第二章 どうすればいいの?1
もうこの数日で、天璃は10歳は年老いた気がする。最上との食事を終え、空になった財布をベッドに放り出した天璃は、吸いこまれるように眠りに就く。
悪魔の姿をした比呂美が、ケラケラと笑って天璃を槍で突っつく。止めてくれと言う天璃に、八重歯を見せ、比呂美は尚をも笑いながらそれを止めない。そうなんだ。比呂美は八重歯がチャームポイントだった。そんな事を、ぼんやりと思いつつ、それでもやめてくれと叫んでいると、口紅の姿をした最上が、比呂美を真っ赤に塗ったくって行く。黒い悪魔の衣装を赤くされた比呂美は泣きながら、去って行き、最上が振り返り、にやりと笑う。真っ赤に染まった大きな口が印象的に、目に焼き付く。恐ろしさで声を出せない天璃に、最上はじりじりと距離を縮めて来る。
「待ちなさい」
何故か割烹着に大きなしゃもじを持った瑠璃の登場に、場面が変わる。
真っ赤な最上と真っ白な瑠璃との一騎打ちである。
二人は睨み合い、一歩も譲らない気迫が伝わってきていた。
壁際まで逃げた天璃が、恐々と頭だけを持ち上げ、そんな様子を伺っていた。
どっちが勝っても、天璃にとっていい結果にはならないと直感的に知っている。
「えーいっ」
二人が飛び掛かり、天璃はそこで目を覚ました。
最悪な気分だった。
汗だくになった自分の躰を起こし、頭を抱え塞ぎこむ。
前に、ビデオで観たことがある。
人生に一度だけ、あり得ないくらいモテてモテて仕方がない時期がある。確かそんな内容だった気がする。それが今なのだろうか。
どっちを向いても、困難アリの恋愛に、天璃は首を振る。
こんなのは、モテ期なんかじゃない。
シャワーで汗を流し、酒は強くはないが、ビールを二本開けて、天璃は再び眠りに就いた。
二度目の夢は、奈落の穴に落ちて行く夢だった。
朝、目の下にクマが出来ている自分の顔を見て、天璃は笑ってしまう。
この分だと、確実に死ねる気がしてきた。
死因が、女性関係なんて滑稽すぎる。しかも始まっても終わってもいない。振り回されるだけ振り回されて、衰弱死。馬鹿げている話だ。天璃は、どこかへ消えてしまいたかった。誰も自分を知らない国に行って、余暇を楽しんで暮らす。そういう年齢ではないが、そういう気分なのだ。
重たい躰を引きずるようにして、会社へ行く。
満員電車に身を絞られ、ムッっとした気持ち悪い暖かさに、気分を害しながら眉を下げた情けない天璃の顔が、流れる景色と共に映し出される窓を眺め、人知れずため息を吐く。
最上の魅惑的な瞳が輝く広告が、空調の風に煽られながら、そんな天璃を、見下ろしていた。




