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Chapter1-7 失われた歴史


 エイジャックスの宇宙船はトレヴァースがいるロケットからほど近い場所に浮かんでいる小惑星上に停泊していた。その姿はトレヴァース手製のロケットと比べてやや小ぶりで細長く、何らかの金属製と思われる銀灰色の船体からは多数のアンテナやアームのような突起が確認できた。


 トレヴァースはエイジャックスの案内を受けながらロケットを「押して」小惑星まで近づけ、それからエイジャックスの宇宙船内へと向かった。


 まず彼の体は船外と船内とを繋ぐ小さな小部屋で、有害物質の付着などを確認するための検査を受けた。結果ウィータン人にとって未知の物質などがないではなかったが、その成分や構成から問題無さそうだと判断されると、晴れて彼は船内への扉をくぐることを許された。



 「ようこそ、パイソンへ」



 扉の先では一足先に船内に入っていたエイジャックスが待ち構えていた。彼はトレヴァースに歓迎の言葉を投げると、自らのヘルメットに手をかけてこれを取り外した。


 中から現れたのは銀髪で浅黒い褐色の肌をした生き物。トレヴァースはその容貌を思わずじっと見つめた。二つのはっきりと主張する瞳とその間からすらりと伸びる鼻、そして笑みをたたえる口元からは、彼が異星人などではなくまるで同じ星に住む親戚のようにさえ感じられた。


 はっと我に返ったトレヴァースは視線を目の前のエイジャックスから移し、目の前に広がる船内の壁や内装物といったものを眺めた。どうやら舩の中にはエイジャックス以外のウィータン人はいないようだった。



 「パイソンというのは、この船の名前かい?」


 トレヴァースが尋ねると、エイジャックスは頷いて両手を広げた。


 「その通り!いや、あー…一応これは軌道周回線上宇宙廃棄物及び遺物調査船四号というんだが…」

 「ふむ、長いね」

 「だろう? 俺もそう思うよ。だから呼びやすい名前を自分でつけたんだ」


 エイジャックスは彼がパイソンと呼ぶ宇宙船内の壁にもたれかかり、梁のように突き出た部分を軽く叩いた。


 「俺の仕事は…この船を使ってウィータン周辺の宇宙環境を調査することなんだ」

 「調査?」


 エイジャックスの言葉にトレヴァースは尋ね返す。地球外の知的生命体である彼らがどんな事柄に対して関心を抱き、何について知りたいと思うのか。トレヴァースはウィータン人の志向について多少の興味を持った。



 「……俺たちが探しているのは『歴史』さ」



 トレヴァースの関心に気づいたのか、彼の問いに対してエイジャックスは少し考えてから口を開いた。どこか比喩を交えたような雰囲気のその語り口を理解するまでに、トレヴァースは少しの時間を要した。


 「それはつまり…ウィータン人が過去から今日に至るまでに歩む内に起きた出来事が知りたい、ということかい? 昨日だとかごく最近の過去ではなく、もっと時間的な隔たりが大きいような時代まで?」


 「ざっと数百年以上さ」


 「なるほど、それは確かに『歴史』だ」


 エイジャックスの言葉を理解したという様子でトレヴァースは頷いた。ウィータンという惑星の一年がはたして地球と比べて短いのか長いのかはわからなかったが、エイジャックスの口ぶりからして途方もなく長い期間という意味合いの解釈をすれば問題はないだろう。


 トレヴァースはそれからウィータン人が探している数百年分の歴史的空白について尋ねると、エイジャックスは自身で認識している限りの内容をトレヴァースの理解しやすいようかみ砕いて丁寧に話し始めた。

 

 エイジャックスが生まれるよりもずっと昔の時代より伝わる伝承によれば、ウィータン人はかつて異星人に支配される種族であったという。長く続いていく支配の中である時、ウィータン人の中に蜂起する者達が現れると、その者が中心となって支配者に対する抵抗運動が広がっていった。小規模だった抵抗はやがて惑星全土を巻き込んだ戦争へと発展していき、激戦の果てに支配者種族をウィータンから追い出すことに成功した。


 「だけれど…支配からの解放のためにウィータン人はある大きなものを犠牲にしてしまったんだ」


 エイジャックスはそう言って話を一度切った。


 「俺達ウィータン人は支配種族を追いやったと言ったが、見方を変えれば実は見限られたとも言えるのさ。先人はウィータンという惑星を、支配する旨味の無い星へと変えてしまったんだ」


 「旨味の無い星?」


 トレヴァースが言葉を反芻すると、エイジャックスは小さく頷いた。


 「何かの比喩でもなんでもない。ご先祖は戦いのため生き物に毒となる兵器を用いたんだ。支配者はいなくなったが地上には誰も住むことはできなくなって、ウィータン人自身もはそれから数百年物間深い地の底で暮らすことになったというわけだよ」



 つまりエイジャックスとはそうして地下に逃れたウィータン人達の子孫にあたる存在であった。なんとウィータン人が地下から地上へ出ることができたのはここ数年であり、ちょうどエイジャックスの世代が成人を迎えることになってからだという。浄化にかかるまでの時間はトレヴァースにウィータンで行われた戦いと汚染の激しさを窺わせた。


 かつてのウィータン人は自分たちの持つほとんどの記録や資材などを地上に置き去りにしなくてはならなくなり、そこに地下での過酷な暮らしが重なって様々な文献が消失してしまったのだという。ウィータン人の種としての歴史は古くそれだけに様々な記録があったはずだが、そのどれもが今では見つけることも叶わなくなり、今現在把握している最古の記録としては彼らが地下に潜ってから数十年と経過した段階でのわずかなメモが残っている程度であった。


 長い潜伏を経てようやく地上を歩き始めたウィータン人は生活拠点の移行と共に、失われた歴史の発掘に勤しんでいた。





 「それにしても、トレヴァースこそ何故あんなところにいたんだ?」


 ウィータン人の現状をあらかた話し終えたところで今度はエイジャックスがトレヴァースに尋ねた。それからエイジャックスの口から語られたのは、トレヴァースを乗せた宇宙船がどのようにして彼の視界に映る景色の中に現れたかというところであった。



 


次回更新は2月15日午前2時ごろの予定です。


Twitterで更新情報など出してますので、よかったらどうぞ!

/脳内企画@demiplannner


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