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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
勇者の生まれ変わり
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勇者と魔王



「ついに追い詰めたぞ魔王! お前の命もここまでだ!」



 暗く広い部屋に、男の声が響く。その声の主は、自分の身長ほどもある剣を握り、切っ先を正面へと向ける。そこにいるのは、男に魔王と呼ばれた人物。


 魔王城と呼ばれる城の主……黒いマントに身を包み、さらには黒いカブトで顔を覆った大柄の人物だ。椅子に座っていたその人物……魔王は、立ち上がる。



「よくも我が同胞たちを屠ってくれたな、覚悟は出来ているのだろうな勇者よ」



 魔王は、己に剣を向ける男を勇者と呼び、高い壇上から見下ろす。野太い声を発し、カブトの隙間から覗く瞳は赤く光り、見る者の心を震え上がらせる。それを真っ正面から受け止める勇者の精神力は大したものだ。


 燃えるような赤い髪を揺らし、勇者は剣を構える。魔王も、迎撃のために自身の身に魔力を集中させる。


 勇者の気迫と魔王の魔力がぶつかり合い、それだけで空気が震える。並の精神力を持つ者なら、この空気に当てられただけで倒れてしまうだろう。


 勇者の仲間も、魔王の配下も、この場には一人を除いていない。ここに来るまでの間、勇者のために、魔王のために、散っていった。ここにいるのは、勇者と魔王の二人……そしてもう一人だけだ。


 それは、勇者の仲間の一人の女性。しかし、彼女はもう戦うどころか動けないほどに消耗していた。戦力には、数えられない。



「お前を倒して、平和な世界を取り戻す!」


「貴様ごとき人間、捻り潰してくれる!」



 勇者と魔王……はるか昔より、この二つの存在は相対してきた。世界の支配を企む魔王、その野望を阻止する勇者……まるでなにかのおとぎ話のように、この二つのの存在は戦いを続けてきた。


 魔王が生まれ、そして勇者が育てられる……歴史は繰り返されてきた。勇者が魔王を倒しても、時を経て魔王は復活するのだ。その逆……魔王が勇者を倒しても、しかし世界を支配するには至らなかった。


 圧倒的な力を持つ魔族に対して、人間が優位に立てる部分……それは数だ。勇者がいなくとも、強くたくましい人間は少なくない。それらに阻まれ、支配には至らず……次代の魔王へと託してきた。


 繰り返す歴史……終わらない連鎖。それに終止符を打つべく、今代の勇者は目の前の魔王を睨み付ける。今度こそ、世界に平和をもたらすのだと。


 その方法は、ただ一つ……魔王が二度と外に出られないよう、永遠に封印してしまうことだ。



「勇者……カイゼ・ヴァーミリア。参る!」



 構えた状態から名乗り、勇者……カイゼは突っ込む。本来ならば相手の名乗りを待つべきだが、魔王相手にそんなものは意味がない。


 魔王も素直に名乗るつもりはないらしい。自身も、魔力により作成した剣を構え、カイゼの剣と剣を激突させる。


 両者の打ち合い……それは大気を震わし、地面を、壁を破壊していく。激しい音と衝撃……それは両者を少しずつ、しかし確実に消耗させていく。



「うぉおおおお!!」


「はぁああああ!!」



 ……長いようで短い衝突の後、互いに力尽きる寸前まで消耗したその時。構える両者の考えることは、皮肉にも同じだ……次の一撃に、すべてを賭ける。



「行くぞ、魔王ー!!!」


「来るがいい、勇者よ!!!」



 勇者と魔王、互いの渾身の力が激突し……辺りが白い光に、包まれる。その光は、二人を、部屋を、城を……世界を、包み込んでいく。



「カイゼー!!」



 ただ一人、勇者の名前を呼ぶ声……仲間の声を残して、世界は無音に()す。


 勇者と魔王の戦いの最後の激突……それは両者の、いや勇者と魔王の戦いの終結を意味していた。今代の戦いは、ここに終結した。









 ーーーそれから、三年の月日が経った。



「おぉ、ここにいたのかユークよ。元気なのは結構だが、あまりはしゃぎすぎてはならんぞ? この魔王ガラゼル・ボンボールドの息子なのだ、次期魔王になる者として、慎みも覚えねばならんぞ」


「いや、オレ魔王になるつもりないし」



 勇者との戦いを生き残った魔王には、子供ができていた。漆黒の髪に闇のような黒い瞳……幼いながらも八重歯のある、小生意気な顔をした男の子。


 名を、ユークドレッド・ボンボールド。魔王の子供にして、次期魔王の第一候補。しかし、本人に次期の魔王になるつもりはない。嫌だと言ってはいそうですかと同意を得られるわけでもないが、その理由を話したこともない。


 なぜなら……



「オレは勇者だ……勇者の、カイゼ・ヴァーミリアの記憶もある。なのになんで、こんなことに……」



 幼い少年の呟きを拾う者は、誰もいない。


 ユークドレッド・ボンボールドが魔王になりたくない理由……それは、勇者カイゼ・ヴァーミリアの生まれ変わりであるからだった。

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