第四章 幸せってなんですか?6
小雨が降る中、闇雲に走り回った瑠璃は自分が今どこにいるのか分からず、目に留まった公園のベンチに一人座っていた。
足を痛めている天璃は追いつけず、通勤する人に何度かぶつかりそうになりながら、しらみつぶしに探して歩いたが、とうとう見つけられず、仕方なく戻ると、待ち構えていたように最上が抱き付く。
「私、瑠璃さんが天璃さんを好きな事、ずっと気が付いていました。たぶん天璃さんも」
「すまない。今日は帰ってくれませんか」
「嫌です。私、帰りません」
「これ以上、あなたに幻滅させないで下さい」
「私、あなたに会った瞬間、この人っだって思ったんです。この人なら私の全部を分かってくれるって。好きなんです。私を受け止めてください」
するすると自分の服を脱ぎだした最上は、そのまま天璃に唇を押し当てる。
「止して下さい。瑠璃にこんなところ、見られたらどうするんです」
「見られたって良いじゃありませんか。むしろ、公然とした事実を作ってあげた方が、あきらめもつくと、思うわ。私、二番目でも良い。天璃さんに愛してもらえるなら。瑠璃さんの気持ち、痛いくらい分るから。だからお願い、今だけは私だけを見て、抱いてください。そしたら素直に帰ります」
天璃は、自分が自分で情けなく思う。
口では拒んでいるのに、躰が素直に反応を示してしまっているのだ。
もつれ合うように床に倒れ込んでしまった天璃は、寸前のところで最上を突っぱねる。
酷いと言い残し、部屋を飛び出して行く最上を追いかける気にもなれず、天璃は一人、頭を抱えまんじりもせず夜を越す。
翌日、天璃を待っていましたと言わんばかりに、森岡が纏わりついて来る。
依然と、瑠璃の消息は分からないままだった。
研究室に入る前、高瀬に既に罵られた天璃は、鈴木女史のいつからなの? と言う質問に、肩を竦め、力なく自分の席に着く。
「やっぱりそうなんだ」
庄司の言葉だった。
森岡が御丁寧に、週刊誌を広げて見せる。
「名前とか伏せてあるけど、これってどう考えてもテンちゃんだよな」
写真は顔がはっきり写っていないが、天璃を匂わす記事が記載されていた。
「じゃあ結婚って、ありなの?」
庄司に顔を覗き込まれ、天璃はさあと答える。
「とうとう、天璃も独身貴族にピリオドか」
伊万里が嬉しそうに、天璃の肩を叩く。
「やっぱり挙式とか盛大なんでしょうね。芸能人がわんさかって感じですかね」
仙石がにやにやと言うと、梶尾が背筋を伸ばし胸をポンと一つ叩いてみせる。
「大丈夫っす。妹さんのことは、自分が護ります」
「梶尾、瑠璃がどこにいるか知っているのか?」
がばっと立ち上がった天璃に言い迫られ、梶尾は慌てて自分の言葉を訂正する。
「妹さん、どうかしたの?」
鈴木女史の冷静な声に、天璃は腰を戻す。
「いや、何でもない」
「何でもない。って顔じゃないわよね」
鋭い突っ込みに、天璃は苦々しく笑って見せるだけで留める。
その日のワイドショーで最上美希の熱愛は報じられ、瑠璃は岩に砕け散る波を見つめていた




