ファウルと話すように、彼女の正面に立っているのは見覚えのある人物。この学園に来て間もないが、あの男だけは見間違えない。初日から絡んできて、その上膨大な魔力を見せた奴のことを忘れられるもんか。


 そんな男と、ファウルがなぜ一緒に? くそ、ここからじゃ声が聞こえないのはもちろん、背を向けているファウルの表情すら見えない。



「なんであの二人が? あのガラム・ヴォルガニックのことだから、Dクラスの魔族なんかと一緒の空間にいることすら良しとしなさそうなのに」



 オレの横から、同じくその光景を観察するシャーベリアが言うが……ふむ、あの男の言いそうなことだ。Dクラスどころか、BクラスやCクラスも危うい。


 それほどまでにわかりやすい性格をした奴が、目立たないとはいえなんで学園の敷地内で……?



「もしかしてあの二人、付き合ってるんじゃねー?」


「それはないだろ」



 こいつ、あの二人が一緒にいる理由が、付き合ってるからだと本気で思っているのか? あんな男と、ファウルが? いやいや、ないだろう。



「なんでないって言い切れるのさ。オレっちもユーくんも、ファーちゃんのことまだあんまり知らないじゃん。実はああいう、どうしようもないオラオラ系が好みだったりして」



 ぬぅ……このバカにしては正論を。確かに、異性の好みまで把握しているほどオレはファウルのことを知らない。友達とは言っても、会って間もない異性にそんな話はしないだろうしな。


 同じ部屋、ルームメートであるエリザ・カロストロンならば知っているかもしれないが……今からあいつを呼びに行って、あの光景を見せるために戻ってくる時間はない。



「そ、れ、と、もぉ……ないんじゃなくて、付き合っててほしくないって願望だったりして?」


「はぁ?」



 今度はバカが、いやに腹の立つ顔をして変なことを言い始める。なんでオレが、あの二人が付き合っててほしくないって思わなきゃいけないんだ。


 殴りたいな。いいかな。



「バカなこと言ってないで、あの二人が一緒にいる理由を考えろ」


「ふぁい……」



 顔面に大きなたんこぶを作ったシャーベリアを尻目に、オレは再び観察に戻る。せめてガラム・ヴォルガニックの表情からなにか読み取れればいいんだが……ダメだ、わからん。あいつ、いつ見ても不機嫌そうな顔しかしてないんだもんよ。


 こうなったら、直接近くまで接近して盗み聞きでも……



「あ……」



 そう考えていた次の瞬間……ガラム・ヴォルガニックはその場から去っていく。どうや、話し合いのようなものは終わったらしい。結局、あの二人が一緒にいた理由も話の内容も、わからなかった。


 ファウルも、少し遅れて校内に戻っていくが……くそ、やっぱり表情が見えない。こうなったら、もう直接聞くか。プライベートなことなら、まあそれでいい。


 だが、なんだこの……モヤモヤした感じは。胸騒ぎ……? なんか、胸の奥になにかがつかえている感じだ。



「教室に戻る前に、なんとか……」



 教室だと、周りの目もある。それに、一刻もこのモヤモヤを払拭したいという気持ちが強かった。



「……いた、ファウル!」



 校内に戻ったファウルが、教室に戻るルート絞って探していると、今度は簡単に見つけることが出来た。どうやら近くにガラム・ヴォルガニックはいないようだな。今ファウルは一人……話を聞くには、絶好のタイミングだ。



「よぉ、探したぞファウル」


「……ユーク。どうした、の?」



 声をかけたことで、ファウルの注意はこちらに向く。見たところ、いつも通りと変わらない……というか、変化を感じられるほど深い仲でもないんだけどな。


 さて、呼び止めたはいいが……どう切り出すか。



「どう、したの? 授業始まるよ」


「いや、ちょっとファウルを探しててな」


「……私を?」



 切り出し方は、こんなもんだろ。探していた……その言葉に嘘はないし、事実ファウルのことを探していたのだ。そこに疑いの余地はないはずだ。



「なにか、用?」


「実はー、ユーくんがクラス代表の補佐に、ファーちゃんを選びたいみたいでね!」



 ファウルを探していた理由を、オレの後ろから出てきたシャーベリアが引き継ぐ。こいつ、着いてきてたのか。顔面殴った後すっかり放置してた。


 まあ、これも事実だ。変なこと言わないでよかった。



「私を……?」


「あぁ。その話をしたくてお前を探してたんだけど……さっき見ちまったんだ。お前が、あのガラム・ヴォルガニックと一緒にいるの」



 どう切り出そうか考えていたが、会話の流れに乗じてすんなりと言い出すことが出来た。うん、下手に考えるよりも、場の流れというものに任せた方がスムーズにいくもんだな。


 で、それを聞いたファウルの反応は……



「っ……」



 相変わらず、わかりにくい反応……だと思っていた。だが、予想外に……ファウルの反応は、わかりやすかった。目を開き、なにかまずい隠し事がバレたような……そんな、反応。しかし、次の瞬間にはいつもの、ただの無表情に戻っていた。



「そうそう見ちゃったの! そしたらユーくんったら、ファーちゃんがあんな男といるからって嫉妬しちゃってー」


「お、おい!」


「だから、二人の関係性を聞きたくて! けど、別に話したくないことならはな……」


「なんでもない!」



 ファウルと、ガラム・ヴォルガニックの関係……それを聞こうとしていたシャーベリアの言葉は、別の言葉によって遮られる。それも、今の今まで聞いていたはずなのに、聞いたことのないほどの声に。


 オレはもちろん、おちゃらけるように話していたシャーベリアですら押し黙ってしまう。なにも言えなくなってしまう。……ファウルが初めて上げた、悲鳴にも似た声により。



「……ぁ」



 ほんの数秒後……自分がしてしまったことに気付いたファウルは、これまた見たことのないあたふたとした様子でオレを、シャーベリアを、そして周りを見る。無表情だった彼女の姿はそこにはなく、ただ青ざめた表情で。


 それから、青ざめた表情のまま……オレに、シャーベリアに頭を下げる。



「ご、ごめんなさいっ。私、その……ごめんなさいっ」


「お、おい!」



 謝るだけ謝って、この場から立ち去る。廊下は走ってはいけない……そんな小さなルールでさえ守る彼女が、その足を走らせていた。


 教室に戻れば嫌でも顔をあわせるというのにいうのに……そんなことすら判断できないほど、取り乱しているのか。



「……初めて見たよ、ファーちゃんのあんな顔」


「なんだ、気づいてたのか」



 一瞬だったとはいえ、シャーベリアもファウルの表情の変化には気づいていたらしい。ってことは、あの後おちゃらけてたのはもしかして、ファウルとガラム・ヴォルガニックの関係をできるだけ軽い感じで聞き出そうとしたのか。警戒を抱かせないために。


 結果失敗したとはいえ……



「お前、意外と考えてるんだな」


「意外ってどういうことさー」



 ともあれ、これではっきりした……ファウルとガラム・ヴォルガニックの関係は、誰かに言えるものではない。彼女の反応から、付き合ってるとかそんな甘ったるい話でもないだろう。


 いったい……あの二人の関係は、なんなんだ。

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