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Chapter1-21 彼らの欲求


 ウィータンの一般市民たちの間では、トレヴァースについてより多くのことを知りたいという声が依然として高まっていた。彼らの内にあらぬ風聞が蔓延することを恐れたウィータン航空宇宙局は会見を行うことを計画し、その提案がトレヴァースに受け入れられたことには、まさに胸を撫で下ろすような気持ちであった。


 それからというもの、会見の担当となった者達はありとあららゆるセッティングに奔走することとなった。基地での意見交換会と同じく、惑星外より現れた存在との対話に関わる案件はこの時あらゆる事柄において優先されていたのである。


 そんな風に一丸となって物事が進められていく中で、会見に使用する会場の選定が難航する一幕もあった。というのも、トレヴァースを是非迎え入れたいと申し出る会場のオーナーがいつまでも後を絶たなかったためである。


 会見担当者らは各会場オーナーら直々のプレゼンテーションの全てを聞くために、想定以上の時間を割くことなった。会場の広さから大勢のウィータン人が快適に集まれることをアピールする者、広さは無いものの贅を尽くした内装で来場者全ての高いの満足を狙う者、窓から見える景色、主要交通機関からのアクセス、ウィータン人の歴史的イベントに見合う格式等々、各会場ともに自らの長所の売り込みに全力を尽くしているようであった。


 人的キャパシティや備わる設備、それに加えてあらゆる方面から会場を公平に審査し、会見担当者らがようやく会場を決定すると、今度は彼らの下にまた違うウィータン人が押し寄せた。


 現れたのは料理、工芸、服飾等々を始めとするウィータン中の職人達であった。彼らはどうにかしてトレヴァースをもてなすことができないかと口々に志願した。会場選定で目まぐるしく動き回っていた担当者らが、トレヴァースにウィータン人の風俗や加工品を紹介するのもよかろうと準備期間の初期に公募を発表し、その応募開始日がちょうど今日からだということに気付いたのはちょうどこの時であった。会見担当者らが自席を片時も温められることができぬ日々は、それからまだしばらくの間続くこととなった。





 トレヴァースとウィータン航空宇宙局職員らが開く会見はウィータンの大地の遥か地下にある最大のコロニーで行われた。


 会場には多くの者達が集まり、入場できなかった者たちのためにと無線通信ネットワークを介しての中継なども行われている。会場の規模や設備の充実度などどれも申し分のないものであった。会見最初のスピーチでは、準備に明け暮れた会見担当者らの貢献と、周囲から寄せられた多額の寄付に対する謝辞がまず述べられ、その言葉は会場に集まった全てのウィータン人による拍手の雨に受け止められた。寄付の主の多くは、諸事情により惜しくも選考から漏れてしまったウィータン人たちであった。


 会見の基本的な進行は、エイジャックスを中心としたウィータン航空宇宙局の局員とトレヴァースによる対談形式でもって行われた。先に交わされた意見交換会とは違い、ここではウィータンにやってきてからトレヴァースが見聞きしたものについての感想を主に聞くなどしている。


 会場に集まり直接彼らの話を聞いていたのは、ウィータン人の学生達であった。


 どれだけ広い会場を用意しようとも、そのキャパシティを上回る応募が届くだろうということは容易に想像できたことである。一般参加者選別というトラブルの引き金として一流の課題に対し、会見担当者らは会場に招致するのは各学校からの学生選出者とし、その上で会場外に届く中継の質を可能な限り向上させるという落としどころを用意した。


 この会見準備がネットワーク技術の先端的実験として機能し、後に会見の日付が無線通信技術のロードマップにおいてある種ブレイクスルー的記念碑として永遠に刻まれることとなるだろう、と設営に携わった者の誰かが呟いた。


 エイジャックスとトレヴァースの親し気な会話は会場を大いに盛り上げていた。彼らは時折学生からの質問を挟み、それに対してトレヴァースがエイジャックス流のくだけたウィータン語で返すなど笑いを誘う場面もあり、いつの間にかトレヴァースは学生からその時流行りの略語や俗語といったフレーズまで習うことになった。会場に飾られた数々の加工品はトレヴァースの目のみならず学生達の興味までも集め、もてなしのために志願したウィータン人達の予想を超える反響を呼んだ。


 そうして会見は終始和やかな雰囲気のまま進み、既定の時間大幅に過ぎてから会見は終了したのである。





 「僕は、君たちの情熱がうらやましいと思ったよ」


 会見終了後、去っていく学生達を眺めながらトレヴァースが言った。

 隣に立っていたエイジャックスはその言葉に首を傾げて、トレヴァースの方を見た。


 「なんだよ、急に。え?」


 エイジャックスが笑う。

 

 「ああ、お前を引っ張り出したことを言っているのか?」


 「君たちの欲求の事さ。

  今日ここに至るまでに実に色々なウィータン人を見たが、

  誰も彼もが何かを成そうと全力だった」


 トレヴァースが言う。エイジャックスは少し眉をひそめると、

 「大げさに言ってないか?」と返した。トレヴァースはゆっくりと首を横に振る


 「大げさなもんか。

  いや、心は確かに何かを突き動かす力を持っていると僕は思ったよ。

  ──きっと、地球を飛び出した人間達もそうだったんだろう」


 トレヴァースが言った。


 「なんでかな、僕はもっといろいろな感情を知りたいよ」





 トレヴァースはこの日、

 心優しきサイボーグとしてウィータン人の輪に迎え入れられた。


次回更新は3月9日午前2時ごろの予定です。


Twitterで更新情報など出してますので、よかったらどうぞ!

/脳内企画@demiplannner

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