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フットボール、フットボール、フットボール  作者: 遊佐東吾
本編

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20/85

敬意

「さて、これでどうにか締めに入れるな」


 暁平の言葉に呼応するように、再開の笛が鳴る前に選手交代が告げられる。想定通りの佐木川IN、要OUTだ。守備面で課題を残したとはいえ、土壇場で要は大きな仕事をした。そこは誇っていい、と暁平は思う。

 勝利の方程式のごとく守りを固めてきた鬼島中学を前に、さすがのバレンタイン学院も反撃する力はほとんど残されていなかった。ラスト5分で万策尽きたらしき十文字監督は、また新しい選手をピッチに送りこんで今度はパワープレーに打って出てきたが、暁平にとってはさしたる問題にならなかった。

 最終的なスコアは1―0、試合終了まできっちり逃げ切ることに成功する。


 両チームの選手が並んで挨拶をすませると、明と暗のコントラストを描いたような足取りでそれぞれのベンチへ戻っていく。

 緊張感ある戦いから解放された鬼島中学イレブンがほっとした表情を見せているなか、暁平はひとりバレンタイン学院ベンチへと歩を進める。

 主将らしく振る舞う今久留主が涙を流すチームメイトに笑顔で声をかけ、へたりこんだ選手の肩をたたいてねぎらい、後輩たちには力強い檄を飛ばしていた。

 暁平は厳しい顔つきのまま、そんな今久留主の名を呼んだ。


「ヨッシー」


「おう、キョウヘイか」


 自分たちが敗れた相手チームの選手にもかかわらず、今久留主は穏やかな表情で迎えてくれた。


「せっかくFC相手に用意してたとっておきのゼロトップ戦術だったんだがな。おまえの壁はさすがに分厚い。完敗だよ」


「いや、本当に苦しかった。最初のヨッシーのミドルで先制されていたらどうなってたことか」


 あれな、と今久留主の顔が苦笑いにかわる。


「おれも決まったと思ったよ。アツのやつ、いいキーパーになったもんだ」


「うん。あいつには何度も助けられてる」


「だろうな。あのやんちゃ坊主の成長もこっちの敗因かもしれん」


 目を細めた今久留主が「おまえら、いいチームになったなあ」とほめてくれたのには、思わず暁平も胸が熱くなった。


「今日はいろいろと勉強させてもらったよ。ヨッシー、それにズミくんもイガちゃんも」


 ありがとうございました、そう言って暁平は折り目正しく一礼した。


「おいおい、調子狂うな」


 まだ涙の筋の残る顔で笑いながら吉住が軽口をたたく。


「そうだぞ。おれらに勝ったけど決勝では負けました、てのはなしだぜ」


 はっぱをかけてきた伊賀に続いて、面識のない他の選手たちも「頑張れよ」「おれたちの分までやってくれ」「全国行けよ」と口々に激励してくれている。

 これがサッカーだ、と暁平は思った。この人たちといい戦いができて本当によかった、心の底からそんな満足感を覚えた。

 そんななか、聞き覚えのあるしわがれ声がした。


「おめでとう、榛名くん。やっぱり君を敵に回しとうはなかったな」


 声の主に対して暁平は再びお辞儀をした。額に深いしわがいくつも刻まれた十文字監督その人だ。暁平の記憶が確かならば、もう七十歳に手が届いているはずの老将である。


「来年のことを言うと鬼が笑うらしいが、また君らがうちの前に立ちはだかるのは間違いないところよな。打倒FC、打倒鬼島。これが新チームのスローガンになるだろう」


 ここで十文字はふっと表情を緩めた。


「だがな、榛名くんよ。来年は敵同士でも再来年はそうとはかぎらんからな。この子らと切磋琢磨する道も頭のどこかに置いておくといい」


 そうなったらリベンジできないな、と今久留主が残念そうでいてどこか嬉しそうに言ったのが印象的だった。


 翌日、暁平たち鬼島中学サッカー部は決勝戦を3―0で危なげなく完勝し、部の創設以来初の県大会優勝を成し遂げる。

 目標として掲げていた姫ヶ瀬FCジュニアユースとの再戦まで、こうして彼らはたどり着いたのだ。

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