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処刑  作者: 京介
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4.処刑(高山比奈子と大川誠)

「素晴らしい処刑でした! さてそれでは三人目! 処刑人εの登場です!」

 ピエロの声に、ローブをまとった男がゆらりと動き出す。処刑人εは俺と比奈子を交互に眺めると比奈子を指さした。

「三人目の処刑は高山比奈子で決まり!」

 処刑人εは大きく手を掲げる。群衆の熱狂は最高潮になる。もはや喚き声のごとき歌声が、校庭を震わせる。

「イプシロン! イプシロン! 処刑人イプシロン! 処刑人イプシロンは柔らかいのが好き。柔らか柔らか、みんなグニャグニャ!」

 大男たちが比奈子の戒めを解く。比奈子にからは、もはや抵抗の意志は見られない。何をされても、もう反応すらない。

 ローブを取ると、やはり処刑人εは仮面をつけている。その表面には数字の三を反対にしたような文字。小文字のε。

 処刑人εはローブから巨大なハンマを取り出す。比奈子はεの前に跪くような格好で座り込んでいる。

 εは巨大なハンマを振りかぶると比奈子の左脚にハンマを叩き込んだ。比奈子の脚の骨が粉砕される。比奈子が声にならない悲鳴を上げた。εはつま先でつついて比奈子の脚を調べる。骨が形を残しているのが不満らしかった。

 再びハンマを振り上げるε。比奈子の左脚を執拗に打ち据え、骨が粉々になるまで繰り返した。

 左脚の粉砕を終えると、εは粉砕した比奈子の脚を手に持ち左右に振る。彼女の脚がブラブラとゴムのように揺れる。骨が小さく砕けていることを確認できると、εは満足気に頷いた。εは比奈子の右足首を掴むと、引っ張り、ハンマで叩きやすいように伸ばす。比奈子は気を失っているのか反応しない。

 εは先ほどと同様の方法で比奈子の右脚を粉砕した。そして彼女の両手を砕きにかかる。骨を砕くとき、初めは大きな音がする。硬い棒状のものが折れる音。骨折の音だ。それがだんだん音が小さくなる。骨が細かくなっていくから、最後には音がしなくなる。εはこまめに粉砕具合を確認する。εの仕事は徹底していた。

 両手の粉砕を終えたεは、ついに比奈子の頭を砕き始める。彼女の顔にハンマが叩き込まれる。ハンマは大した抵抗もなく比奈子の顔に埋まる。白い歯がポップコーンのように弾け、血がステージを濡らす。陥没した比奈子の顔が見える。

 εはハンマで比奈子の頭蓋骨を徹底的に砕いた。その後、肋骨と背骨、骨盤を粉々にしたεはハンマを高く掲げる。群衆が沸く。

「徹底した処刑でした! 比奈子の罪は償われた!」

 大男がステージに上がり、比奈子だったものを引きずって行く。ステージは三人の血と汚物が混ざりあってひどい臭いだった。

 校庭のうねりは最高潮に達した。

「最後の処刑は大川誠! 大川誠の処刑を行うのは、処刑人δ!」

 ついに俺の番が来てしまった。足が震える。身体を支えるのが難しかった。

 ローブの男が静かに俺の前に現れる。群衆が歌い続ける。

「デルタ! デルタ! 処刑人デルタ! 処刑人デルタは組み立てるのが好き。組み立てるために、まずバラバラに!」

 俺は気が遠くなった。組み立てる。バラバラに。歌の意味は明白だった。処刑人δは俺の身体を解体するつもりなのだろう。

 俺の目の前でローブを取る処刑人δ。仮面にはやはりδが小文字で描かれている。

「何なんだよ……。お前らいったい何者なんだよ!」

 俺は処刑人δに向かって叫ぶ。デルタは仮面越しに俺を見るだけだった。その目からは何一つ感情が読み取れない。

 大男がステージに上がり、俺の拘束を解く。俺は逃げ出そうとするが屈強な男に抵抗することなどできなかったし、身体にうまく力が入らなかった。

 俺はこれから処刑される。しかも、想像もできないような陰惨な方法で。

 信じられなかった。

 俺はオカルト研究会の奴らと、儀式とやらをしただけなのに。みんな死んでしまった。

 藤島里菜は開頭され脳を掻き出されて死んだ。

 江口涼太郎は身体中の皮膚を削り取られて死んだ。

 高山比奈子は全身の骨を粉々に砕かれて死んだ。

 そして俺は、今からδという名の処刑人に解体されようとしている。

 ステージにはいつの間にかT字状の磔台が用意されている。大男は俺の身体を手際よく磔にする。

「さあ! 用意は整いました! いよいよ最後の処刑の時です!」

 俺は処刑人δを見る。δは大男に何事か指示を出す。大男は大振りのチェーンソーを持ってくる。δの手によってチェーンソーが稼働する。耳を塞ぎたくなるような音が鳴り響くが、磔にされているので耳を塞ぐことはできない。

 処刑人δはチェーンソーの刃を俺の右肩の辺りに持ってくる。右腕から切ることにしたらしい。俺は自分の右手を見る。この右手が俺から切り取られようとしている。俺は恐怖に支配されそうになる。

 その時、俺は自分の右手に違和感を覚えた。なんだか、俺の右手じゃないような気がしたのだ。

 理由はすぐに分かった。

 俺の右手の人差し指には、絆創膏が貼ってあったはずだ。暇つぶしで料理をした時に自分の指を傷つけてしまったのだ。

 しかし今の俺の手には、絆創膏など貼っていなかった。

 なぜ、絆創膏が貼っていないのか。

 俺は確信した。

 ここは、俺たちがいた現実の世界ではないのだ。だから、現実の俺と、少しだけだが相違がある。

 処刑人δがチェーンソーを振り上げた。

 俺は目を閉じた。そして強く念じる。

 目を覚ませ目を覚ませ目を覚ませ目を覚ませ目を覚ませ!

 これは夢なのだ!

 ここは俺のいるべき世界じゃない!

 処刑人δがチェーンソーを振り下ろす気配がした。右肩に激痛が走るとともに、俺の意識は途切れた。


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