漏らしてない
ダンッ
机が、叩かれる。オレが座っている席の机だ。両手を突き、結構大きめな音が響いた。その音を立てたのは、今オレの目の前に立っている魔族。肩を震わせ、うつむいていた顔を思い切り上げる。
「どうしたんだよ、帰ってくるなりいきなり……」
「どうしたの……エリちゃん」
そこに立っているのは、ファウルにエリちゃんと呼ばれた人物……一時間前にオレとクラス代表を決めるための勝負を繰り広げた、エリザ・カロストロンだ。
肩を震わせていたり、顔が赤かったり……あぁ、これは怒ってるんだなと、直感した。もしくは、悔しがってるのか。
「く、くぅ……屈辱ですわ、あんな姿をさらしてしまうなんて……!」
あ、これは悔しがってる方だな。
どうやら気絶したとはいえ、自分がどんな目にあったのかは理解しているらしい。屈辱とまで言うか……まあ、仕方ないか。
「あんだけ大見得切っといて、しかも自分から勝負しかけといて結果気絶させられるとかダサすぎるもんな」
「ぐぅっ!」
あ……しまった、声に出てた。思ったことを正直に話してしまったせいか、エリザ・カロストロンはさらに顔を赤くし、震えも大きくなっていく。なんだこれ、壊れたおもちゃみたい。
しかし、事はそんな単純ではない。正直な話見ていて面白いが、あんまりからかいすぎるのもよくないな。あんまりやりすぎると泣くかもしれん。
「ユーくん言いすぎだろー、事実だけどさ!」
「くぁ!」
おいおい、せっかくなにかしらフォローしようと思ったのに、なにを傷に塩塗ってるんだシャーベリア! お前デリカシーないな! オレもだけど!
「二人とも……言い過ぎ」
「「ごめんなさい」」
結局、ファウルが仲介に入ることで、なんとか場は収まった。顔を赤くしたままのエリザ・カロストロンが、ファウルに頭撫でられているのが印象的だ。
この金髪ドリル……見た目に反して、メンタルかなり弱いな。いや、この場合見た目通りなのか? お嬢様キャラって、案外脆い部分あるもんな。昔見た書物参考だけど。
「で、結局お前はなにしに来たんだよ。泣かされに来たの?」
今のところ、オレとシャーベリアにズタボロ言われて涙目になってしかいないんだけど……わざわざいじられに来た訳じゃあるまい。
「泣いてませんわよ。……その、素直に認めますわ。確かに屈辱でしたが、貴方の実力は本物……それは、疑いようのない事実。貴方のこと、少しは認めてあげてもよくってよ」
「あぁ……」
これは、なんか……面倒なことになりそうなパターンだ。あれだ、金髪プラスお嬢様で嫌な予感はしていたが、こいつまさかのツンデレじゃないだろうな。てか、魔族にもそういうのあるの。
初めは衝突し、敗けたことで相手を見る目が変わりデレていく……お手本のようなレールだ。そんなものエリザ・カロストロンに、いや魔族に求めてなんていない。
「認める、ね、そりゃどうも。けど別に、お前に認めてもらわなくてもいいんだけど」
「っ……ま、またそうやって。いいですこと? カロストロン家長女であるこのエリザ・カロストロンに認められるということは、それだけで名誉なことで……」
始まったよお家自慢。こいつといいあのガラム・ヴォルガニックといい、どうして家を自慢したがるのか。
「だから、その件いいって。飽き飽きしてんだから。それに、あんな勝負ごときで気絶してた奴に偉そうにされてもなぁ」
「なっ……ぐぐっ」
なにか言いたそうであるが、気絶のことを出されてはなにも言い返せないようだ。まあ、気絶したのはクラスの全員に見られたのだから、ばつが悪いのも当然だ。
「あ、貴方の実力は認めています。けれど、また同じように勝負すれば、次に勝つのはわたくしで……」
「へぇ、なら今度試してみる? 今度はあんまり脅かしすぎて漏らしちゃうかもよ?」
この金髪ドリル、意外と扱いやすいな……うん、オレの言葉にほいほい誘導されてくれる。
ここで、軽く脅しでもかけとけば少しはおとなしくなるだろう……ということを期待して、軽く、今度は意識的に威圧してみると……
「も、漏らしてませんわ!」
顔を真っ赤にして、こう切り返してきた。
「……え?」
「へ?」
オレ今、軽く脅しをかけただけなんだけど……なんだろう、今の返しの「漏らしてない」ってニュアンス、まるで……
「なあお前、まさか……」
「あ、あー、ちょっと用事を思い出しましたよ! とても大切な用事なので、失礼!」
真意を確かめるために確認しようとしたが、口早に話し教室から出ていってしまう。用事ってなんだろ……といった、古典的な思い違いは起こさない。
オレが思うのは、ただ一つ……エリザ・カロストロンの「漏らしてませんわ」という言葉、真っ赤な顔、なぜか股に手を挟んでいた……お前まさかあの時……
「……まさかな」
エリザ・カロストロンが教室を出ていった30秒後。次の授業のために、教室に入ってきたアリス・ニーファに抱えられたエリザ・カロストロンが戻ってきた。




