Chapter2-1 探査船から見える景色
数十名のウィータン人を乗せた大きな探査船はひたすらに真っ暗な世界を進んでいた。
既に惑星ウィータンを出て四日ほどが過ぎ、船は遥か彼方に見える物言わぬ星々に見守られながら、特段の異常も無く航行を続けている。
恒星の光が届く船体の側面に、大きく描かれたウィータン航空宇宙局のエンブレムが浮かび上がる。
そのすぐ横には円形の窓が取り付けられており、窓の内側では男性士官のクエリが外の景色を眺めるように佇んでいた。
クエリは宇宙のどこかにあるとされる旧ウィータン人の拠点跡を見つけるため、惑星外調査任務にアサインされた者の内の一人であった。
彼はちょうど昨日頃から、暇さえあれば船内にある共有スペースの窓に取り付き、外の様子を観察している。
たまに手元の時計に視線を落としては、またきょろきょろと探査船の周囲を見回していた。
探査船は既に惑星ウィータンから一番近い小惑星帯に進入しつつあった。
「よう、何か変わったものでもあったかよ」
クエリが窓の外を眺めていると、不意に背後から誰かの声がした。
振り返ると、ちょうど部屋の中へ入って来た顔馴染みの男性士官と目が合った。
二人とも年齢が近く、よく会話をする間柄である。
親しい相手がやってきたとあって、クエリは窓の外に向けていた体をひねって振り返った。
男はクエリのいる方へ歩いてくる。
「そういやあ、そろそろ小惑星帯に入った頃か。
クエリ。お前、何ぞ面白い形の岩でも見つけたか」
相手の士官はそう言いながら笑い、近くにあった椅子に雑に腰かけた。
「そんなんじゃないよ。
まあ、見つけたいものがあるってのは当たっているけどね」
クエリは言った。
それを聞いた男は、そうかい、と肩をすくめた。
「…ああ、わかったぞ。
さてはお前、一番に目当ての拠点を見つけようって腹だな?」
企み見抜いたり!
どうだ、今度こそ当たっただろう、とでも言うように、男はクエリを指さして言った。
しかし彼の期待に反してクエリは首を横に振るばかりであった。
「なんだよ、違うのかよ」
男はつまらなそうに肩を落とした。
「拠点跡の座標はしばらく先って話さ。
この辺りじゃあまだきっと見つからないよ」
クエリはそう言って、また窓の外に顔を向ける。
「じゃあ何を探してるってんだ?」
男は椅子の背も足りに深く体を預け、天井を仰ぎながら言った。
既にクエリの胸中を探る努力を放棄したのだろうか、適当な様子で彼は尋ねた。
「ワームホールだよ。
ほら、僕達のボスが言っていたやつさ」
クエリ自身も相手の様子がわかっているのか、窓の外を向いたまま、振り返ることもせずに言った。
「ワームホール……。
ああ、あれって、この辺りだったのか?」
「資料を読む限りはね。
ウィータン近くの小惑星帯で、ちょうど今回の航路からもそう外れてはいない場所だったはずだよ。
せっかくだし、直接見たいなと思ってね」
「ふうん……」
男は一応腑に落ちたような返事をした。
それから彼は椅子から立ち上がって、クエリの隣まで近寄った。
「で、どのあたりにありそうなんだ?」
クエリの横で窓の外を覗きながら男が言う。
「うーん…たぶん、あっちの方じゃないかな」
クエリは窓の外、ちょうど探査船が進む先の方向を指さした。
二人は黙ったまましばらくその場に立ち尽くし、窓から見える景色を眺め続けた。
「あ!」
男が声をあげる。
「おい、あれじゃないか!?」
男は隣にいたクエリの方を掴んでぐいぐいと揺らした。
ちょうどクエリも同じように声をあげるところであったが、男に振り回されたせいで変な声を漏らすことしかできなかった。
今、彼らの視界の先に、異様な光景が入り込んできた。
探査船から真っ暗な宇宙空間のある一部分が不自然に歪んでいたのである。
ワームホールは何の前触れも無く、突然ただそこに現れた。
重力の影響なのか、何故そうなっているのかは見ただけではわからなかった。
わかるのは、その歪みの内側には一つとして星の姿は無く、ただ完全な黒色が存在することだけである。
その色、形、大きさ、どれをとっても不気味で恐ろしいもののようにクエリは感じた。
エイジャックスが連れ帰ったトレヴァースというサイボーグは、あの穴を抜けてやってきたという。
クエリは自分が以前に基地で聞いた情報を思い出し、眉を顰めた。
探査船が進むにつれ、窓から見えるワームホールは徐々に大きくなっていく。
クエリは宇宙の中にぽっかりと開いた穴に見入っていた。
よくあんな場所に飛び込もうと思えたものだ、とクエリは本心から思っていたのだった。
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次回更新は4月12日午前2時ごろの予定です。
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