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敗けさせてくれ!



 ついに、クラス代表を決めるための勝負が始まった。とはいえ、オレはさっさと敗けるつもりだ……それがわざととバレないように。


 まあそれも、エリザ・カロストロンが圧倒的な力を持って勝ちを取りに来れば済むんだがな……そんなにうまくいくかどうか。



「ふん、余裕ぶって……後悔させてあげますわ!」



 余裕ぶっているつもりはないが……どう敗けようか考えている姿が、そう映ってしまったらしい。あぁ、変に誤解を与えてしまった。


 そんなオレへ向け、エリザ・カロストロンは魔力を高めていく。さすが偉そうにしているだけあって、魔力の質は相当なものだ……Dクラスの中では。


 魔力を収束させ、ハンドボールくらいの大きさに。それを使ってなにをするかは、聞くまでもないだろう……あれを、オレに投げるつもりだな!?



「ふふん、どうですのわたくしのこの美しい魔力! 驚いて言葉も出ないようですわね!」



 エリザ・カロストロンは、やけに得意気だ。自分の力に、相当な自信を持っている……ってことか。多分、Dクラスになったのも納得してないなありゃ。


 大方、クラスの代表になっていいところを見せることで、上のクラスに上がりたいって魂胆なんだろうが……残念ながらこの魔力じゃ、あのガラム・ヴォルガニックの足元にも及ばない。


 ムカつく奴だが、実力に関しては確かなものが……



「ちょっと! 聞いてますの!?」


「……へ?」


「だから、降参するなら今のうちって言ったんですの!」



 ヤバイ、ヤバイ、考え事してて聞いてなかった。どうやらエリザ・カロストロンは、魔力を圧縮した弾を放つ前にオレに降参を求めてきたらしい。ずいぶん、自分の力に自信があるようで……!?


 こ、降参を求めている、だと!? おいおい、ってことはこっちからわざと敗ける方法考えなくても、はい降参しますって言えば済む話じゃねえの?


 しかもこれなら、オレから降参を言い出るのではなく降参を求められたわけだから、わざと敗けようとしたとか思わないはずだ。


 まさか敗けのお膳立てをしてくれてたなんて……ありがとうエリザ・カロストロン! 巻きグソみたいな金髪ドリルだと思っててごめんな!



「ちょっと、また(だんま)りですの? いい加減に……」


「あぁ、あまりの魔力に驚いてたんだ……参ったよ、降参だ。うん、クラス代表はキミのものだ、うん」



 よし、これで完璧だろう……ただ降参するだけでなく、相手をたてておく。これこそ完璧な切り返しじゃないかな、うん。


 これで力を見せつけられた上に、クラス代表になれたんだ。エリザ・カロストロンもさぞ満足してるはず……



「……あ、あなた本気で言ってますの?」


「へ?」



 なんだろう……満足してるはずだと思ったのに、その声には怒りの感情のようなものが含まれているように感じる。なぜ、なぜ!?



「降参だなんて……それでも男ですの!?」


「えぇえ!?」



 なんだこいつ、なにに怒ってるのかと思ったら……降参するかどうかを聞いてきたのはお前だろ!? それにイエスと答えて、なぜ怒る!? 精神不安定か!


 まずいな……怒らせてしまったせいで、降参という手が使えなくなってしまった。残された手は……



「そんな腰抜けは……わたくしの魔力弾で、灰になっておしまいなさい!」


「殺す気!?」



 灰になれ、と叫び、エリザ・カロストロンは圧縮していた魔力弾を放つ。オレが敗ける残された手は、エリザ・カロストロンの攻撃により戦闘不能に陥ること!


 とはいえ、本当に灰になってしまっても困るので……少しは、防御させてもらう。それに抵抗の様子がなければ、怪しまれる可能性もあるしな。



「……ふっ」



 オレも魔力を発動し、体にまとわせる。いわゆる鎧みたいな感じで、魔力の鎧を体に着込んでいる感じだ。これならば、仮に灰にするほどの威力がある攻撃でも、直撃しても死にはしまい。


 だが、相応のダメージがあることは期待する!



「っく……」



 ドォッ……



 魔力弾が、オレの魔力鎧に衝突。その衝撃で、爆発し視界が遮られる。



「っしゃあ、ですわ! どんなもんですの!」


「ゆ、ユーくん、大丈夫か!? 生きてるか!?」


「! ……ユーク」


「おーっほっほっほ……って、ホントに死んでませんわよね? 演出、灰になれって台詞ただの演出ですから! そこに倒れててくれれば充分……へ?」


「……へ?」



 爆発の煙により視界が遮られている中でも耳は機能し、辺りから声が聞こえるが……なんだ、これ。全然痛くないんだが。え、マジで? 効いてないの?


 ……あ、視界が晴れた。……あ、エリザ・カロストロンと目があった。



「な、な……なんで無傷、ですの? 確かに死んでもらったら困りますけど、無傷というのも困るんですが……」


「えっと……」



 困るのはこっちだ……どうしてくれるんだ、お前の攻撃全然効果ないじゃねえか。どうしてくれるんだ、おい。


 こうなったら、この手は使いたくなかったが……禁断の!



「ぐわぁ、やーらーれーた……」



 たいしたダメージもらってないのに大袈裟なリアクションで倒れる作戦!



「この、ふざけないでください!」



 失敗!



「くっ……先ほどからわたくしをバカにして! それに、全然抵抗しないじゃないですの!」



 なんか知らんがまずいな……エリザ・カロストロンの怒りのボルテージが先ほどから上がり続けてる。オレなんにもしてないのに。魔族ってこうなの? それとも女の子ってこうなの?


 さすがに、棒立ちのままってのはまずいか。これじゃ不信感を募らせる前に、怒らせることにしかならない。クラスメートで、クラス代表になる相手と気まずくなるのも困る。


 こうなったら、オレも反撃するふりをして、どさくさに紛れて敗けてやる!



「なら、こっちから行くぞ」


「えぇ、いつでもど……」



 ドヒュッ



 その場で踏み込み、バネのように足を伸ばすことでロケットスタートを切る。その勢いで拳を握りしめ、振りかぶって……振りかぶって……


 エリザ・カロストロンの顔面向けて振り抜く。といっても、本当に当てるわけではない。寸前のところで止め、わざと隙を作る作戦だ。その隙に、なにかでかい攻撃を当ててもらえばいい。


 ……と、思っていたのだが。



「う、ぁ……ひっ……ゅ……」



 エリザ・カロストロンは、その場から動かない。おいおい、顔に当てないところで止めたんだ……反撃してくれないと、オレが反撃をくらうためにわざと寸止めしたことがばれてしまうじゃないか。


 しかしオレの望み通りにはいかず、エリザ・カロストロンは荒い呼吸を繰り返すのみ。おいおい、目に涙まで溜まってんじゃないか……まさかとは思うが、これ……


 しばらくの後、エリザ・カロストロンは膝から崩れ落ち、その場に尻餅をつく。えっと、これって……もしかしてなんだけど……



「決まったようだな。エリザ・カロストロンは戦闘続行不可能と判断! 勝者、ユークドレッド・ボンボールド!!」



 もしかして……勝って、しまった?



「うぉおお、ユーくんすげぇええ!」


「ん、ん!」



 勝者の名前を発表するアリス・ニーファ。そしてオレの後ろでは、うるさいくらいに喜ぶシャーベリアと、力強い動きで何度もうなずきを繰り返すファウルの姿があった。


 これは、間違いない。オレは、クラス代表を決める勝負でエリザ・カロストロンに勝ってしまったのか……



「や、やっちまった……」

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