Chapter1-24 ウィータンの伝統
発射筒のある施設の敷地の内側に参列者たちの列がその最後尾まで完全に入り込むと、辺りに響く音楽はより賑やかな調子へと移行していった。
しなやかに音を伸ばし、時折おどけたように弾かれる弦楽器。
一定のテンポで脈打つようにリズムを刻みつつも、その場にいる者たちを煽るように響く打楽器。
そこに着膨れする不思議な衣装を身に纏ったウィータン人たちが体を舞わせながら軽やかに吹き鳴らす笛の音が重なる。
様々な音色が合わさり、心地よく空気を揺らしていた。
気が付けば参列者の数は当初見かけた頃の数よりも大きく増えていたようで、見学と思わしき様子の者達の姿もちらほらと確認できる。
トレヴァースはそんな風にあちこちをきょろきょろと見回しながら、再び視線を目の前に戻した。
視線の先から、あの年老いたウィータン人が近づいてくる。
老人はトレヴァースの前までやって来ると、彼に発射筒の操作を頼み込んだ。
隣に控えていたエイジャックスの言葉によると、この場にいる者達は皆あの発射筒を使って個人が旅立つ様を見送りにきているのだという。
発射筒を使うということはつまり、故人を打ち上げるということだろうか。
トレヴァースが尋ねると、エイジャックスは頷いた。
「亡骸をだな、勢いよく打ち上げるわけだ」
ほらあの筒の先を見てみろよ、とエイジャックスはそう言って、上の方を指さした。
エイジャックスが指示した方向をトレヴァースが振り向く。
コロニーを形成する地下空間の天井部分に繋がる、発射筒の上端が見えた。
「あの発射筒の中を通り、そうして地上へと飛び出すが、しかし、まだ速度は落ちない。
エイジャックスはそう言いながら指を発射筒の軌道に合わせて上に向けて動かす。
「打ち上げられて、最後には宇宙に到達し、旅が始まる」
「そこまで行くのか?」
エイジャックスの言葉から情景を浮かべていたトレヴァースが、振り返って尋ねた。
「あの中を通るのは砲弾というよりも、小型のロケットに近いものでね。
実はこれ、それなり以上に古い歴史があるんだぜ?
俺達が持つ歴史の一番古い年代の資料にはもうこの方式が根付いていたんだ」
エイジャックスが言う。
「先祖たちがいる世界へ導くために、地下へ逃れたウィータン人達が始めただとか、由来としては色々な説があるがね。まあ今となってはよくわからないんだが。
「しかし君たちは地下にいながら、旅の目的地が宇宙に向けられているということは知っていたんだな」
トレヴァースが尋ねる。
すると「燃料の量が明らかに過剰だったんだ」とエイジャックスは答えた。
「地上を目指すだけならばロケットのような機構すら必要ないはずなのに、俺達に伝わるやり方は明らかにもっと遠い場所を目指そうとしていたんだよ」
エイジャックスはそう言って肩をすくめた。
「過去との繋がりが途絶えてしまうのが怖かったんだと思うよ。
由来は流れてしまったとしても、形式だけは残り続けることができたというわけさ」
「そんな儀式を僕が預かっていいのかい?」
「宇宙から来たお前が、ウィータン人を宇宙に導く。
ゲンを担ぐにしちゃあ悪くないと思うぜ」
エイジャックスの言葉を聞いたトレヴァースは「そうなのですか」と傍にいた老人に尋ねる。
老人は微笑みながら頷いた。
どうやらエイジャックスの言っていることが正しいらしい。
それから少し考えて、自分が求められているのなら、とトレヴァースは老人の依頼に応じることにした。
次回更新は3月15日午前2時ごろの予定です。
Twitterで更新情報など出してますので、よかったらどうぞ!
/脳内企画@demiplannner
 




