第二章 どうすればいいの?3
もうそろそろ忘年会シーズン。
コートを着ていても、寒さが身に染みて来る。
居酒屋で大盛り上がりした一同は、外気の冷たさに身を震わせる。
飲みの席では、始終不機嫌顔を通した鈴木女史。
「ここは私がもつから」
と鈴木女史は全員分の支払いを済まし、あれほどいきり立っていたのにも拘らず、別れ間際には、いい子産んで、幸せになりなよ。と小鹿に優しい言葉を掛ける。
「いい子産んで、幸せになりなよ」
「はい。鈴木先輩も、早く御嫁に行ってください。ご両親もきっと待っていますよ」
要らぬことを言われ、込み上げてくる怒りを必死で堪えている姿が、少し痛かったが、鈴木女史は二次会の誘いを断り、夜の街へと消えて行った。
その後姿を、天璃は複雑な思いで眺め、見送る。
たぶん、明日は荒れるんだろうな。
そんなことを考えている天璃を、頬を薄紅にした高瀬が引っ張った。
「乳井室さんも、行かれますよね」
上目使いで高瀬に見られ、少々胸を高鳴らせた天璃は目線を、二次会の話で盛り上がっている方へ移す。
「悪い。今日は、疲れたから遠慮しておく」
「ええーでも、まだ早いですよ」
そう言われ、天璃は腕時計に目を落とす。
なかなか目線を合わせようとしない天璃に、じれったさを感じた高瀬が少々強引に腕を引っ張っる。
「いいから行きましょう」
「本当に今日は」
「そこの二人、行くぞ」
一同の意見がまとまったらしく、賑やかさを携えて夜の街を移動し始めるのを尻目に、高瀬は天璃から目を逸らさないまま、目を潤ませていた。
「乳井室さんって、付き合っている人とかいるんですか?」
こういう状況に滅法弱い天璃は、なす術が分からず、声を上ずらせながら答えるが、どうも居心地が悪く、救いを求めるべく目線を泳がせてしまう。
「いや、特にはいないけど」
「本当ですか?」
「本当だけど、何でそんなことを聞くの」
おおよその見当はついていた。
天璃の心臓は早鐘の如く高鳴る。
「わたしにも、チャンスはありますか?」
「……」
絶句してしまった天璃へ、高瀬は期待と不安の色を混ぜ合わせた瞳を、真っ直ぐ向けていた。
「おーいそこ、何をしてんだ? 置いて行くぞ」
その森岡の声は、天璃にとって天の声になり、重たい空気を破る起爆剤となった。
「ごめん」
ようやく重い唇を動かすことが出来たのだ。
「どうしてですか?」
「今、誰かと付き合う気分じゃないんだ」
とうとう大粒の涙が高瀬の頬を伝い始め、そのタイミングで森岡がやって来てしまう。
「あれー高瀬ちゃん、泣いてんの?」
まったくこの男は。
胸中で毒づきながら、苦笑で森岡を見た天璃。
「すいません。私、やっぱり帰ります」
「何やっているんですかテンちゃん。女の子、泣かしちゃダメでしょ。まったく。待って高瀬ちゃん、夜道は危ないから、俺、送って行くよ」
冷ややかな目線を天璃に数秒送った森岡は、駆け出して行ってしまった高瀬を追いかけて行き、一人取り残された天璃は肩を竦め、深いため息を一つ吐く。
まったくの災難としか思えない事態。
瑠璃が上京して来ると決まってから、天璃の生活は見だされっ放しである。
モテて嫌な気分になることはないが、何分生真面目な性分の天璃、真っ向から受け止めてしまい、適当に流すという事が出来ないのだ。それ故に、比呂美との交際以降、友達以上恋人未満の関係が多発し、自然消滅という結果を産んでいた。




