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LOVE HOUR  作者: kikuna
33/49

第四章 幸せってなんですか?5

 ついにその時が来てしまった。


 「りっちゃん、これは何?」

 家に帰る早々涙に伏せる瑠璃に聞かれ、用意した、しこたまの言い訳を並べようとしたが、天璃は口を噤む。

 チャイムが鳴らされ、テレビ画面に最上の姿が映し出される。

 「どうしたんですか?」

 「ごめんなさい。話がどうしてもしたくて来ちゃいました」

 泣いている瑠璃を一瞥してから、天璃は声を潜める。

 「今日はちょっと。お引き取り下さい」

 「でも……」

 「りっちゃん」

 その声に、天璃はぎくりと振り返る。

 「どうぞお入りください」

 天璃からインターフォンを奪い取った瑠璃がそう告げると、ソファーへ乱暴に座る。


 地獄絵巻図が一瞬、天璃の脳裏を横切る。


 学校の帰りだという最上は瑠璃を見て、

「キャンバスで会えるかなと思って、探したんだけど、無理だったみたいね」

 と微笑みかけてみせる。

 しかし瑠璃に至っては、不機嫌を全面的に前にして、目すら合わせようとしなかった。

 「ごめんなさい。私、こんな記事が出ること、知らなくって。昨日まで仕事にも行けない状態で。ああでも、多少、誇張されてはいるけど、ほぼ事実だし」

 「事実」

 ギロリと瑠璃は二人を交互に睨む。

 「ええそう。二人で一緒に過ごしたのも確かだし、少なくても私の気持ちは、この記事の通りよ。今すぐにでも一緒に暮らしたいと思っているわ」

 「何をバカなことを」

 「いいじゃない。社長も盛大に祝ってくれるって言ってくれているし、二人に障害は何もないわ」

 「あるわ。大ありよ」

 瑠璃が半ば叫ぶように言う。

 「りっちゃんは、私の物よ。あなたになんか渡さない」

 「ちょっと待って、あなたと天璃は兄妹よね」

 「兄妹が、恋に落ちちゃいけない法律はないわ?」

 「天璃、天璃はどうなの?」

 追いすがるような最上の視線に、天璃は口ごもる。

 全否定をすれば瑠璃は確実に傷付く。かと言って認めるわけにもいかず、曖昧な態度を取るしか術がない。それが女性陣のイライラが集う。

 「なして、瑠璃ん気持ち、がとっちくれんけんと?」

 「天璃が好きなの。お願い、私の気持ちを受け止めて」

 悪夢のような絵図に、天璃は言葉を失う。

 帰るに帰れない状況に、最上は泊まると言いだし、煮え切らない天璃に瑠璃はその場で泣き崩れる。

 胃がキリキリと痛み出した天璃は、大きく深呼吸をし、宣言とも取れる言葉を発したのは、日付が変わり、新聞配達がドアポストに新聞を入れた時だった。

 「俺、好きな人がいるから」

 重たく広がった空気が一変し、なし崩しに床に座り込んでいた最上と、ソファーに顔をうつ伏していた瑠璃が一斉に天璃を見る。

 「まだ、気持ちは伝えていないけど、俺の気持ちは固まっているから」

 「相手は誰ですか?」

 最上のしゃがれ声で質問され、天璃は瞳をゆらゆら揺らす。

 「嘘に決まっている。りっちゃんにりっちゃんにそげな人のいるっちは思えなか」

 「俺のこと、見くびりすぎだよ」

 力なく言う天璃に、瑠璃の瞳に涙が一気に込み上げてくる。

 「でも天璃さん、もう後戻りはできません。昨日、社長直々にお答えしているはずです。私も、取り囲まれたら、認めるニュアンスをしていいって言われているんです。というかもう、ここに来る前に、記者さん達に微笑んで手を振って来ちゃいました。だからその気持ち、胸の中に収めてください」

 一回りも違う最上のしたたかさに触れ、天璃は身の毛が弥立たせる。

 「りっちゃんのバカっ」

 瑠璃が部屋を飛び出して行き、天璃は無条件でそれを追いかけて行く。一人取り残された最上は、小さく笑ってそれを見送る。 

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