1-8 舞踏と呼ぶには鋭くて、戦いと呼ぶには典雅過ぎて
セツナは、いや、プレステイルは足に力を込め疾風の如く駆け抜ける。
彼は人の身では決して辿り着けない境地にランナーズハイに似た高揚感を感じていた。
奴の動きが鈍い…これならいける!
「ボディがーー」
リザードマンの力任せに振るった腕を掻い潜り、その隙だらけな腹部に左のフックを打ち込む。
顔に苦痛の色を浮かばせる暇さえ与えずに、更に大きく踏み込み、そしてフックとは逆の腕でアッパーカットを放つ。
「ーーお留守だ!」
仰け反るリザードマンに追い打ちとばかりに、振り上げた腕を肘から打ち落とす。
低くうめき声をあげ、地面に叩きつけられ爆音と砂埃が巻き上がる。
プレステイルは3m程跳躍し距離をとった。
奴の動きが鈍いんじゃない、身体が軽いんだ。
戦える力を手に入れた、と言われても今一パッとこなかった。
しかし、ここまで動けるとは…勝てるイメージしか沸いて来ない方がおかしい。
プレステイルはグッと拳を握りしめ、砂埃に正対する。
砂埃がカッと光り、熱光線が伸びる。
彼はそれを予測していたかの如く体制を横に滑らせ避ける。
感発入れずに2発目、すかさず3発目と更に熱光線は彼を襲う。
この程度造作も無い、丁寧に一発一発を舞うように避ける。
しかし、あの威力だ。
命中すれば変身していてもしてなくとも関係無く消し飛ぶだろう。
「チョコマカト…!」
砂埃が晴れる。
リザードマンは苛立ちを振り払うように熱光線を撃ちまくる。
先程までの奴とは動きが違う。
彼が距離を一旦とったのもカウンターを警戒したため。
リザードマンとしては素早い奴を捕まえるチャンスを得らせて貰えなかったということ。
あくまで奴は冷静に事を運んでいる。
それを証拠にあんなに離されていた間合いが熱光線の嵐の中でも関係無く距離が詰められていた。
「キサマハナニモノダ…!」
「さっきも言っただろう? あんたみたいな悪の炎を掻き消す嵐……プレステイルだ」
リザードマンは毒づき、益々熱光線による攻撃は苛烈極まる。
的は直ぐ目の前にあると言うのに擦りもしない。
だのに、プレステイルの拳、あるいは脚、その全ては実態をもって暴風のようにリザードマンを襲う。
戦っているというのに典雅で、舞というには鋭い。
「ーーグッ!?」
「ナユタを怖がらせた罰だ。 せいぜい苦しめ」
恐怖を覚える。
あたかも幽霊を相手しているかのようだ。
だが、勝機もある。
体力差だ。
この宇宙上でタフネスさで敵うものなどいないと言う自負がある。
自慢のタフネスで攻撃の嵐を防ぎ切り、相手の動きが鈍ったところに必殺の一撃を見舞う。
それがリザードマンことフォイエザードの本来の戦い方。
いかにハイペースに攻撃を加えようと怯ませ仰け反らせるだけ、ダウンを奪うまでの威力が悲しい程無い。
「ーーくっ…!?」
何十度の嵐の後、それは来た。
プレステイルの動きが鈍ったのだ。
スタミナ切れか? 後先考えずに攻撃を繰り出すからだ。
いや、そんな事はどうでもいい。
フォイエザードがニヤリと顔を歪めた。
「オワリダ、チビスケ!」
全砲門をプレステイルに向け、そこから熱光線が斉射される。
そんな時であるというのに彼は思いっきりニヤリと意地悪く笑い消えた。
「流石、餌の食い付きがいいな」
後ろ!?
振り向く暇さえ与えない。
「遅い…ブレイドーー」
両前腕部から伸びる翼を硬質化、研ぎ澄ます。
奴を打ち倒すのには手数では無い。
純粋に必殺の一撃を加える事が必要だ。
右腕でフックを打つようにの翼を振るう。
翼がフォイエザードの背中を裂く。
「ガッ…!!」
「ーーバラム……ッ!」
慈悲さえも与えない。
左の翼でフォイエザードの脇をすり抜けるように叩き斬る。
遥か後方のフォイエザードがグラリと倒れる。
「ウチュウカイゾク……エグスキ、ニエイコウアレ……!!」
断末魔、そして爆発四散。
彼は天井を見上げ、腰が抜けたように座り込む。
息と共に力が抜けるのが分かる。
とりあえずは終わったのだ。
「宇宙海賊…エグスキ、か…」
少年は両手足を放り投げるように伸ばし寝っころがる。
気になることは大量にあるが、今は疲れた。
太陽の斜光は痛いくらい暑かったが直ぐにでも眠れそうだった。
少年の手には一本の柄が握られていた。