1.発端
夏休みまであと一週間となったある日、俺の通っている高校の生徒が四人まとめて殺される。殺された四人とは面識もなかったし学年も違ったから、俺はそいつらがなんで殺されたか想像もできない。俺は大して興味もなかったのだが、オカルト研究会部長の高山比奈子が俺にしつこく話しかける。
「ねえねえ大川。あんた例の集団殺人事件に興味ないの?」
俺の部屋に遊びに来て、ベッドに寝っころがりながら暇そうに漫画を読んでいた比奈子が言った。
「しつこいな。知らないって言ってるだろ」
比奈子はオカルト臭がするものにはとにかく首を突っ込みたがる。彼女にとって、自分の学校で生徒が殺されるというのはビックイベントなのだろう。
死んだ四人はそれぞれ音楽室、家庭科室、理科室、そして体育館で見つかっている。一晩のうちに彼らは殺されたのだ。翌日の朝、そいつらの死体を出勤してきた教師が見つけ、大騒ぎになった。
呼ばれた警察が即座に学校を立ち入り禁止にしてしまったので、俺も比奈子も死体を直接見てはいない。しかし周囲から聞こえてくる噂によると、死体はひどく痛めつけられていたそうだ。
学校は現在、無期限で休校になっている。
「死体を最初に発見した先生、心を壊してしまって入院しているそうよ」
そりゃ人間の死体、それもひどく傷つけられている死体なんか見てしまえばショックだろう。俺はその先生に同情した。
「それで? 確かに異常な事件だが、オカルト研究会の部長がなんで殺人事件に興味を持つんだ」
そういうのが好きなのはミステリ研究会とかではないのか。
「私はあの事件の後、色々と調べていたんだけどね。もしかしたら、彼らの死は呪いだった可能性があるの」
「呪いねえ」
「うんざりした顔しないの。あんた、我が高校に伝わる伝説知らないの?」
「伝説?」
なんだろう。聞いたことがない。
「この高校は昔、処刑場だったの。やがて処刑場は潰された。そして長い時を経て、ここに学校が建てられた」
「聞いたことないな」
昔は処刑場だったとか墓地だったとか、そんなものはどの学校にも伝わる迷信みたいなものだ。
「あんたもオカルト研究会の一員なら、もっとそういったことに興味を持たないと」
「部員が足りなくて廃部になるってお前に泣きつかれたから入っただけだ」
部として活動するには、最低でも四人の部員が必要になる。高山比奈子がオカルト研究会の部長で俺は部員の一人。あと二人、副部長の江口涼太郎と部員の藤島里菜がいる。全員が高校二年生だった。オカルト仲間と部活を立ち上げようとしたのは良いが一人足らず、比奈子の昔からの知り合いである俺が引きずり込まれたというわけだ。
「まあいいわ。とにかく、そんな伝説が私たちの学校にはあるの」
「それで? その伝説と四人が殺されたことになんの関係があるんだ?」
呪いとの関係性もよく分からない。
「あんたは知らないでしょうけど、この学校にひそかに伝わる儀式があるの。その儀式に成功すれば、なんでも望みが叶う。でもその儀式に失敗すると、呪いがかかってしまう」
「馬鹿馬鹿しい。高校生にもなって、そんなこと信じてるのか」
「うるさいわね。話が残っているのは事実よ。それに、四人が殺されたのも事実」
「四人はその儀式を行い、失敗した。そして彼らは呪いにより殺された、と言いたいのか」
「そういうこと」
比奈子は俺に顔を向けて、目を覗きこんできた。
「ねえ、みんなでやってみない?」
「何を?」
「儀式」
「嘘だろ」
「嘘じゃないわ。本気よ」
「儀式って、いったい何をするんだ」
「それは当日教えてあげる。もう里菜と涼太郎の了解は取ってるから、あとはあんただけ」
比奈子は俺を見てにやりと笑った。