Chapter2-11 行方不明の男
正午を僅かに過ぎた頃、ウィータン航空宇宙局の廊下をトレヴァースが歩いていた。
褐色の肌に細長く伸びる尻尾といったなりをしたウィータン人達のコミュニティにおいて、地球人の姿をした彼の見た目はよく目立つものではあるが、彼の周りを歩く者達は誰もそれを気にしていないようである。滞在日数が重なるにつれその存在は周囲に馴染み、今となっては彼に好奇の視線を向ける者はいなくなっていた。
また一方で、ウィータン航空宇宙局内にいるウィータン人達も忙しく動き回っているようであった。その理由は、惑星を飛び出し宇宙へ向かった探査船から届けられた報告にあった。
小惑星帯の中で見つかった、遥か昔の宇宙船と、周辺に散らばる人工物の残骸。
ウィータン人のルーツを探るための惑星外探査はその一歩目にして特大の遺物を闇の中から照らし出したのである。
廊下を進むトレヴァースは時折足を止めては、辺りを見回している。
何かを探すような素振りの彼は、顔を振るたびに当てが外れたような様子で眉を顰め、そしてまた歩き出すということを繰り返した。
胸のあたりに何かが当たったのは、彼が廊下の突き当りを曲がろうと差し掛かった時であった。小さく声があがり、トレヴァースは誰かとぶつかってしまったのだとすぐ理解した。
「すまない! 大丈夫か?」
「ええ、ごめんなさい。そちらこそ、平気?」
視線を落とした先に立っていたのは、ウィータン人の女流科学者クロラであった。
トレヴァースが彼女に気付くのと同じくして、クロラの方もぶつかった相手の正体を認識したようで、彼女は「あら」と声を漏らした。
クロラが崩れた姿勢を正すと、二人が廊下で向き合う構図となった。
身長の違いから、クロラはトレヴァースを見上げるかたちとなり、眺める視線は自然と上目遣いになる。
「センサーも積めばいいのに」
クロラが乱れた髪を手で直しながら言った。
「センサーなら、もう積んでいるはずだが」
「なら不調のようね」
「今朝のメンテナンスでは、異常は無かったけれど」
トレヴァースが言うと、クロラは呆れた顔をしてため息をついた。
「皮肉のつもりで言ったの。本気で受け取らないで」
クロラは言った。
「皮肉……。ああ、つまりジョークというやつ」
「──何か探し物?」
トレヴァースの言葉を遮るようにクロラは尋ねた。
彼女が不機嫌そうな顔をしている理由はトレヴァースにはよくわからなかった。
「エイジャックスを見なかったかい?
実は小惑星帯で見つかった宇宙船のことで話が……」
トレヴァースが事情を話し始めると、クロラは眉を顰めて手のひらを前に突き出した。
それを見たトレヴァースは戸惑いながら言葉を切る。
「人の話を随分と遮るね」
トレヴァースが言う。
しかし彼の抗議はクロラの顔色一つ変えることもできずに無視された。
「ねえ。私はてっきり、あいつはあなたのところにいるものだと思っていたのだけど」
「それならこんなに探し回ったりしないさ」
「ああ、最悪…!」
突然頭を押さえて悪態をつくクロラ。
それからどこかへと向かおうとする彼女を、トレヴァースは思わず引き留めた。
「ちょっと待ってくれ。もしかして、君も彼のことを?」
トレヴァースが言うと、クロラは半身で振り返って頷いた。
「胸騒ぎがしたのよ」
「嫌な予感というやつ?」
「ええ、そう。探査船が出発した日とまったく同じ感覚だわ。
それであなたが彼の居場所を把握しているか確認しに行くところだった」
トレヴァースはクロラの言葉を聞いて、今回の宇宙探査任務に際しエイジャックスが一時倉庫に監禁されたという話を思い出した。
「僕も一緒に探すよ」
「そう? 助かるわ」
トレヴァースの提案をクロラはあっさりと受け入れると、そのまま背を向けて駆け足で廊下を進んでいった。
「どこから探す?」
クロラを追いかけながらトレヴァースが声をかけた。
クロラは少しだけ考えてから、口を開く。
「絶対に行ってほしくない場所から」
「了解した」
走りながら短く言葉を交わす。
二人は格納庫への最短経路を辿り始めた。
しばらくぶりです。
いつも足を運んでくださりありがとうございます。
次回更新は7月17日午前2時ごろの予定です。
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/脳内企画@demiplannner




