5.帰還
俺は覚醒した。
太陽光が容赦なく照りつける高校の屋上に俺は倒れていた。
しばらくのあいだ、俺は夢見心地で、自分の見ているものに現実感が無かった。
起きあがろうとすると右肩に痛みが走った。見ると服が破けて血がにじんでいる。
俺は助かったのだ。
処刑人δのチェーンソーは俺の皮膚を少しだけ切ったが、俺が右腕を切り落とされる直前に覚醒したから、死なずにすんだ。
殺された四人も、あの奇妙な世界に閉じ込められてしまったのだろう。それで、あの処刑人どもに殺されてしまったのだ。
屋上には、俺以外の人間は誰もいなかった。
高山比奈子も、江口涼太郎も、藤島里菜も。
どこにもいなかった。
比奈子たちは、あの世界で殺されてしまった。
俺の考えていることが正しければ、比奈子たちはこの世界で凄惨な死体となって発見されるはずだった。
俺は痛みを我慢して何とか立ち上がった。すぐに屋上から逃げ出す。昇降口から出て、校庭を歩く。俺はここで殺されかけたのだろうか。実感は無かった。いつもの校庭だった。
俺は自転車に跨ると家に急いだ。少しでも早く、学校から距離を取りたかった。
次の日、俺を除くオカルト研究会の面々が死体で発見された。
その死体の状況があまりに異常で、世間を大きく騒がせる。
俺は自分が体験したことを黙っている。
異常な世界に飛ばされて処刑されかかったなんて、そんなことを説明したって信じてもらえるわけないからだ。
しかし、俺は時々処刑人δの夢を見る。
処刑人δがこちらに向かって少しずつ歩いてくる夢だ。
少しずつ、本当に少しずつだが、処刑人δは俺に近づいてくる。
俺を処刑することを、δはまだあきらめていないのだ。