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人間視点と魔族視点



「……で、人間が使う魔法というもの。それは元々、我々が使っている魔力を応用したもので……」



 学園内の案内がひとしきり終わったそのあと……オレたちDクラスの生徒は、教室で静かに席に座っていた。で、担任であるアリス・ニーファから基礎的な知識を説明されているわけだ。


 曰く、



「貴様らのようなクソどもには、基礎的な説明から叩き込んでやろう」



 とのことらしい。まあ、わからんでもないかな。勇者やってたころだって、基礎的な知識や技術が結局は戦いの役に立つのだ。


 けど、これは知らなかったな……向こうで魔法と呼ばれていたものはこっちじゃ魔力と呼ばれている。つまり、どちらも同じもので、元々はこっちが元祖なのだと。


 ま、どうせ魔族に得のある説明しかしてないんだろうけど。


 基礎的な説明、人間と魔族との歴史など……オレが人間だったとき、聞いたことのある話ばかりだ。違うのは、やはり人間目線か魔族目線かということだけ。


 同じ説明でも、立場が違えば……その説明も、どちらかに偏ったものになる。魔王が現れ世界を支配しようとするからそれを止めるのが勇者の役目だと向こうで習ったものを……こっちじゃ、勇者が魔族を滅ぼす存在であるから魔王がそれを止める、といったものだ。


 こうして二つの世界からそれぞれの視点で物事を見ることになるとは、思っていなかった。



「……こいつ、寝てやがる」



 ふと、隣から不自然な吐息が聞こえた。そちらを見ると、シャーベリアの席なのだが……奴は、寝ていた。すごく気持ち良さそうに。


 こいつ、「基礎的とはいえ魔王になるための大事なこと! オレっち真剣に聞くぜ!」とか言ってたくせに……よくもまあ、こんなすやすやと。


 あ、アリス・ニーファがこっち見た。……すげぇ怒ってるな、当然だけど。



「ほぅ、いい度胸だコントラス。私の授業を、しかも初日から寝るとはなぁ」



 あー……あれは、リーズロットがぶちギレたときみたいだ。つまり、めっちゃ怒ってる。抑えてるが、それでも怒りの魔力が見える。



「……いいだろう、これからの授業内容を変更する。全員いますぐ訓練所に移動しろ。……魔力の使い方を教えてやる」



 寝ているシャーベリアを起こすでなく、なぜかこれからの行動を指示する。その際、ギラリと光る視線をオレ……の隣にいるシャーベリアに向けて。


 あぁ、これはあれだ……魔力の使い方を教えてやるとか言いながら、シャーベリアに全部ぶつける気だ。授業という名の怒りをぶつけるつもりだ。



「ボンボールド、さっさとそいつを起こせ。そいつにはサンドバッグになってもらう」



 あぁ、サンドバッグって……もう隠すつもりすらないのか。


 仕方ない。哀れとは思うが、これも自業自得だ。とりあえずシャーベリアの肩を揺する。起きない。強く揺する。やはり起きない。軽く頭を叩く。起きない。おもいっきり叩く。



「っ!?」



 起きたか。叩かれた頭を押さえるシャーベリアは、なにが起きたのかわからないといった表情でキョロキョロしている。周りではすでに、他の生徒が席を立ち教室を出ているところだ。



「え、なになに、どうしたの?」


「ほら、行くぞシャーベリア」


「え、いやなんなのさユーくん。みんなどこ行くの。オレっちらどこ行くの」



 寝起きで、状況を把握できてない。それは当然だ。だが、オレは教えてやらない。おそらく本来なら他にも、教える奴はいない。


 だから、まあ……とりあえず一言。



「頑張れ」


「なにを!?」



 その後、訓練所に移動したオレたち。担任アリス・ニーファに指名されたシャーベリアはなにがなんだかわからないといった風に、キョトンとした表情を浮かべる。さっさとしろと急かされ、指名された通りにアリス・ニーファの正面に立ち……



「ふん!」


「ぐほぉおお!?」



 おもいっきり魔力を込めた正拳を、腹部に打ち付けられていた。それをもろにくらったシャーベリアは、面白いくらいに吹っ飛んでいき。


 まあ、なにをされるのか説明されない中でいきなりあの正拳突きだもんなぁ。しかも寝起きで。同情はしないけど。



「これが、魔力を一点に集中しての正拳突きだ。使い方を覚えれば、私のようなか弱い女でも、男一人吹っ飛ばすくらいわけはな

い」



 ……か弱い、か。これは笑った方がいいのだろうか。渾身のボケなのか、それともマジなのか。


 その後、生徒の魔力コントロールを主とした実技が行われる。Dクラスに行くようなだいたいの奴は、魔力のコントロールがうまくいっていないから、というものらしい。


 クラスの奴を見ても、まあその説明はわからんでもないものだった。中には大きな魔力を持つ者もいるが、コントロールが下手ゆえに損をしている奴らがいる。


 魔力を測る際にも、コントロールできないから全力を出せなかったりもする。そもそも魔力をコントロールできない奴が、まっとうな魔族になれるわけがないというのが大多数だ。


 ただその中でも、オレと……ファウルは、異常らしい。オレの場合、コントロール以前の問題で力は大きいはずなのに、そこに魔力をあまり感じられないという。


 ファウルは、どうやら力が抑えられているのではないか……そんな風に思える。しかも、自分で抑えているわけではない。外から、なにかに抑えられている。そんな感じ。



「……?」



 それがなにかはわからないが、ファウル本人は気にした様子はなく……またオレ自身も彼女に気づかれないようにしつつ、遠くで生徒たちにサンドバッグにされているシャーベリアの悲鳴を聞いていた。

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