壊滅的なネーミングセンス
魔王育成学園……当て付けたような名前の学園だが、次期の魔王を育成するだけあって施設は立派だ。先ほどの訓練用の建物然り、各教室から食堂、中庭、寮に至るまでしっかりしている。
……魔王城の方がさらにリッチだったというのは、内緒だ。
「もうここで生活できちまいそうだな」
「? ここで生活するんだよ?」
「いや、まあ……うん。ただ言ってみただけ」
先ほどから学園内の施設を案内され、その先導をするのは先ほど実技試験でやたら高圧的だった女魔族だ。後ろからだと、太い尻尾がより目立つな。
どうなら、Dクラスの担任はこの女らしい。名前は……
『アリス・ニーファだ。今日から覚悟しろ貴様ら』
名前を聞いたその瞬間、思わず吹いてしまったんだよな。だって、あんな高圧的な雰囲気出しておいてアリスなんてかわいらしい名前……
ま、その直後めちゃくちゃにらまれて即座に謝ったが。それのせいで、先ほどからチラチラにらまれてしまっている。
「よー、学園生活初日にしてもう先生からの熱々な視線もらって羨ましいなー」
と、馴れ馴れしく肩に手を回してくるこの金髪の男……先ほど発表された、同室の寮生。つまりはルームメートだ。
そのせいか、先ほどからやけに絡んでくる。正直かなりうっとうしい。しかも、なんか知らんがこいつ肌がざらざらで変な感触で気持ち悪いんだが。
その上、牙や爪がすげー長いから刺さらないか心配なんだけど。
「熱々って……変われるもんなら変わってもらいてえよ。お前……えっと……」
「オレっちはシャーベリア・コントラス。同室なんだから覚えてくれよユーくん!」
そうそう、シャーベリア・コントラスだ。同室っていってもさっき知らされたばかりで…………ユーくん?
「なあ、一応聞くがその、ユーくんって……」
「ユーくんはユーくんだ。ユークドレッドだから、ユーくん」
省略しすぎだろ! しかもナチュラルに名前からのあだ名かよ!
「オレっちのこともシャーベリアでいいからさ。なんなら、愛称でもつけてくれよ。シャーくんとか」
呼ぶか! てかあだ名のセンスなさすぎだろ!
「ぶふっ……ユー、くん……」
こっちじゃこっちで、なにかがツボに入ってしまったらしい。笑い出しそうなのを必死に耐えているが……ぶっちゃけ抑えきれていない。
あの無表情のファウルが笑ったというのが、オレの変なあだ名関連というのがなんかしっくり来ないが。
「なあ……」
「ご、ごめん……でも、ユーくん……ふっ」
「いや、ユークだって似たようなもんだと思うけど」
自分からそう呼んでくれとは言ったが、ユーク呼びに関しては普通に言っていたのに。なぜ発音が似たユーくんではダメなのか。そしてファウルのツボはどこにあるのか。
「なになに、なんか面白いことあった? ファウル……だっけ。ファーちゃんでいい?」
「ふ、ファー……っ!」
今度はファウルに絡むが、やはりそのネーミングセンスはどうなんだろう。ファウルも、驚いている……かと思いきや、再び笑い出す。のを必死にこらえている。どうやらファーちゃんというあだ名にもツボってしまったらしいが……
どうして、そこまで笑えるんだ。
「なんだあ、ずっと無表情だったけど、笑うとかわいいじゃん。なあ」
「いや、その……」
「わ、笑って……くく、ない……!」
それで笑ってないというのは些か無理があるんじゃないだろうか。わざわざそれを追求するほど意地悪なつもりもないが、こうしてみてるとなんだかおもしろい。
……って、なにを魔族に親近感湧いてんだ。
「……ここで、最後だ。さて、では教室に戻りたまえ。これから授業を始める」
すべての施設への案内が終わり、今日はこれで解散……とはならない。アリス・ニーファははっきりと、これから授業を始めると言った。
「え、あのー……入学初日から、ですか?」
「あぁ?」
一人の生徒がおもむろに手を挙げ、質問すると……それはそれはお揃い氏形相が返ってきた。あの顔だけで人を殺せるんじゃないだろうか。
「貴様らのようなDクラスのクソどもが、初日から休めると思うな。初日だろうと関係ない、上に行きたければ少しの妥協も許さん」
うわぁ、こえぇ。
その発言により、誰一人喋ることはなくなる。うーむ、オレにはどうでもいいことだしこのままバックレてしまおうか……
「…………」
無理だな、うん。すげーにらんでるし、拒否しようものなら学園どころかこの世界から追い出されてしまいそうだ。さすがに命まで落としたくはない。てか仮にも自分の生徒にぼろくそだな。
仕方ない、適当に付き合っとくか。妙にやる気なシャーベリアと、やはりなにを考えているかわからないファウル……少なくとも、この二人は逃げ出すつもりはなさそうだ。
他にも、ちらほらとどっしり構えた顔つきの奴らが多い。最低のDクラスとはいえ……いやだからこそ、奴らはここから本気で這い上がるつもりなのだろう。
こいつらの中から……この学園の生徒の中から、次期の魔王が決まるのか。そして、オレが勇者になったのと同じように、向こうでも勇者に選ばれるために鍛錬に励むガキどもがいる。
……人間と魔族、全然違うはずなのにどうしてこうも……