黒羽の家
「はぁっ、はぁっ、、、」
店を飛び出して、街の中をしばらく走り続けた。
町外れまで来ると黒羽は走るのをやめた。
息を整えながら周りを見渡すと、存在を忘れ去られた廃墟と化した建物が2人を取り囲むように隙間無く立っていた。
「疲れたかい?悪いね、気が回らなくて。」
黒羽は息を切らす事無く涼しい顔をしている。
「納得出来ない、、黒羽の方が私よりもずっと体力ないはずなのに、、はぁっ、、、」
「あぁ、忘れてた。これのことか。」
黒羽は自分の耳の裏側に手を入れ、酔っ払いの顔を剥ぎ取った。
「あんたに会うために、酔っ払いの顔つけてたんだよ。気づかなかったか?」
黒羽は白い歯を剥き出しにしてニカッと意地悪な顔で笑った。
黒羽の本当の顔は幼さの残る、バーボンが似合わない男だった。右目の泣きぼくろがセクシーで影のある瞳はミステリアスな印象だった。
「ここなら邪魔は入らないから。まぁ、何もないけどゆっくりしてってよ。」
黒羽は廃墟の中の一つの、BARだったらしい建物に近付き、鍵を開けて中に入るように促した。
建物に足を踏み入れると、外観とは違い、黒一色でまとめられた高そうな革製のソファや、壁一面に綺麗に並べられた本が目についた。意外と几帳面な所もあるじゃない。
「中はまぁまぁ綺麗なのね」
革製のソファに腰掛けて言った。
「褒めてもらえるなんて嬉しいねー。何か飲む?コーヒー?それとも、飲み直す?」
黒羽は酔っ払いの小汚い上着を脱ぎながら、部屋の奥へと消えて行った。