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Chapter1-12 支配者の置き土産


 トレヴァースが検知した熱源はそこに帯びる熱を徐々に高めているようだった。

 熱源を中心とした周辺気温の上昇に伴い、開拓地に立ち込める毒素もより濃厚なものになっている。


 トレヴァースとエイジャックスは熱源の正体を確認しようと、やや離れたところから温度の一番高くなっている場所を眺めた。


 彼ら二人の視線の先にあるのは、抉るような発掘跡の残る土壁であった。

 先ほどからトレヴァースが検知し続けているデータに従うならば、熱源の正体とはそこに埋まる銀色をした細やかな楕円形の物体のことだとわかる。

 物体は成人した地球人男性の拳ほどの大きさをもち、土壁から一部を露出させるように姿を覗かせていた。


 さらに周囲に視線を走らせると、見つけた物体と同じ大きさと形状をしたものが土壁一面に渡り複数個点在していることが見えた。

 それぞれを深く観察してみると、物体は菌糸状にその体を細長く周囲に向けて伸ばしていっているのがわかった。


 そうやって観察をしていた彼ら二人よりも熱源に近い場所では、分厚いスーツを着込んだウィータン人「クロラ」が立っていた。

 着用するヘルメットに土壁に埋まる銀色の物体が反射して映りこむ。

 クロラは物体にぎりぎり触れるか触れないかのところまで手を近づけて土壁に広がる銀色の跡をなぞっていた。





 「クロラ。ここで一体何があった?」


 エイジャックスが近づいて尋ねた。

 トレヴァースも横に立ち、エイジャックスとクロラを交互に見やった。


 「……爆弾が見つかった」


 クロラは相手をするのが面倒だとでもいうようにため息をついて、エイジャックスの方も見ずに言った。

 トレヴァースはヘルメットから聞こえる言葉遣いや声音から、クロラが女性のウィータンであるということに気付いた。


 爆弾、とエイジャックスはクロラの言った言葉を反芻する。


 「お前が調べているものが、その爆弾だというわけか」

 「見ればわかるでしょ?」

 「……どんな具合だ?」


 突き放すようなクロラの口調にエイジャックスはヘルメットの中で顔をしかめてしまった。

 それから少し間を空けて彼が再び尋ねると、クロラは何かを計算するように軽く宙を仰いだ。


 「最低でも、ここを中心に基地五つ分を更地にできるわね」

 「なんだってそんなものがこんな場所に!?」

 「そんなの知らないわよ。誰かが埋めたからここにあるんでしょ」


 声を上げたエイジャックスをクロラは気にも留めずに流す。


 「もっとも、埋めた連中はもうどこにもいないでしょうがね。

  ――なんせこいつは私たちが地下へ潜るよりも前からここにあったんだもの」


 「おい、待てよ。 それって……」

 「そうね、使われている技術に関して言えば、私たちとの繋がりは確認できないから……

  今のところこれは、元支配者の置き土産って説が濃厚ね」


 クロラはそうあっさりと言ってのけた。

 その様子とは対照的に、エイジャックスは絶句してその場に立ち尽くしてしまっている。


 エイジャックスが静かになり会話への興味を失ったのか、クロラは姿勢を直して銀色の物体の観察を再開させた。

 トレヴァースは二人の様子を黙って見ているだけであった。





 クロラが土壁を掘り起こすと、中で銀色の物体が菌糸のように張り巡らされ、別の個体と連結しつつあるのがわかった。

 クロラはそれを目で追いながら慎重にサンプルを採取している。

 しばらくそれを繰り返した後、彼女は少し後ろに下がって土壁全体を見渡した。


 「そうか…こいつは今まで未完成の状態で眠っていて、今初めて兵器としての機能を身に着けたのね。

  トリガーは発掘の衝撃……なるほど、基地の事前調査にも引っかからないはずだわ」


 しみじみとした様子でクロラは言った。


 「調査に引っかからないって、そんなことがあるのか? 

  そいつはずっとここに存在していたんだろう」


 「さあねえ。でも私たちの手法では検知できなかったことは事実よ。

  恐らくこの爆弾は、起動するまでばらばらの素材の状態で環境と同化していたのね」


 クロラは熱を放ちつつある物体のすぐそばで手を動かしながら、緊張感のない声で言った。


 「どうでもいいけど、あなたどうしてこんなところにいるの?」


 クロラが尋ねる。

 その口ぶりからは「どうでもいいけど」という注釈が何か本心を隠すためのものではなく、文字通りの本音であることが窺えた。


 「小惑星帯から帰ってみたら、基地に誰もいなかったんだ。

  それで滑走路から唯一熱源を検知できたこの場所に様子を見に来たのさ」


 向けられた問いにエイジャックスは素直に答えた。

 クロエは「ふうん」とだけ返し、しばらくしてから動かしている手を止めた。


 「待って。管制から連絡は無かったの?」

 「……無かったから、様子を見に着陸したんだ」

 「嘘でしょ…‥ああ、もう、管制の連中は解雇すべきね。

  異常だと気付いてなお勝手に降下したあんたもバカだけど」


 クロラは大きな溜息をついて言った。



 「――エイジャックス。

  僕の言語理解が追い付いていればだが……彼女はいつもあんな調子なのか?」


 二人の会話にようやくトレヴァースは口を挟んだ。

 といっても、彼の言葉はエイジャックスにだけ耳打ちするように伝えられた。


 「あー……っと、そうだな。

  まあ、お前の言語理解に不備は無いとだけ言っておくよ」


 エイジャックスはヘルメットの中で困ったような顔をして笑う。


 「大丈夫。感じが悪くても、機嫌が悪いわけじゃない」


 エイジャックスは頷きながら言った。

 自分で自分を納得させるような声音であった。

 それは果たして大丈夫なのだろうかとトレヴァースは思ったが、声に出さずにおくことにした。


 「クロラ。お前こそどうしてここに? いくらなんでも危険すぎるだろう」

 「ああ、心配しなくていいわ。

  データは常に送信しているから、私が死んでも後任がなんとかしてくれるでしょ」

 「あのな、そういう問題じゃ……」


 「バカね。無理なのよ。

  今更どこへ逃げようっていうの?」


 クロラはエイジャックスの言葉にかぶせるように言った。


 「……ああー、嫌な予感がするぞ」


 エイジャックスはトレヴァースにだけ聞こえるような声で呟いた。

 それに同意するようにトレヴァースも軽く頷く。



 「最後に何か言いたいことはある?

  一応、”よしみ”で聞いておいてあげるわ」


 クロラは調査の手を止め、二人のいる方を振り返って言った。


 「他の連中は避難させたけど、この時点でこの場所にいるあんたはもう無理。

  こいつ、そろそろ爆発するからね」


 「ええええーっ!?」

 

 エイジャックスはここまでのクロラとの会話の流れから、爆弾の状況をなんとなくわかっていた。

 それを彼の中の状況を認めたくない気持ちが思考の中で衝突し合い、逃げ場を失ったエネルギーは叫び声となって彼の外へと飛び出した。


 「あーもう!うるさいな!

  ねえ、本当に、なんで今ここに来たの!?

  タイミングも何もかもがバカじゃない!?」


 呆れかえった様子でクロラは言い放った。


 「……今更焦ってもしょうがないから。

  何も言うことが無いなら、私がこれを分解する可能性にでも賭けてなさい」



次回更新は2月23日午前2時ごろの予定です。


Twitterで更新情報など出してますので、よかったらどうぞ!

/脳内企画@demiplannner

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