Chapter1-31 辻褄の合わぬもの
見つかった遺骨の中に地球人が混ざっていたことは間違いなかった。
では、なぜ母星から銀河系以上の単位で遠く離れたウィータンに彼らがいたのか。
そしてその由来や素性はどういったものであろうか?
地球を離れワームホールを突破した人類の存在について、トレヴァースが把握している情報の中で該当しそうなものはたった一つの例しかなかった。
それは彼が地球全土を巡ってようやく見つけたものであり、過去の人類の状況を考慮しても同じような存在が他にいたとは考えにくく、今回見つかった地球人の遺骨の正体が、そのワームホールを抜けた者達の誰かである可能性は高いと思われた。
「ふむ、ウィータンを訪れた地球人が既にコスモリアンと対立していたのなら、彼らが旧ウィータン人に協力的であったのは頷ける話じゃないか?」
椅子に腰かけていたウィータン人技師が言った。
するとそれを聞いた別の誰かが「ちょっと待ってください」と手を上げて発言する。
「それなら、地球人は彼らの星を発った後、ワームホールを抜けた先で再びコスモリアンと鉢合わせしたということになりませんか?」
挙手をしたままウィータン人の男性が尋ねる。
「以前の意見交換では、ウィータンを追いやられたコスモリアンがワームホールを通り地球へ向かったのではないか、という話があったかと思います。
今おっしゃった時系列で言うなら、コスモリアンがウィータンに残っているのは矛盾していませんか?」
彼はそのまま言葉を続けた。
それを受けたウィータン人技師は眉を顰めて首を振った。
「おいおい、それはあの場での推論の一つだったはずだ。
それに事実がそうだったとして、矛盾しているとも限らんよ。
旧ウィータン人がこの星を毒で満たし、コスモリアンを追いやったにしても、彼らの残党がいた可能性だってあるだろう?」
「……いえ、それでもおかしいですよ。
地球にコスモリアンが現れている以上、この基地での出来事は全てコスモリアンがウィータンを追いやられた後になって起きたことだと考えることができます。
つまり、時期としてはコスモリアンが立ち去るほどの毒素がウィータンに撒かれてからということになるはずです。
しかしこれではどうも辻褄が合いません」
会議室がにわかに騒がしくなる。
誰かが疑問や意見を提示すると、瞬く間にあちこちで議論が噴出していった。
あるところでは、遺骨が見つかった基地の最奥部分が地下にあり、さらに隔壁で密閉されていたことから、基地の出来事と外の毒素を切り離して考えられるのではという意見が出た。
それは基地の兵士たちが毒素を撒いた当事者であり、安全な場所への逃げ道を放棄した彼らは地上に残っていたコスモリアンを道連れに基地の中で最後の瞬間を過ごしたのではなかろうかという考えである。
もっとも、その意見も結局は地球人の存在によってすぐに否定されてしまった。
ワームホールを抜けてきたコスモリアンの襲来を経験している以上、地球人がウィータンにいるとすればそれはウィータン人とコスモリアンの戦いが決着した後ということに他ならないのである。
旧ウィータン人を襲ったコスモリアンと地球人を襲ったコスモリアンが同一の存在であると考える者達はこの時間軸の牙城を崩すことが出来ず、唸るばかりであった。
次いで名乗りをあげたのは、コスモリアンの同一論を否定する一派であった。
彼らは地球の近くに現れたコスモリアンがウィータンとは全く別の領域からワームホールを通ってやって来たのではないかという、コスモリアン別個体論を主張した。
地球に現れたコスモリアンに全くウィータンについての情報が見られなかったということも、彼らをこの状況において活気づけているようである。
ただし彼らの主張はコスモリアンという種が生き物の知覚を遥かに凌駕する広さの宇宙において圧倒的な勢力圏を持っていることを認めなければならなかった。
それを否定する決定的な要因はなかったものの、その場にいる者を説得するだけの効力を持つ証拠も見つかってはいなかった。
コスモリアンがそれだけの規模を誇っていたにもかかわらず痕跡すら見つかってはいないのは妙であるなど、同一論の信奉者らに隙を突かれた別個体論の一派は、それは現状の調査不足からくるものであり、今後調査を進めれば裏付けるような発見があるだろうとして同一論者らの追求をあしらっていた。
白熱した言葉があちこちを飛び交っている。
いつしか会議室は研究班の報告会から討論の場へと変わってしまっているようであった。
討論が長引くにつれ、参加者らの様子を眺めていたクロラはその顔に苛立ちの色を募らせていった。
彼女は溜息をついて、スクリーンを操作する端末で手元の机を打った。
乾いた音が数度部屋の中に響く。
それに気づいた者達がはっとした様子でクロラの方を振り返った。
「遺骨の正体や当時の状況を確定させるには、いささか情報が足りないわ。
あなたたちには別の拠点を調査してもらいたいの」
クロラは辺りを見回しながら言った。
「別の拠点?」
誰かが首を傾げて呟いた。
クロラはそれを聞いて頷いて見せた。
「基地がまだ使われていた頃の通信記録の発掘に成功したのよ」
クロラはそう言うと、手に持ったリモコンを操作してスクリーンの内容を切り替えた。
惑星ウィータンを中心とした星系図が大きく映し出される。
また、星系図上には何やら光る点が複数個所に追加されていた。
それはの光点は全て、通信記録から割り出した旧ウィータン人の拠点座標であった。
次回更新は4月6日午前2時ごろの予定です。
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/脳内企画@demiplannner




