Chapter1-13 違和感
トレヴァースはしばらく無言のまま立ち尽くしていた。
彼は時たまエイジャックスとクロラのやり取りを横目に見つつ、クロラの背後の土壁に埋まった物体を興味深そうに眺めている。
視線の先では、物体から放たれる熱気がその温度を徐々に上昇させていた。
トレヴァースが熱源に向けて耳をそばだてていると、周囲の土を焼くようなじりじりとした音が聞こえた。
彼がこの場所へやって来てからずっと熱源の温度の上昇は止まることなく続けられているようであった。
不意にトレヴァースが土壁に向かって歩き出す。
彼は、物体を眺める自身の内に何となくの違和感を覚えていた。
隣にいたエイジャックスは少し驚いたように彼の動きを目で追い、クロラも歩き近づいてくるトレヴァースに気づくと彼の方に顔を向けた。
「あなた、誰?」
クロラが尋ねる。
「僕はトレヴァース。エイジャックスの…友人さ。しばらく前からのね」
トレヴァースがそう言うと、クロラは彼とエイジャックスとを交互に見やる。
エイジャックスはやや遅れてから、慌てた様子でトレヴァースとクロラの傍まで近寄ってきた。
「小惑星帯の近くで見つけた、宇宙船の中にいたんだ」
エイジャックスが言った。
「ウィータンとは違う星からやってきたそうだ。ほら、先だって連絡を入れただろう」
「ああ、例の。……へえ」
クロラはトレヴァースを観察するように眺めている。
「……あなたが地球人?」
「姿だけならばね。
正確に答えるなら、僕は地球人ではないよ」
「地球人ではない?」
「つまり、僕は地球人に作られた機械なんだ。
……失礼。 ところで、その壁を見せてもらっても?」
トレヴァースは話を切り、土壁を指さして尋ねた。
クロラは土壁の方を振り返ると、彼女はトレヴァースの発言を受け入れるように体をその場からどかした。
「ああ、どうもありがとう」
トレヴァースは満足げに頷きながらそう言い、土壁に近づいていった。
「おいトレヴァース。何をする気だ?」
「いやなに、君らの仲を取り持ってやろうと思ってね」
「……仲を取り持つ?」
エイジャックスは狐につままれたような顔で聞き返した。
「僕はここまでの様子を横から見ていたが、
君たちに精神的な負荷を与えているものの正体がこの古い爆弾であることは明白だ。
ならこんなもの、さっさと無くしてしまえばいいじゃないか」
トレヴァースは銀色の物体に手を這わしながらエイジャックスの言葉に返事をした。
「……ああ、そら見たことか。やっぱり同じ造りをしている」
そう呟くトレヴァースの手のひらには、いつの間にか青白い光の筋が浮かび上がっていた。
彼は手の平から漏れる光を使って土壁に埋まった銀色の物体の表面を照らすようにしてまわった。
「あら…?」
トレヴァースを除いてこの時起きた変化に最初に気付いたのはクロラであった。
トレヴァース達がこの場所へやって来るよりも先に爆弾の解析を進めていた彼女は、温度の上昇率やその他変化の流れから得たデータを基に、今現在ぎりぎりのバランスを保っている状態の爆弾がいつ破綻を迎えるかまで予測を立てていた。
彼女の解析手法に狂いは無く、予測された展開も疑う余地の極めて少ないものであった。
しかしここへ来て予測が外れだしたのである。
クロラが違和感を覚えたのは、爆弾の温度上昇が完全に停止していたことに気付いたためで、それはすなわち爆発までのカウントが進まなくなっていることを示していた。
次回更新は2月23日午前2時ごろの予定です。
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/脳内企画@demiplannner
 




