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仕事
この街の生活も慣れてきた。
この街は、誰にでもなれる街。
1人になりたくない人が集まってくる場所。
地下2階の看板のない店。
口を開けば、我慢していた溜息が漏れ出す。
今にも泣き出しそうな顔、ぶつけようのない怒りを酒で誤魔化し、名前に生かされている現実を忘れようとしている。
酔っ払いはガードが緩くなる。
1人で飲んでいる客を探し、仕事を請け負う。
私の仕事は、最後の望みを叶える便利屋だ。
別名ハクチョウソウ。仕事内容はピンキリだ。
小さな仕返しや、生き別れた子供探し。
この仕事をしているのは、いろんな名前の人生を見ることが出来るからだ。
さりげなくターゲットのテーブルに近付き、名刺を差し出した。
ハクチョウソウの花が印刷されているだけのカードだ。ハクチョウソウの花を見ると酔っ払いの酔いは冷めた。
「まさか、本当にいるなんてな」
酔っ払いの男はバーボンの氷を指で回しながら、鼻で笑った。
「何かお望みはありますか?お手伝いさせてくださいませんか?」
花が咲くように上品に笑顔を作った。