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お馬鹿コメディ短編集

とある少女の赤裸々事件

作者: 湯気狐

そういえばこのパターンは見たことないな~、と思いながら書いたお馬鹿短編五作目です。


恐らく今までで一番くっだらねぇ話だと思います。


お約束通り、物好きな方だけどうぞ。

 時は特にこれといって何もなく、ただ単に暇なので何処か街にでも繰り出そうかと思い立ち、カタンコトンと電車に揺られている休日の日。


 この日、俺は何度目か分からない『生まれて初めての体験』を目撃してしまうこととなった。




~※~




 運が良かったのか、俺が乗っているこの車両には数人しかいなくて席がガラガラになっていた。電車に乗った俺は少しご機嫌気味な様子で席に座り、特に何もすることなく一人呆けていた。


 それから俺が電車に乗った時点で三つ目の駅に到着した時だった。偶然にも俺が良く知っている人が電車内に入って来た。


 スラッとした長く綺麗な黒髪。キリッとして、いかにもクールガールな雰囲気が出ている顔立ち。女でありながら男物の服を着こなしたスタイリッシュな見た目の少女。


 その名は藤堂棲実亜とうどうスミア。同じ高校に通い、良く話をしている腐れ縁だ。


 スミアは俺の存在に気付かないまま向かいの席に座り、肩に掛けていたお洒落バックから一冊の本を取り出し、読み耽り始めた。


 ここまでなら特にこれといった不自然な事態など無く、通常進行な休日を過ごせたであろうが、駅から出発してからジッとスミアの様子を伺っていたところから“それ”は始まる。


(……何の本を読んでんだあれ?)


 何となく気になった俺は目を細めて本の表紙を見つめてみる。そして、このようなタイトルが書かれていた。


『必見! 警察にバレずに殺人し、完全犯罪を成立させる十七の方法!』


「……(ニヤニヤッ)」


 これは犯罪予備軍の一人と数えても良いのではないだろうか? スミアの凛々しい顔付きに全く合わない顔で笑ってるし、あれって普通にヤバイんじゃないだろうか?


 ――という、デンジャラスチックな本を読んでいたのはフェイントだった。


(ったく、後で色々と言っておかねぇとな……)


 はっきり言って変わり者であるスミアは何をするか分からない。妙な犯罪を起こす前に俺が何とかしないとな。


 ――なんてことを考えている時だった。


「…………っ~!」


 俺は見た。見てしまった。まさかあんなものを目撃することになるなんて夢にも思わなかった。というか思うわけがなかった。


 何を見たのかを詳しく説明するとだ。先程のスミア紹介の時に言ったが、あいつは男物の服を着ているのだ。それで、下に青いジーパンを穿いているのだが――


「…………んんゴホンッ!」


 チャックが全開になっていたのだ。はっきりと、赤裸々に、大胆に。


「……(クスクス)」


(いやクスクスじゃねーよ? 何してんのあいつ?)


 男なら分かる。チャック全開で歩いていて、無意識に恥部を露出してしまっているお馬鹿でお茶目な男であればまだ分かる。


 でも、その女バージョンを見ることになるだなんて……。マジか? マジなのかあいつ?


 どうしよう……ここからでも見間違えることなく、スミアの黄緑色のパンツが見えてしまっている。何なんだろうかこの気持ちは? ラッキースケベで得した気分ではなく、馬鹿やってるの見て笑いのツボにハマる気分でもない。


 なんかこう……やるせないと言うか、複雑な感情が色々混じり合ってモヤモヤするというか……分かりやすく言えばあれだ。素直に恥ずい。見ているだけで自分のことのように恥ずい。見ていられない程にもどかしい気分にさせられるかのようだ。


 凄ぇ言いたい。「馬鹿お前チャック開いてんぞ!!」と思いきりツッコミを入れてやりたい。でも、数人とはいえ他人がいるこの場所では絶対に言えない。気まず過ぎて注意することなんてできない。


『言えないけど言いたい』というジレンマに陥り、それでも何も気付いていないあいつのためにも俺が何とかしなければと思い、まずはスミアに俺の存在を知ってもらうところから始めた。


 声を出すことなくバタバタと手を振る俺。こんな些細なジェスチャーも恥ずかしいと思える素材としては十分だが、チャック全開を直接的に知らせるよりは全然マシだ。


「……!」


 それからすぐのこと。スミアは本から視線を離して、何やら動いている俺の存在にようやく気付いてくれた。


「……(フリフリ)」


 呑気に微笑みながら手を振り返してくるスミア。手を振り返すのは良いから、一刻も早く自分の状態に気付いて欲しい。


(下ぁ!! 下を見ろ!! 直視しろ!! 下向きすぎて首痛めるくらい見つめてみろ!!)


 ……なんて、心の声であればいくらでも叫んでやれるが、所詮は俺の中だけに響くだけの叫び声。都合良くスミアに以心伝心するわけもない。


「……(グッ)」


 ――と思っていたのだが、奇跡的に伝わったのかスミアは右手の親指を立ててグッジョブサインを送ってきた。もしかしたらだけど、俺達は予想以上に繋がりが深い関係性になっているのかもしれない。


 ともかくこれで無事解決――なんて簡単に話が済んでいたらこの出来事はわざわざこんなにも語られることなんてない。


 スミアはペラペラと本のページを捲ると、とある一ページで捲るのを止めてそのページを俺に向かって見せ付けてきた。俺は再び目を細めて内容を確認した。


『完全犯罪をするには二人以上が決定事項である』


「……(ブイッ)」


(俺が求めてんのはそんな歪んだピースサインじゃねーよ!!)


 以心伝心なんていう四字熟語は夢幻。俺の願いはこれっぽっちも通じ合うことなく、一方的に奴が俺を犯罪者予備軍に入れようと企てただけだった。


 つーかどんだけ完全犯罪実行したいんだよあいつ。何? 病んでんの? 流行りのヤンデレってか? いや、ただ単に狂ってるだけ……いやいやその方がタチ悪いじゃんよ。


「……(ププッ)」


 ジェスチャーで伝えるのは失敗に終わり、またもや危険な本に読み耽って独特に一人笑い出すスミア。俺がこんなに気に掛けてやってるっつーのに、あの態度はぶっちゃけイラッとくる。


 しかし友達として見捨てるというのも俺の良心が許さない。かと言って他にもう伝える術なんて考え付かないし、一体どうすれば良いんだろうか?


 やっぱり直接伝えるべきなんだろうか? 恥をかく覚悟で口に出した方が気が楽になるんじゃないだろうか? そもそも、チャックが開いていたところでそんなに注目を浴びるわけもないか?


 人間っつー生き物は興味のないものには怖いくらいに無関心な生き物だ。ちょっと普通の人より妙なことをしていたとしても「変な人がいるな~」的な感じで軽く流すだけで何もないまま終わりを告げる。


 つまりはあれだ。チャックが開いてるところを注意したところでざわつくこともないのかもしれない。いたとしてもチラッと見るだけで、凝視してくる人なんていないかもしれない。


 ……考えれば考えるほどクソ真面目に悩んでいた自分自身が馬鹿馬鹿しくなってきた。もう良い、とっとと直接伝えてこのモヤモヤを晴らして――


「……(ズズッ)」


「……ンンゴホンッ」


 唐突にスミアが足を大きく開いた。その見た目は堂々たる姿勢で新聞を読む中年親父だ。


 そして、そんな姿勢を取ってしまえばズボンのチャックが開いているところを更に強調することになる。


 赤裸々で大胆。はっきりとスミアの黄緑パンツが丸見えだ。誰が見てもはっきりと分かるくらいに丸見えだ。


 わざとやってんの? もしかしてあれってわざとやってんの? まさかの露出狂疑惑? 俺の友達ロクなもんじゃねぇや。


「……コホッコホッ」


「……ッン゛ッン゛ン゛」


「……ケホッ……チャッ……ケホッ」


 流石に目立ってしまったため、他の乗客の人達も気まずそうに各々反応を示し初めていた。中にはチャックと言う寸前で堪えている人までいる。


 いたたまれない、いたたまれないよこの空間。この場にいる皆のためにも気付いてやれよマジで。今この瞬間だけ俺達の心はそのことで一つになってるぞきっと?


(チャック……)


(パンツ……)


(黄緑パンツ……)


(パンツ……)


(フゥ……フゥ……今晩のおかず……)


 テレパシーでも使えるようになってしまったのか、周りの人達の思念が不思議と伝わってきたような気がした。……一人ヤバい人がいたのは気のせいだと思いたい。


「……(カカカカカッ)」


 少し目を離すと本を読むことを止めていて、今度は凄い早さでスマホをいじっていた。女子高生も顔負けの早さで打つその指使いは実にテクニシャン――何言ってんだ俺?


 ピンポンッ♪


「んん?」


 スミアがスマホを弄るのを止めて再び本を読み出したと同時に、俺のスマホがズボンのポケットの中でベル音を鳴らしていた。恐らく、タイミング的に奴が俺にメッセージでも飛ばして来たんだろう。


 俺はすぐさま内容を確認しようとポケットからスマホを取り出し、確認してみた。


「……?」


 内容はメッセージではなく、十秒で終わる動画だった。見たところスタート画面は真っ暗でどんな動画なのか皆目検討もつかない。


 それから戸惑ったのはほんの数秒。気付けば俺の人差し指はその動画をタッチしていた。


 そして、動画が再生される。静かな車両内に確かに聞こえる音量で。


『あァん……アッ……フゥん……んァ……ぅアッ……アッ……アッ……ふぁ……ぅん……いやぁ……ァん……やァっ……アッ……アッ……』


 ――そこで動画は終わった。


「………………」


 ――俺も色んな意味で終わった。


「……(プルプルプル)」


 ――身体震わせて笑いを堪えているあの野郎との友情関係も終わった。


「……ンンッゴホッ」


「……ンンゴホンッ! ゴホンッ!」


「ウェッホッ! ウェッホッ!」


 一気に乗客達の咳払いが俺一人に畳み掛けられる。最早、スミアのチャックパンツに注目する者など誰一人としていない。


 そして、俺はその時はっきりと見た。


「……(ジジジジッ)」


 スミアが自分で自分のチャックを閉めているところを。


 つまり、これは最初から仕組まれていた罠だったということに他ならない。


 奴は最初から俺をこの状況にハメるために、わざわざ自分の痴態を晒し、実行したのだ。


 最低だ。悪魔だ。鬼畜外道のクソ野郎だ。


(キメェ……)


(キモッ……)


(ゲスッ……)


(キモい……)


(キショッ……)


 ありとあらゆる思念が俺の脳内に伝わってくる。気のせいなんかじゃなく、思念と共に冷めた視線が全方向から伝わってくる。


 苛めでない。決して苛めなどと簡単に一言で言い表せることなんかじゃない。これはもう処刑と言っても過言ではない。


 ――いや一言で表せてんじゃん。


 プシュゥゥ~


 気付けば目的地である駅に到着し、俺は静かに席を立って最後まで冷たい視線を背中に浴びて下車をした。そして、俺の後に続いてスミアが下車して来た。


「……おいテメェ」


 ぶっ殺してやろうという衝動を抑えての一言で呼び掛けると、スミアは呆れ半分哀れみ半分の表情を浮かべて俺の肩に手を置き、もう片方の手に持っていたスマホの画面を見せてきた。


『ドッキリ大成功(´Д`)』


「洒落で済んでねーんだよッッ!!!」


 その台詞を言われた後も、スミアは最後まで寡黙を貫き通していた。


 これが事の全容。『生まれて初めての体験』を目撃し……何より、俺自身が体感することとなったトラウマ話であった。

自分が主人公の立場なら……考えたくもないですね。貴方はどうでしょうか?


それでは六作目にて御機嫌ようです。

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