第五章 旅立ってもいいですか?3
泣きじゃくる瑠璃の肩を抱いた美璃が、優しく話しかける。
「あんだんしぇいじゃなかわ。もうずっっち前から、あんだん気持ちに気の付いとったんに、どげんするこつも出来んでん、放っちおいてしもたうちらのいけなかったん」
瞳を揺らす瑠璃を見て、美璃は微笑む。
「重雄しゃん、ずっっち心配しよったんちゃ。天璃はそげなぼんくらな男じゃなかっち信じとるの、今回ん件で瑠璃のどげんかしてなおすんじゃなかかっちね。電話ではなしてもなか。マスコミの勝手に騒いでいるだけばってん言うてたばってんね。そげなこつはどげんでんよかっち。そいでいっちゃん傷付くんな、瑠璃じゃなかかっち。もう怒っちね、そん週刊誌作っちいる会社に抗議ん電話、入れるっちゆうこつ訊かいなかったんちゃ。やけど、躰んこつはそいっちは別問題。重雄しゃん、ずっっち調子悪かったん隠しよったごたあなん。こん不景気で、ちょこっとばってん頑張らんけんっち思っちいたのごたぁで、現場で倒れてちゃ、話にいかんわ。目ば覚たとたいら、お灸据えていげなかっちね」
天璃は何も言えなかった。
ただ、管に繋がれた重雄をガラス越しに見つめるだけだった。
三日目の朝に意識を取り戻した重雄の腕の中で、やはり瑠璃は泣いていた。
容態が安定したのを確認した二人が新幹線に乗り込む際、美璃は天璃を呼び止める。
皺くちゃの手で天璃の手を握り、そっと撫でる。
そして、たった一言、頼んやね。と天璃に言う。
ずっしりとした重さのある言葉に、天璃は戸惑いながら頷く。
車中、余程疲れていたのだろう。瑠璃は、天璃の肩を借りて眠りの中を漂っていた。
天璃は、窓に映る景色に目をやりながら、めまぐるしく過ぎて行った数週間のことを思い返していた。
小さな寝息を立てる瑠璃に目線を映し、天璃は深いため息を吐く。
比呂美の家から帰って来た瑠璃は、驚くほど平常心を保っていた。
彼氏と処する人物を家に連れてきたり、以前より外へと目を向けるようになってホッとしていたのに、そう簡単に消せない気持ちを抱えていたことに、まったく気が付いてやれなかった自分が情けなかった。親にだけは心配を掛けたくはないと、只管に隠して来たはずなのに、それも無駄な抵抗に終わり、天璃の眉は一段と垂れ下がる。
マナーモードにしてあった天璃の携帯が震え、ディスプレイの名前を見てそのままポケットにしまい込む。
病室で重雄と二人きりになった天璃は、重い口を開いていた。
「いつから気付いていたん?」
「なんの?」
ずっと恐れて訊けなかったことだった。
「瑠璃のこと」
「いいそいか。にしゃの、初めてかんじょば作った時、瑠璃、熱ば出したばいちゃろう。あん時、ずっっちうなしゃれとったんだ。父しゃんばってん母しゃんばってんなく、りっちゃん、りっちゃんっちな。涙まで流しよったんには参ったな」
「そんな前から?」
「遅く出来よる子で、ちょこっと甘やかししゅぎた。しゅまん」
重雄に頭を下げられ、天璃は言葉なく肩を落とす。
複雑な思いだった。
震える指でそっと髪を触れた瞬間、電車が小さく揺れ、瑠璃が目を覚ます。
目があい、天璃は慌てて目を逸らしてしまう。




