表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誘うモノ

作者: ぶるどっく

 

「……あちぃ、うぜぇ、やかましい、アイス食いてぇ……」


 ジリジリなどと言う表現では生温い、生気も吸い込まれそうな青空の真ん中で憎ったらしいほどに輝く太陽。


 何処までも広がる青空と緑が眩しい山との境目には大きな入道雲が見える。


 ミーンミーンと、耳を塞いでも聞こえる気がする蝉の鳴き声に、身体中から吹き出す汗も手伝って苛立ちを増強させていく。


 汗が滲んだティーシャツの首元を少しでも風を起こして涼を得ようとするが、蒸し暑い湿気を含んだ微かな風では焼け石に水だった。


「……本当に暑いね……。

 前田君、私もアイスが食べたい……コンビニの抹茶ティラミスが食べたい……」


「佐川……俺はピーチヨーグルトが良い……」


 中肉中背という訳ではないが、何処にでもいる普通の男子大学生と、暗めの茶髪をアップにした女子大生の二人組。


 暑い、暑い、と冷房も無い、人気も無い、更に言うならば小さな屋根しか無い、無い無い尽くしの駅の待合室で二人は暑さに溶けかけていた。


「お〜い、(あきら)、真奈美!

 あっちにバス停あったぜ!」


「ちょっとー、拓也っ!

 あたしを置いて行かないでよっ!」


 そんな炎天下の小道を暑さなど物ともせず、駅の待合室で暑さに白旗を上げている二人組の元へ走って駆け寄ってくるのは、晃と真奈美と呼ばれた二人の大学の友人だった。


「んあ?

 おー、わりぃ、わりぃ、亜弥!

 ワザとじゃないから許してくれよ!」


 駅の待合室に入って来た拓也と亜弥の二人は、じゃれ合うように小突き合いを開始する。


「……馬鹿ップル、うぜぇ……爆発しろ……」


「……どう、どう、前田君。

 亜弥ちゃん、ありがとう。

 バスはすぐ来る感じかな?」


 いつもの如く始まった拓也と亜弥の馬鹿ップ……恋人同士による体感温度が上昇しそうな掛け合いに晃は顔を顰めて悪態をつき、真奈美は苦笑した。


「ちょっと、前田君!

 馬鹿ップルはやめてって言ってるじゃん!」


 真奈美よりは明るめのショートヘアの亜弥は、勝気な口調で晃へと抗議する。


「ほんとのことじゃん。

 なー、そうだろう、拓也。」


「んー、間違っては無いな!

 俺は亜弥が大好、ブホォ!?」


 俺と亜弥は相思相愛だから!、と明るく笑う拓也に、顔を赤くしてた亜弥が抗議の肘鉄を入れた。


「あーあ、また始まっちゃった……」


「……くそうぜぇ……」


 馬鹿ップルの夫婦漫才から思考を逸らすように、皮膚を容赦なく焼く太陽の光を感じながら晃は“こんな”場所にいる理由を思い出すのだった。




 九州のそこそこ大きい田舎町から東京都内にある大学へと進学した晃は、三人の友人達と仲良くなった。


 入学式で初めて声を掛けて仲良くなった、お互いに地方から出て来た“黒木 拓也”。


 二人と同じ授業を偶然にも選択し、近くに座ったことが切っ掛けで仲良くなった“吉田 亜弥”と“佐川 真奈美”。


 二年生の夏休み、拓也と亜弥がネット上で見付けた田舎の民泊。

 二人の熱意と、真奈美も賛成したことで、押し負けるように行くことが決まってしまった。


「(……俺の地元より田舎……。

 幾ら地元が田舎と自負している俺んとこでも、コンビニくらいはあるっつーの。

 しかも、山じゃあ海と違って水着とか何の楽しみもねぇし。

 あー、何で来ちまったんだろう…………っ?)」


 暑さに茹る頭で考えていた晃は、何か小さな違和感に襲われた。

 感じ取った違和感は小骨のように喉に引っかかるが、何処までも広がる田園風景を前にどうでも良くなってしまう。


 しかし、暑さで茹だった頭を冷ますようにチリィン、と透き通った鈴の音がジーパンの後ろポケットから鳴り響いた。


「(……今時スマフォに鈴付けるのを強要されてるのなんて……俺くらいだよなぁ……」


 存在を主張する朱色の鈴が発する音に、絶対に外すんじゃ無いわよ!、と無理矢理に付けて来た姉の顔を晃は思い出し、げっそりとした表情を浮かべてしまう。


 年を重ねても変わらず地元の田舎町にいる四つ年の離れた姉、清香に滅法弱い晃。


 喧嘩でも、口でも、勝てた試しは生まれてこの方全く無かった。


 最後に会ったのは祖母が亡くなった年のお盆だが、その時に晃の意思など御構い無しに清香はスマフォに朱色の鈴を付けてしまった。


 清香(あね)の許可なく外せば何を言われるか分からない、と晃は鈴を外すことを早々に諦めていた。


「おーい、晃!置いてくぞ!」


 スマフォを手に持ち、存在を主張する鈴に意識を向けていた晃が気が付かぬ内にバスが来ていたらしい。


 バスの中や民泊の方が涼しいだろう、暑い待合室と言えないような場所にいるよりはるかにマシだ、と晃はスマフォを再びポケットに捩じ込み、バックを引っ掴んで、急いで友人達の後を追うのだった。






「この民泊は出るらしいぜ!」


「心霊スポット好きの人の間でも有名らしいのよ!」


 ガタガタと振動の激しい、冷房が全く効いていないバスの中で拓也と亜弥に告げられた言葉の内容に晃は物凄く不機嫌な表情を浮かべる。


「えっと……前田君、大丈夫?」


「…………」


 拓也と亜弥の言葉以降から不機嫌な晃へと真奈美が声をかけるが、晃は無言を返す。


 バスから降りて、歴史を感じる古民家風の民泊の立派な玄関の前に到着しても、入りたく無さそうに無言で立つ晃。


 晃の発する不機嫌なオーラを感じ取った拓也と亜弥は、逃げるようにチェックインに向かってしまった。


 玄関前に残されたのは八つ当たり先を失った晃と、どうしたものかと晃への対応を考える真奈美の二人だけ。


「前田君はそういうのは嫌いだったっけ?」


 真奈美が困ったように晃の様子を伺いながら首を傾げて再び声を掛ける。


「別に……嫌いも、好きも無い……。

 ただ、俺の婆ちゃんがそういう場所に遊び半分の気持ちで行くもんじゃ無いって、よく言ってたから。」


 不機嫌な理由は晃にとっては重要なことだった。


 それはある意味小さい頃から祖母に叩き込まれた約束のようなものを悪意は無くとも、破ることになってしまったためだった。


 去年亡くなった祖母の、九十近い年齢のくせに矍鑠(かくしゃく)としたピシャリと伸びた背中を晃は思い出す。


 死んだという知らせが届いた時……いや、今でなお晃は元気の良かった祖母が死んだとはどうしても思えないでいた。


 今際の際には間に合わず、既に心臓の鼓動が止まった祖母の冷たくなった遺体を前に、晃にはそれが良く出来た人形のような、作り物めいた物にしか見え無かったのだ。


 だからこそ、わざとでは無くとも祖母との約束を破ってしまったことを幼い頃のように叱られてしまう気がしているのかもしれない。


「そっか……でも、怖がる必要は無いと思うよ。

 私も小さい頃はよくコックリさんとかしてたけど、何にも怖いことなんてなかったよ。

 それに、亜弥ちゃん達は心霊スポットが好きで結構行ってるみたいだけど、何にもなくて無事だもの。」


「……まじかよ」


 友人達の知らなかった一面を今更知ることになった晃はその場にしゃがみ込んでしまう。


「えっと……意外だったかな?

 ……あ、チェックインは終わったみたいだよ。」


 晃の反応に対して、困ったように笑いながら頬を掻いていた真奈美だったが、視線を逸らせば拓也達が民宿の主人への挨拶を終わらせたことに気が付いた。


「…………」


 行きたくない、物凄く不服です、と全身で主張する晃だが、暑い外で野宿する気にもなれず、渋々と重い腰を上げ、荷物を担ぎ直す。


 嫌々ながら一歩踏み行った少し薄暗い古民家風の民泊の玄関先は、真夏の暑さで熱を持ち、汗で湿った身体には肌寒く感じる。


「(……田舎だからこそなのか?

 結構立派な作りだよな……)」


 数十年以上の歴史がありそうな黒い瓦屋根の平屋建ての一軒家。


 門から玄関までに続く石畳の周辺は、青々とした庭木が生い茂っていた。


 玄関の敷居を跨いで一歩進めば、今時珍しい大きな柱時計が振り子を動かしながら時を刻んでいる。


 昼間だから照明を点けていないためか、全体に薄暗く、人の気配も感じられなかった。


 そんな薄暗い玄関にある靴箱の上などには、何処か影のある日本人形などが飾られている。


「俺たちの部屋はあっちらしいぜ。」


「どんな部屋かな、拓也?

 噂の夜寝ている時に音がしたり、足を掴まれるっていう幽霊が出やすいって部屋なんでしょう?」


「足を掴まれるのは嫌かも。

 幽霊の手って冷たそうだし……。」


 ネット上に書かれていた幽霊の噂を話しながら、ワクワクとした様子で晃以外の三人は長い廊下を進んで行く。


「(……幽霊の出る宿の何が楽しいんだか。)」


 友人達の楽しそうな会話に晃は眉を寄せ、深々と溜息をついてしまう。


「(……今すぐ帰りてぇ……)」


 気が合うと思っていた友人達の今更知ってしまった絶対に相互理解することが出来ないと感じる溝に、益々憂鬱な気持ちが募って行く。


 そんな憂鬱な気持ちを抱えてしまったからか、晃の歩みは自然と遅くなり、楽しそうに談笑する友人達と少しずつ距離が開いて行く。


 いつもならば遅れまいと歩みを速める晃だったが、ふと窓の外へと視線を向けてしまう。


 視線の先には、自然なままに生い茂った庭が広がっていた。


「……風情があると言えば聞こえは良いかもな……」


 剪定作業などにあまり力を入れていないのか、生え放題の雑草、水草か藻のような物が大繁殖した緑色の池、伸びっぱなしの庭木。


 そんな庭と廊下を隔てるガラス戸から入る真夏の太陽の光に晃は目を細め、早くても明日の昼過ぎにならないと来ない電車が今から待ち遠しかった。


「(……あ……?

 めまい、か……?)」


 ……その時、一瞬晃は晴天に輝く太陽が陰った訳でも無いのに、視界が黒く染まった気がした。


 黒く染まった視界はすぐに改善し、目眩が起こった時に感じる独特の、あの世界が回るような浮遊感を感じることも無かった。


 だが、一度黒く染まった視界は元に戻ったはずなのに、目眩を境に何処か暗く、淀んでしまったように晃は感じてしまう。

 目眩の影響か、と晃は首を振って真夏の太陽に照らされた視界に戻ろうとするが効果は得られず、髪を利き手でクシャリと掴んだ…………


 その時、微かにチリィィ……ンと透き通った鈴の音が響き渡った。


「……?」


 自分の持っているスマフォに付いた鈴が鳴ったのかと、ズボンのポケットの上から押さえるが、微かに鳴った鈴の音の持ち主では無かった。

 どこから聞こえてきたのか、と訝しげに首を捻った晃の視界の端に見覚えの無い“(あか)”がうつる。


「……この家の子か?」


「…………」


 相変わらず薄暗く、淀んだままの晃の視界に映ったのは、まるで振袖のように艶やかで、美しい紅い着物に華奢な体を包んだ小学生になったばかりに見える年端も行かぬ少女だった。


「……あー……」


 晃は急に現れた少女に戸惑ってしまう。


 正直に言えば、その戸惑いには急に少女が現れたように感じただけで無く、どんな風に少女に対応していいか分からないということも含まれていた。

 従兄弟や親戚、姪や甥など、晃の身の回りに幼い子供などいなかった。

 姉はまだ未婚であり、晃自身が従兄弟の中では一番年下という立場だったのだから、幼い子供と接する機会など早々ある訳が無かったのだ。

 そのため、意味のない言葉の羅列を並べ、助けを求めるように周囲を伺うが、友人達は晃を置いて先に行ってしまったらしく誰もいなかった。


「…………」


 そんな晃の戸惑いなど御構い無しに淀みなく澄んだ大きな漆黒の瞳でジイッと、晃を見つめ続ける肩より上の黒いオカッパ頭の少女の髪に結ばれた朱色の鈴の存在に晃は気が付く。

 さっき自分が聞いたのは、この子の髪に結ばれた鈴の音だったのか、と晃は自分自身で気が付かない内にどこか安堵していた。


「えー……あー……か、可愛い髪飾りだな……?」


 取り敢えず、先に行ってしまった友人達を追いかけたいが、自分をジッと見つめる子供に無言で去ることも出来なかった晃は、何と言っていいか分からず思ったことを口にしてみた。


「ありがとう」


「お、おう。

 どう致しまして、か?」


 困ったように、取り繕うような表情で言われた晃の言葉に少女はにっこりと可愛らしい笑みを浮かべる。

 年相応の可愛らしい笑顔を浮かべた少女に、晃は一先ず泣かすことなく会話を交わせたことに内心では安堵した。


「ねえ、どうしてあなたはここにいるの?」


 どうにか泣かれずに話せた、とホッと一息を付いた晃へと少女は自分よりも年下の存在を幾つしむような大人びた顔で微笑む。

 しかしすぐに大人びた笑みを消し去り、真面目な表情で小首を傾げて晃へと問い掛けた。


「どうして……って、友達に一緒に良い感じの民泊があるから、夏休みは此処にいこう、って誘われたから……」


 晃は少女からの不思議な問い掛けに首をかしげる。


 ど田舎とはいえ、夏休みに民泊へと友人達と来る理由など旅行以外の何があるというのだろう、と。

 第一、一緒にいくことを了承していなければこんな場所に最初からいないし、友人達と一緒に旅行に行って遊ぶことに了承も何もない、と思う。


 だが、そこまで考えた晃は再び違和感に襲われた。

 その違和感の正体は掴ませず、探ろうとするとスルリと逃げるくせに、歯の間に挟まった異物のように存在だけは嫌になる程に主張して苛立ちだけを与えてくる。


「そう……。

 おともだちにさそわれたの。

 でも、それでもこんなばしょにきてはいけないのに。」


「…………」


 晃の答えに少しだけ考えるそぶりを見せた少女の発した、どこか諌めるような言葉に晃の眉間にシワがよる。

 子供に対して大人気ないと分かっているので、来たくて来た訳では無い、と晃は消えない違和感からの苛立ちも手伝い言い返したくなった言葉を我慢して飲み込む。


「ふふっ……ぶじにここからかえりたかったら、なにも口にしてはだめよ。」


 晃の不審そうな眼差しや言い返したかった心に気付いているのか、どうなのか…………少女はふわり、と微笑み、不思議な忠告を発した。


「…………」


 意味が分からない、と益々顔を顰める晃の反応など御構い無しに少女は嬉しそうに微笑み、踵を返す。


「……く…!……えだ……!」


 不審がる晃へと背を向け、歩き出す少女の背中に誰かの背中が重なる。

 その背中は晃のよく知る人のもので、どこか懐かしさすら感じてしまう。

 一体誰だっただろうか、と記憶を遡る晃の背中に微かな声が聞こえてきた。


「前田君!」


「……!?」


 思考の海にドップリと浸かり込んでいた晃はポンっと叩かれた背中にビクリと身体を震わせ、驚きと共に背後を勢いよく振り返った。


「……さ……がわ?」


「あ、あれ?

 そ、そんなに驚くほど、だったかな?

 何度も呼んだし、前田君が来ないから呼びに来たんだけど……?」


 驚き勢いよく振り返った先にいたのは晃を置いて先に行ったはずの真奈美だった。


「……わりぃ……ちょっと変な子供と話してて……」


「子供……?」


 自分を呼びに来たという真奈美へと軽い罪悪感を感じてしまう。

 早鐘を鳴らすように動く心臓を必死に落ち着けながら、謝罪の言葉とともに晃は少女のことを伝えようとする。

 ……だが、数分も目を離していた訳では無いのに、目立つ紅い着物の少女の姿はすでに何処にもなかった。


「……子供なんていないみたいだけど……?」


「いや……確かにあっちに向かって歩いて行ったはず……。

 それに、あんなに目立つ紅い着物を着てたし……」


 真っ直ぐに曲がり角なく続く廊下で紅い着物の後ろ姿を見失うはずがないと、晃は困惑してしまう。

 そんな困惑顔の晃の横で、紅い着物の女の子と聞いて真奈美が瞳を輝かせ始める。


「……もしかして、噂の座敷童子に会ったんじゃない!?

 なかなか会えないはずなのに前田君すごいね!」


「座敷童子……?」


 絶対そうだよ、と騒ぎ始める真奈美に晃は納得のいかなさそうな表情を浮かべた。


「そんな風には見え無かったけどな……」


 納得のいかない晃だが、本当に幽霊が出るんだ、とはしゃぐ真奈美に背中を押されて今晩泊まる部屋へと移動を開始する。


 スッキリとしない、モヤモヤとしたものを胸に抱えながら移動する晃は、いつのまにか視界が明るくなっていることに気が付く。


「(……マジで何だったんだ……?)


 視界が真夏の太陽の明るさを取り戻したのは僥倖だが、どんなに考えても答えの出ない出来事に、さらに憂鬱な気持ちを抱えながら、晃は割り振られた部屋を目指して歩いて行く。


 そんな二人の背中でチリィン……と再び鈴の音が微かに響くのだった。





 真奈美に案内されたのは、八畳間が二つ続きになっている古民家に相応しい部屋だった。

 一番目立つ床の間には花が生けられ、畳の微かな香りが鼻腔をくすぐる。


 そんな静けさを伴った和室には不似合いな喧騒が、部屋に入った途端に晃を出迎えた。


「うっそ!?

 前田君ってば早速出会っちゃったの!?」


「お前、凄えな!

 心霊スポットに何度行っても、俺達には何にも起きたことないぞ!」


 それはずるい、ずるい、と駄々をこね、子供のように騒ぐ拓也と亜弥だった。

 そんな子供のように駄々をこね、抗議の声を上げる二人に出迎えられた晃の米神に青筋が浮かぶ。


「ほう……拓也、吉田?

 今すぐにここで頭を握り潰されたい、と?」


 グワシッっという音が聞こえそうな勢いで、晃は拓也と亜弥の頭を手で鷲掴む。

 最早四人の中で週間伴っている行為に、拓也と亜弥は我が身に降りかかる次の展開を予測して逃げようと抵抗を開始する。


 しかし、その抵抗は既に遅かった。


「「ぎゃああぁぁっっ!」」


 掴まれた頭を襲うギリギリと締め付けられる痛みに騒いでいた二人は、晃の手から逃れようと抵抗しながら悲鳴をあげる。


「「ごめんなさあぁぁぁいっ!!」」


「あらら……えっと、前田君、どうどう」


 謝罪してもなお緩まることなく締め付けてくる痛みに耐えながら、拓也と亜弥は少し離れた場所にいた真奈美へと助けを求める。


「ちっ!」


 真奈美に宥めすかされて、晃は舌打ちしながら二人を解放した。

 解放された途端、痛みの元凶である晃からすぐさま離れ、神様、仏様、真奈美様〜!、と解放された拓也と亜弥は擦り寄っていく。


「…………」


 そんないつもの四人の馬鹿騒ぎに、晃は知らないうちに笑みがこぼれる。

 幽霊屋敷じゃなきゃ、もっと楽しいのにと晃は残念に思いながら窓の外へと視線を向ければ、いつのまにか窓の外は茜色に染まりつつあった。


「もう、夕方か……」


 昼過ぎに民泊に到着し、部屋に入ってからはそんなに時間が経っているとは感じ無かったが、四人で騒ぐことが楽しくて時間の流れを忘れていたのだと晃は思った。


「あれ……?

 もう夕方なんだね」


「ほんと、四人でいると時間が経つのが早いよな〜」


 窓の外を眺める晃の背後で、やっと頭部の痛みが和らいだのか、拓也と亜弥がしみじみと呟く。


「夕飯は此処の奥さんが準備してくれるんだって。

 いつもと違ってお菓子とか間食してないから、お腹減っちゃったね〜?」


「夕飯、何だろうなあ?

 やっぱさ、こういう時はカレーか?」


「カレーって……キャンプじゃあるまいし。」


「…………」


 夕食の献立について笑い合う真奈美、拓也、亜弥の三人の話の輪に晃は脳裏に蘇った言葉のおかげで入ることが出来なかった。


「(そういや……あの子供、“なにも口にするな”とか言ってたな。

 あれ、どういう意味だったんだ……?

 つーか、何も口にしないとか現実的に無理だろ。)」


 この真夏に水の一滴も飲まないとか、と考えた晃はふと気付いた。

 そう言えば、この田舎に来てから一滴も水を飲んだ覚えが無いな、と。


「(……俺、熱中症になりかけて無いよな?

 大丈夫か、俺?)」


「おーい、晃。

 何ぼーっとしてんだよ?

 夕飯をそろそろ食べに食堂に行こうぜ。」


 ぽんっと肩を叩かれた軽い衝撃で、晃は思考の海から連れ戻された。

 晃の肩を叩いたのは不思議そうな表情を浮かべた拓也だった。


「あ……?

 ……ああ、悪りぃな、拓也。

 ちょっとぼーっとしてた。」


 気が付けば茜色だった空はすでに藍色に染まり、あんなにも五月蝿かった蝉の鳴き声も鳴り止んでいる。

 電気を点けていない部屋は薄暗く、徐々に夜の闇に染まり始めていた。

 部屋の中を見渡せば、真奈美と亜弥の姿は見当たらず、おそらく先に食堂へ行ったのだろう、と晃は考える。


「おーい、まさか目を開けて寝てんのか?

 それか……もしかして体調でも悪りいのか?」


 心配そうな表情を浮かべ、自分の様子を伺う拓也へと晃は大丈夫だと笑う。


「じゃあ、飯は食えそうか?」


「ああ、大丈夫だ。」


 決して体調が悪い訳では無いが、昼間のあの猛暑日と言える暑さに参ったのか、晃は何となく身体のダルさを感じ、食欲も湧かず、あの違和感が消えることもなかった。

 だが、折角の夏休みを利用した仲の良い友人達との楽しい旅行で、多少の夏バテや体調の悪さで水を差したくない、と晃は思う。


「待たせて悪い、拓也。

 佐川達は先に行ったんだろう?

 俺達もさっさと食堂に行こうぜ。」


 だからこそ、何とも無いのだと笑いながら晃は立ち上がる。


「おー、気にすんな。

 それよりも、体調が悪い時は我慢せずにさっさと言えよ。

 お前、時々変に痩せ我慢するからなぁ。」


 普段通りに振る舞う晃へと拓也は苦笑いを浮かべ、無理をするなと肩を叩く。


「……おう、ありがとな。」


 旅行を楽しむことよりも、自分の体調を心配してくれる拓也の優しさが晃は嬉しかった。

 嬉しくて晃は笑みを浮かべながら拓也の肩を叩き返し、食堂へと二人並んで歩いて行く。


 ……所々に感じる違和感を深く感じないようにして。







「おっそーいっ!

 ちょっと、前田君!

 体調悪いなら今すぐに休まなきゃダメじゃん!」


「あらら……怒っちゃ可哀想だよ、亜弥ちゃん。

 前田君、ぼーっとしてたけど大丈夫?」


 玄関の近くにある居間を改造した食堂へと辿り着いた晃と拓也を待っていたのは、食事を食卓の上に並べ終わった亜弥と真奈美だった。


「心配掛けて悪りぃ。

 ちょっと暑さにやられちまってたんだと思うけど、もう大丈夫だから。」


 拓也と同じように自分の体調を心配してくれる亜弥と真奈美の言葉に、晃は苦笑いを浮かべて大丈夫だと答える。


「そっか……でも、あんまり無理しないでね。」


「そうよ!

 旅行なんてまた行けば良いんだから、体調悪い時は遠慮しないでよね。」


 大丈夫だと言う晃へとしょうがないな、と真奈美は微笑み、本当に大丈夫なの、と亜弥は目を細めて呟く。


「ははっ!

 本人は大丈夫って言ってるから、取り敢えず飯食おうぜ。」


 心配する女子二人の意識を逸らすためか、それとも自分の食欲を優先したのか、拓也が食卓の一角へと座り、食事をジッと見つめる。


「カレーじゃないかぁ……」


「……それ、本気で言ってたんだ……」


 食卓に並んでいる夕食は拓也が期待していたカレーでは無かったことに残念そうな声を出す。

 そんな拓也へと呆れたような微妙な表情で声をかける亜弥の姿に、晃と真奈美も苦笑いを浮かべてしまう。


 食卓に並んでいた夕食の献立、それは……


 人参や鶏肉、キノコなどが所々に顔を覗かせる薄茶色に染まった米粒が光る炊きたての混ぜご飯。


 民泊の主人が育てたのか、大きめに切られた様々な野菜が入った具沢山の味噌汁。


 山間の田舎ならではの渓流で釣って来たのか、木の串が刺さった大ぶりな川魚の塩焼き。


 真夏では誰もが知っているような有名な山菜は見当たらないが、それでも数少ない季節の山菜らしきものと一緒にサックリと上がった野菜の天ぷらからは湯気が上がっている。


 都会ではなかなか味わうことの出来ない山の幸満載の夕食に、晃は自分の実家を思い出した。


「カレーでは無いけど、すごく美味しそうだよね。

 こんなご馳走をせっかく作ってくれたんだから、熱いうちに食べさせて頂こう?」


「そうよ、拓也!

 どうしてもカレーが良いなら夕食抜きになっちゃうわよ!」


「うっ……べ、別にカレーがどうしても良いって訳じゃ無いぞ!

 俺は魚も、炊き込みご飯も、天ぷらも、ぜーんぶ大好きだからな!」


 女子二人からの言葉に狼狽えた拓也は、話題を変えるように頂きますっ!、と早速座布団の上に胡座をかいて炊き込みご飯をかき込み始める。


「うんめー!

 やっぱ、炊き込みご飯は良いなっ!

 こっちの味噌汁と天ぷらも絶品だぜ!」


 一口食べればその味に魅了されたのか、大口を開けて食べる速さを加速して料理かき込み始めた拓也につられるように、その変わり身の早さに顔を見合わせて笑った晃達も食事を開始しようとする。

 それぞれが味噌汁や炊き込みご飯などに手を伸ばしていく中で、晃も少女の忠告など忘れて川魚へと手を伸ばした。

 川魚特有の微かな匂いと立ち上る湯気を感じながら、一口齧ろうと晃が口を開いた時……チリィィ……ン、と微かに鈴の音が響く。


「(……また鈴が……)」


 魚を齧ろうとした口を閉じて晃が周囲を見渡すが、美味しい、美味しい、と笑顔で食事をする友人達以外の姿を捉えることは出来なかった。


「(何なんだよ、まったく……)」


 微かに聞こえた鈴の音は気のせいだと判断し、晃は友人達が美味しいと評価する夕食を共に味わおうと視線を手に持った川魚へと戻した。


「ひっっ……!?」


 だが、視線が川魚を、そしてその先にある食卓を写した瞬間に晃の喉から引きつった悲鳴が上がる。


「なっ……こ……っっ!?」


 なんだよ、これ、と叫びたくても、晃の喉は驚愕と恐怖に痙攣を起こし、その役割を果たすことはなかった。


 しかし逆に晃の眼球は正常にその機能を果たし、鮮明に目の前に広がる光景を脳へと伝えていく。


 ()()は日本という現代社会に生きる晃とは無縁の……あり得ないはずの光景だった。


 白い小さな蛆虫の山が欠けた茶碗に盛られ、共食いをしているのか、それとも何かを食べているのか、波立つように蠢いている。


 泡だった血の色の液体には害虫と人が認知している百足や油虫……様々な死んだ虫が浮かんでいた。


 天ぷらが乗っていたはずの皿は汚れ、鉄錆色に変色し、人間の指にしか見えない物や、刻まれた赤黒い臓物のような物が無造作に捨て置かれ、蝿が集っている。


 そして……晃が美味そうだ、と齧ろうとした手に持っていたはずの川魚の串には、黄色く濁った糸を引く粘液が滴る眼玉が数個。


「……っ……」


 生理的に受け付けぬ、背筋に悪寒が走る光景に悲鳴をあげることも出来ず、視線を逸らすことも出来ない晃。


 その慄える手で握っている川魚だったものの串に刺さった眼玉がぎょろりと蠢き、青ざめ、血の気の引いた晃の顔を覗き込んだ。


「ひっ!?

 うっ、うわぁぁぁっっ!!」


 粘液が滴る眼玉と視線が合ったことを切っ掛けに、金縛りにあったかのように恐怖で固まっていた晃の身体が動きを取り戻す。


 生理的嫌悪と恐怖に引き攣り、乾いた喉からやっと悲鳴を振り絞り、逃げるように晃は手に持っていた串を力一杯放り投げる。


「はっ、はあっはっ、げほっ、ぐっ……」


 恐怖で強張った身体を無理矢理動かして後退り、肩で荒い呼吸を繰り返せば、急に多量に入って来た酸素に肺が悲鳴をあげた。


 噎せて息が詰まりそうになる晃が激しい咳を繰り返し、少しでも呼吸を整え、全力疾走した後のような心臓の鼓動を落ち着かせようとする。


 額からだけで無く、一斉に全身の毛穴という毛穴が開き、溢れ出す冷や汗と、冷たくなった指先。


「なんなんだよ……いったい……」


 自分を襲った恐怖から解放され、か細い、慄える声を絞り出し、晃は背中を壁に預けて頭を抱える。


「まっ、前田君っ!?

 と、突然何を……って、顔色真っ青だよ!?」


「ちょ、おまっ!?

 あっぶねーだろ!?

 串が刺さりそうにって……晃、おまえ、どうしたんだよ!?

 すげー震えてるし、びっしょり汗かいてるし……」


「なにっ!?

 ちょっと、前田君!

 何してんのって……顔色すんごい悪いし、唇も紫色なんだけど!?」


 自分以外の驚いた声に抱えていた頭を上げれば、驚きから心配へと表情を変えていく友人達の姿があった。


「おれ……」


 友人達の変わらぬ姿に一気に脱力し、周囲を見渡せば投げ捨てられて床に落ちた川魚や、後退った時に溢した夕食の美味しそうだった炊き込みご飯や天ぷらが散らばっている。


 ……床の上に散らばった残骸……そこに、晃の見たはずの恐ろしい物は何一つ無かった。


 心配そうな表情を浮かべ、口々に晃を気にかける言葉を発する友人達の存在に晃は肺の中身を全て出し切るように息を吐き出す。


「……っ……。

 悪い、なんか俺、可笑しいみたいだ。

 気分も悪いし……部屋に戻って大人しく寝とく……」


 一瞬、自分が見たことを言おうか、少女の忠告めいた言葉を伝えようか、と思った晃だったが、友人達を不安にさせることもない、と晃は気分が悪いと告げるに留めた。


 いや、不安にさせる云々は言い訳かもしれない。


 晃は晃が見たあの光景を口にすることすら気持ち悪かった。

 友人達は晃が見たそれを聞いて信じてはくれるかもしれない。

 だが、今の晃の精神状況では万が一にでも頭がおかしいと、イかれていると、妙なモノを見るような視線を友人達に向けられるかもしれないことに耐えられ無かった。


 それに……安易に口を開いてしまうと、こんな曰く付きの民泊を探し当て、騙すように連れて来た友人達へ八つ当たりや文句を言ってしまいそうな自分を晃は自覚していた。


 だからこそ、晃は震える心を叱咤してでも、友人達に恐怖を語ること無く、一人で耐えることを選んだのかもしれない。


「おう……そうした方が良さそうだぞ。」


「そうね、すごく体調が悪そうだし……。

 やっぱり無理してたんでしょ?」


「前田君……。

 えっと、あとで民泊の奥さんが西瓜を切ってくれるって言ってたから、それだけでも持って行こうか……?」


 体調が悪いとだけ告げた晃に、微妙に納得のいかない表情を三人は浮かべるが、見るからに青ざめた晃を問い詰めることも出来なかった。


「ほんと悪い、三人共。

 佐川も、俺の分の西瓜は用意しなくて良いから。

 ……今はなんも食いたくない。」


 西瓜を持ってくる、と言う真奈美の言葉に、晃の脳裏にさっきの恐ろしい光景が蘇り、喉元を上がってくる苦い胃液を感じて口元を押さえる。


 背中に三人の心配そうな視線を感じながら、晃は早足で部屋へと戻って行くのだった……。







「うっ……?

 あ……俺……いつのまに……?」


 突然シャボン玉が弾けるように、晃が意識を取り戻す。


 周囲を見渡せば、布団を蹴やって大きなイビキをかく拓也に、少し離れた布団で小さな寝息をたてる真奈美と亜弥の姿があった。


「……お前のせいか……」


 夕食の席で騒動を起こし、完全に食べる気力も無くなり倒れるように布団に横になった晃。

 自分自身も気が付かないうちに、疲れ切った精神と身体はそのまま晃を深い眠りへと誘ったのだ。

 しかし、そんな晃の眠りを邪魔したのは隣に寝ていた拓也の酔っ払いのように大きなイビキでは無く、晃の腹の上にある太い腕だった。


「……ったく……。

 イビキだけじゃ無くて、寝相も悪いのかよ。

 ……拓也と結婚するかもしれない吉田が可哀想だな。」


 自分の腹の上を占領する拓也の腕を退かし、上半身だけ起こした晃。

 眠いのか 、眠くないのか、今ひとつすっきりとしない頭で、ただぼーっとする。

 そんな晃のいる小さな電球だけが照らす部屋の中にも、周囲に田んぼがあるせいかゲコゲコと鳴く蛙の鳴き声が聞こえて来る。

 その田舎特有の夜の音に自分の故郷を重ね、晃は少しだけ安堵を覚えた。


「(……あれは……なんだったんだ……?)」


 故郷を重ねたことで安心感を覚えたのか、晃はぼーっとする頭でこの民泊に来てから続く出来事について考え始める。


「(座敷童子って家に幸せを運ぶ的な感じだよな?

 だったら、あれは座敷童子じゃねえだろ。

 それに、何も食うなって可笑しいし……」


 夕食を口に運ぼうとした瞬間に響いた鈴の音。

 晃は無意識の内に夕食の一件も、駅からずっと続く違和感も、紅い着物の少女が原因だと考えていた。

 特に、美味しそうな夕食をゲテモノに変え、晃から食欲を奪った理由が分からず 眉間に眉を寄せてしまう。


「タチの悪い悪戯、か?

 それとも、俺を餓死させたい、的な……?

 だいたい……何で俺なんだよ……」


 幽霊が出ると好奇心から民泊を選んだ友人達では無く、異変を体験するのが何故自分だけなのか、と少女の目的が分からず、晃は理不尽さに大きなため息をついてしまう。


 確かに幽霊屋敷だとか、さっさとこんな場所から帰りたい、などと晃はこの民泊に来てから考え続けている。


 それがあの少女は気に入らないのだろうか……?


 あの少女は民泊を経営している、この古い古民家を大切に想っているからこそ、晃の侮辱するような考えが気に入らないのだろうか、とつらつらと思考を巡らせて行く。


「……意味分かんねえ。」


 どんなに考えても答えの出ない問題に、晃は頭を抱えたくなる。


「(……でも、明日までの我慢だ。

 明日の一番早い電車で帰ってしまえば、流石に追い掛けてまでは来ないはず。)」


 こんな意味の分からないことがこれから先もずっと続くなど精神的に耐えられない、と晃は心底感じていた。

 だからこそ、一番早くやって来る電車に飛び乗り、安全な我が(アパート)に帰りたいと心の底から思い、家に帰れば大丈夫だという根拠の無い考えだけが今の晃にとって唯一の救いだった。


「……?」


 ……だが、思考の海に沈んでいた晃は一つの小さな変化に気付いてしまった。

 その変化は小さいけれど、徐々に変化を増していき、明らかに()()()()()()()


「…………」


 背筋をジワリ、ジワリと蛞蝓(なめくじ)が這い上ってくるような嫌な感覚に、晃は部屋を照らす小さな電球の明かりだけを頼りに周囲を見渡し、その変化の正体を掴もうとする。


 真昼の残暑が残っていたはずのジッとしていても額に汗が滲むような室温が、晃には急に薄ら寒いように感じた。


 しかし、逆に滲む程度だった汗は一筋、二筋と、流れるような汗へと変わり、顔を伝っていく。


 晃は嫌な予感に苛まれながらも、必死に薄暗い部屋の中を目を凝らし、少しの変化も見逃さないように視線を向けていった。


 伝統的な床の間のある二間続きの和室。


 床の間には花が生けられた地味な花瓶と蚯蚓が這ったような書の掛け軸がある。


 二間を仕切っていた襖は外され、敷居の上にある欄間には鶴や松といった細工が施されていた。


 小壁には天狗や翁のお面が飾られ、薄明かりに照らされたお陰か、より一層不気味さを増している。


 そんな夜の和室の静音さを際立たせるように、周囲の田んぼから蛙を始めとした生き物の鳴き声が聞こえて……いなかった。


「蛙の鳴き声が……止んでる……?」


 無意識に胸元を利き手でギュッと掴んだ晃の身体中の毛穴からドッと汗が噴き出し始める。

 無自覚に速まっていく晃の鼓動と呼吸音が静寂の中で嫌に大きく聞こえてしまう。


 気が付けば簡単なことだった。

 目覚めた時はあんなにも鳴いていた蛙の声も、隣の布団で寝ている拓也のイビキも、全て消え去っていたのだ。


「お、い……たくや?」


 不気味なほどに静まり返った空間に耐えきれず、隣の布団で寝ている拓也を起こそうと微かに震える声で呼び、慄く手でもって揺さぶるが……目覚める気配など微塵も無かった。


「……っ!!」


 自分を取り巻く空気が完全に変化していることを理解した晃の全身の産毛が逆立ち、毛穴が広がり、多量の汗がさらに噴き出す。

 額から頬、顎を伝って流れ落ちて行く幾筋もの冷たい汗を拭う余裕もなく、このままでは不味いと脳みその奥がガンガン、と警鐘を鳴らす。

 生き残るための本能が晃の思考を奪い、その結果として深く寝入っている拓也を殴ってでも起こそうと拳を固める。


 ……だが、晃の行動はすでに遅かった。


 ずちゃり……、ぐちょり……、と水気を帯びた何かの音が微かに響く。


「ひっ……!?」


 明かりの灯っていない廊下と自分のいる部屋を遮る襖の向こう側から聞こえて来た音と、何かの発する(おぞ)ましい存在感に晃の背筋に氷塊が滑り落ちたかのように思わず小さな悲鳴をあがった。


 指先から徐々に熱が失われ、勝手に震え始める身体、ざあっと音が聞こえるかのように引いて行く血の気。


「あ゛……う……」


 カチカチと奥歯が鳴り、恐怖に支配され、まともに働かない思考。

 意味のない音しか発しない痙攣する喉。


「(あ゛、ああぁ……た、すけ……たすけて、助けてくれっ)」


 部屋から立って逃げ出すことも忘れ、ただ、ただ、恐怖に震える座り込んだ晃の元へ、ぐちゅり……、べちょり、と徐々に湿った音は近づいて来る。


 逃げたいのに逃げられず、叫びたいのに叫べない、目玉が落ちそうな程に見開き、襖を凝視することしか出来ない晃。


 どれ程そうしていたのか、べちょっ、と一際大きな音が響く。


「(いやだ……いや、いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!)」


 荒く、浅い呼吸を汗だくになりながら繰り返す晃の目の前にある襖がガタガタと音を立てて揺れ始める。


「(……ぅして……どうして俺なんだ!)」


 ガタガタと揺れる襖がいつ破られるのかと、怯える晃の心に恐怖を誤魔化すように小さな怒りが生まれる。

 その小さな怒りは、恐怖に支配された晃の全身を包み込む。


「ふ……んな……ふざけんなよっ!

 俺が何したっていうんだっ!!」


 恐怖を誤魔化すためにも晃は怒りに身を任せ、怒鳴り声を上げた。


「この家をバカにしたとでも思ってんのかっ!

 俺だって好きでこんな所に来た訳じゃないっ!!

 明日にはいなくなってやるから、俺に構うんじゃねえっっ!!!」


 肩で大きく息を繰り返し、飛び散る汗も無視して叫んだ晃の言葉に反応したのか、ピタリ、と激しく動いていたはずの襖が動きを止める。


「……はっ……はあっ……消えた、か?」


 荒い息を整えるために呼吸を繰り返し、激しく動いていたのが嘘のように静まった襖へ、晃は呆然とした表情を向ける。


「は、ははっ……なに、びびってんだか」


 肺の中に溜まっていた空気を全て吐き出し、額にびっしりと浮かんだ汗を乱暴に拭う。

 湿った音や襖を揺らす音も、悍ましい気配も消え去ったことに安堵し、乾いた笑い声をあげ、目元を手で隠し、自分のあまりの必死さに苦笑いを漏らす。


「ははっ……取り敢えず一安心、ってか?」


 数十秒……、数分が経過しても、底冷えのする悍ましい気配が戻って来ないことにで、張り詰めていた緊張が解けていく。

 喉元を過ぎ去った恐怖に強張った身体をほぐし、今日はもう大丈夫だろうと思った晃は身体の力を抜く。


 …………しかし、晃はそれが間違いだと気が付いてしまった。


 何故なら、周囲の“音”が何一つとして戻っていないのだ。


 その事実に思い至った晃の耳にガタガタっと小さな音が届く。


「あ……あ……」


 一旦安堵し気を緩めてしまった身体から再び汗が吹き出る。


「ふ……うあっ……」


 視線を向けてはいけないと分かっているのに……必ず後悔すると分かっているのに、晃の身体は意思に反してゆっくりと“それ”へと眼球を向けてしまった。


「っっ……ひ……ひっ……」


 ーーー眼が合った。


「っ……あ……ぐっ……」


 鼻に付く独特の臭いが開いた障子の隙間から強烈に香ってくる。


 大人の拳二つ分ほど開いた障子から覗く“それ”。


 “それ”は端的に言えば腐り、溶けかけ、爛れた、辛うじて人だったと分かる肉の塊だった。


 恐らく頭だった場所には溶けて腐り落ちた肉の合間に覗く、今にも落ちそうな変色し、濁った粘液まみれの目玉。


 べちょり……“それ”が動くたびに湿ったような音がしていたのは、溶けて腐りかけた肉の音。


 “それ”が通った後には蝿や蛆が集った腐肉が点々と落ちている。


「うっ……うあっ……」


 ーーーー視線を逸らしたいのに、逸らせない。


 恐怖に強張り、固まった身体は、晃の意思に従ってはくれず、引きつったように痙攣する喉からは意味のない言葉の羅列だけが漏れる。


「(う……う、ごけ、うごけっうごけっうごけっうごけ、うごけよっっ!)」


 恐怖に揺れる視線の先で湿った音を立てながら、“それ”は恐怖を煽り立てるように障子をさらに開け、勿体ぶるようにじわり……、じわり……、と近付いてくる。


 逃げなければと本能が叫ぶが、震えるだけの晃の身体は指一本すら凍りついたようにピクリとも動かない。


 べちょり……、べちょり……、と腐った肉の湿った音を立てて近付いて来た“それ”が、すでに唇とも分からぬはずの顔でにやあ、と嗤った。


「(……だれ、かっ……)」


 目玉が落ちてしまいそうな程に限界まで見開く晃の視界には、自分へと腐肉を落としながら手を伸ばしてくる“それ”の姿が映る。


「(…………たすけてくれ……っ……!)」


 目の前の恐怖に心が支配され、諦めが心を覆っていき、濃厚な死の気配に晒された晃は唯一動かせた瞼でギュウッと強く目を閉じた。


 ーーーー チ……ィ……ィン…………


「(………………?)」


 視界を閉じた晃の真っ黒な世界に微かな音が響いた。


 チリィィ……ィィ……ン……


 腐臭で穢れ、淀んだ空間に微かに響いた澄んだ音。


 チリィ……ィン……


 チリィィィィン……


 その澄んだ音が力強く繰り返し響き続ける。


 チリィィィィン!


 繰り返し響いた邪気を払う澄んだ音色が一際力強く響いた時、“ふわり”と優しい手の感触が晃の頭を撫でた。


「(……あ……)」


 その優しい手の感触を晃は知っていた。


 だからこそ、その感触に度重なる恐怖に疲れ切った晃の精神(こころ)は心の底から安堵し、そのまま意識は安らかな闇に包まれて行ったのだった……。








 ……ジリジリなどと言う表現では生温い、生気も吸い込まれそうな青空の真ん中で憎ったらしいほどに輝く太陽。


 ……何処までも広がる青空と緑が眩しい山との境目には大きな入道雲が見える。


 ……ミーンミーンと、耳を塞いでも聞こえる気がする蝉の鳴き声に、ただ立っているだけでも身体中から吹き出すはずの汗は一滴も流れることは無かった。


「…………」


 晃は一言も発することなく、無言で握ったスマフォの鈴を見詰める。


 あの古民家風の民泊で過ごした一夜で出会ってしまった“それ”。


 澄んだ鈴の音が響いたあと、晃は深い眠りに就き、つい先ほど目覚めたのだ。


「前田君、大丈夫?」


「……佐川」


「ははっ!

 電車が来るまで後少し時間があるからなー」


「……拓也」


「この先の神社で小さな夏祭りをしてるらしいわよ!」


「……吉田」


 あれ程の恐ろしい体験をしたはずの晃だったが、目が覚めた時からその心は凪いだ海のように静かだった。

 さっさと民泊を後にして、駅へのバスが到着するまでの間の時間をブラブラすることにした四人。


「ちょっと前田君の気分も良くなったみたいだし、折角だから夏祭りを覗いてみない?」


「おっ!良いねえっ!

 俺、ちょー賛成!」


「あたしも行きたいっ!」


「…………」


 晃は無言で真奈美達が足を向けた方向へと視線を向ける。


 真奈美達三人が指差す方には、目に鮮やかな朱色の鳥居が見えた。


 その鳥居の向こうには神社の境内が広がり、賑やかな祭囃子が鳴り響き、幾つかの屋台が軒を連ねている。


「前田君も、一緒にいこう!」


「晃もいこうぜ!」


「前田君、勿論いくでしょ!」


 朱色の鳥居に向かって歩き出した真奈美達三人は、早く、早く、と晃へと声を掛け続ける。


「…………」


 数歩離れた真奈美達が晃にはとても遠く感じ、覚悟を決めるように手の中のスマフォを強く握り締めた。


 ……あの優しい手の感触に、晃は気が付いてしまった、()()()()()()()()()()()


 ……そして、気が付いてしまった以上、真奈美達の手を取る訳にはいかなかった。


「…………っ」


 晃は奥歯音がなるほどに噛み締め、激情に耐える。


 ……言いたかった言葉、伝えたかった気持ちがあった。


 無情にも過ぎて行く時間に苦しみ、ただ、ただ、無事を祈ることしか出来なかった自分を、行くことを止めることも出来なかった自分を責めた夜もあった。


 同時に、何でだよっ!?、と怒りとも、悲しみとも言える言葉を叩きつけたい複雑な気持ちがあった。


 そう……どうして今更になって自分を連れて()()()とするのか?


 ーーどうして……どうしてっ、友達のはずの自分を苦しめる真似をするのか!


「前田君、どうしたの?

 ……私は前田君と一緒にいたいよ。」


「っ……!」


 様々な感情が入り混じり、激情となって心を乱す晃の視界に真奈美の控えめな、けれど眩しい笑顔が映る。


 その懐かしい、忘れることが出来なかった笑顔に晃は惹かれていた。


 ……晃はその笑顔の隣にいたいと思っていた、思っていたのだ!


 恋……と言うにはまだ小さい、けれども仄かに色付き始めた気持ちが晃の中に確かにあったのだ。


 だが、その仄かな気持ちが色付き、花開く前に……無残にも散ってしまい、すでにどうしようもない過去の物へと晃の中で変わって行くはずだった。


「前田君」


「晃!」


「前田君!」


 大学に入学してからの長いような、短い時間をずっと一緒につるんで、馬鹿をやって、笑い合った友人達。


 走馬灯のように流れる思い出に、変わってしまった彼らに……友人だと思っていた彼らに(いざな)われかけたその先に……色が白くなる程に握り締め、微かに震える晃の手。


 ……その手に静かに寄り添うように重なった手があった。


「……っ……!」


 その手の持ち主を晃はよく知っていた。


 幼い頃は力強かった大きくて優しい手。


 最期はシワが増え、小さく、冷たくなってしまった、優しかった手。


「……ばーちゃん……」


「晃」


 重なった自分の手に感じる優しい感触は、記憶の中の物と一寸の違いも無かった。


「晃……大切な友達でもあんたは一緒に逝っちゃいけないよ。

 あんたはまだ還れるし、待っている人もいるんだから。」


 紅い着物を着た少女の笑顔に、厳しくも優しかった祖母の笑顔が重なる。


「……佐川、拓也、吉田。

 お前達はもう……死んでたんだな。」


 祖母の助けを借りて、晃は悲しげな視線を真っ直ぐに反らすことなく真奈美達へと向ける。


 晃がずっと感じていた違和感、それは簡単なことだった。


 違和感の正体は晃以外の全てだったのだから。


「……あの年……拓也達が見つけた民泊に四人で旅行に行く予定だった。

 でも、俺はばーちゃんが旅行の数日前に亡くなって、一緒に行けなくなったんだよな。

 それで、お前達三人だけが予定通りに旅行に行って…………帰って来なかった。」


 去年、祖母が亡くなった同じ年に真奈美達三人は…………生死も分からない行方不明となってしまったのだ。


「お前ら俺には曰く付きの場所だって知られたく無かったから、行く先をあえて黙ってたんだな。」


 真夏の太陽も、青空も、蝉の鳴き声も、全てが遠ざかる。


 晃が言葉を重ねるごとに世界から色が褪せ、三人の身体が腐敗臭を纏い変化して行く。


「警察が介入して拓也と亜弥の部屋で見付かったメモで旅行先は分かった。

 でも、その村も、民泊も、何十年も前に潰れて、無くなったはずの場所だった。」


 朱色の鳥居も朽ち果て、祭囃子も聞こえなくなった。


「俺はお前達と一緒に逝けない。

 逝く訳にはいかない。

 ……俺を待ってくれてる人達がいるから。」


 気を緩めれば後退ってしまいそうになる身体を、歯を食いしばって耐える晃の目の前には変わり果てた姿の真奈美達がいた。


 その姿は昨夜見た“それ”と同じようなものだった。


 腐りかけ、変色し、腐敗臭を纏った悍ましい気配を放つ異形。


「……うっ……」


 大切だった友人達の成れの果てに晃は呻き、鼻や口元を腕で覆う。


 友人達だったモノは喉も腐っているためか声にならない声を上げ、唯一の生者である晃を逃すまいと溶け掛けた手を伸ばす。


「晃、あんたはもう還りなさい。

 あんたが逃げ切れるように、アレは私が引き受けよう。」


 チリン、チリン、と澄んだ音を響かせて、祖母が晃の前に出る。


「ばーちゃん、でも……」


「良いから早くお行き。

 男がぐだぐだ言うんじゃないよ。

 あとは、清香が上手くやってくれるさ。」


 あぶない、と引き留めようとする晃へと一つ微笑んで、その胸をポンと押す。


 軽く押されただけなのに、落ちるように遠ざかって行く清浄な光を纏う紅い着物の少女の姿に、真っ直ぐに背筋の伸びた矍鑠(かくしゃく)とした祖母の姿が重なった。


 ……それを最後に、再び晃の意識は闇に呑まれてしまったのだった。






「……っ……ぁ……」


 真っ白な天井が飛び込んで来る。


「……ぅぁ……」


 カラカラに乾燥した喉は上手くその役割を果たしてくれず、その上見慣れない天井に頭は余計に混乱する。


「やっと起きやがったわね、この大馬鹿野郎。

 事故った挙句、死んだばーちゃんにまで迷惑かけてんじゃないわよ!」


 知らないベッドに横になっている晃の側には、黒髪の気の強そうな女性がいた。


「……ぇー……ん……?」


 掠れた声で晃がねーちゃん、と不思議そうに呼べば、姉の清香が眉根をさらに寄せて大きなため息をついた。


「あんたは覚えてないでしょうけど……。

 バイクを運転してたあんたは車と軽くぶつかったのよ。

 それから数日あんたは眠り続けてたってわけ。

 感謝しなさいよ?

 この数日、私と母さんで付きっ切りで側にいてあげたんだから。」


 照れ隠しのように悪態をつきながら清香はナースコールへと手を伸ばし、ボタンを押して看護師を呼ぶ。


「……ぁー……ちゃん……ぁ……」


 晃は寝起きで働かない頭でぼうっと清香の行動を見詰めながら、ただの怖い夢とは決して思えない出来事を思い起こす。


「言っとくけど、夢じゃないわよ。」


「……!」


 晃の思考を読んだように静かな声音で 清香が告げる。


「昔から守らなければならない、侵してはならない、領域ってものがお互いにはある。

 生と死、この世とあの世……その境界線は明確なようでいて、曖昧なものよ。

 関わらないように、侵さないようにすることで、守られる、繋がることのない(えにし)がある。

 それなのに、多くの人間はそれを忘れてしまった。

 遊び半分の軽い気持ちで簡単に“彼方”へと自ら近付いていく。

 死者の領域を侵した以上、何があっても、どんな結末を迎えても、文句は言えないわ。

 あんたの友達は下らない好奇心を満たすためか、悪趣味な遊びのつもりだったのかもね。

 ……でも、そんな言い訳が通用するはずないじゃない。

 だからこそ、関わり合わないように領域を、境界線を定めるのよ。」


 清香は近付いてくる足音に、ゆっくりと椅子から立ち上がり病室の扉へと向かう。


「でもね、なかにはタチの悪いのがいる。

 ……そういう奴らはね、引っ張るの。」


 晃は背中にぞわぞわと虫が這い回るような悪寒を感じる。


「下らない好奇心や悪趣味な遊びを繰り返して、彼方の領域に攫いやすい、引き摺り込みやすい…………人間(えもの)を、ね。」


 病室から出て行く清香と入れ違いに看護師達が入ってくる。


 気忙しく問い掛けや、血圧を測り始める看護師達。


 夢が夢では無かったのだということに、生きている安堵と危なかったのだという恐怖を改めて感じる晃の耳に、微かな澄んだあの鈴の音が響いた気がしたのだった…………。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 投稿お疲れ様ですm(*_ _)m 夏場にあったホラーチックでありながら和風な感じで面白かったです [一言] 作者さんはTRPGを知っていますかね?何故かTRPGシナリオをしているような雰…
[気になる点] どこかで聞いたような筋書きだな、出だしが若干冗長かなと感じました。 [一言] ただ、それらを補ってあまりある程に、山場のたたみ掛け方が上手い、とも思っています。 「どこかで聞いたような…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ