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疾風!プレステイル  作者: やくも
第八話 探し物は見つけにくいものですか
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8-4 戦闘終了(お昼休み)

 熱気冷めやまぬ会場。

それもそのはず、ほんの数十分前までここで白熱した試合が繰り広げられていたのである。

その会場の応援席の一角を彼らは陣取っていた。


「ーーギュンって来た所をグイッとしてメコッとしたわけさっ!」


 そう言って道着姿のクオンはランチボックスからサンドウィッチをヒョイとつまみ美味しそうに頬張る。

手抜きであったとしても作った甲斐があると言うものだ。

まぁ、美味しく作らない訳など無いのだが。


 セツナが会場に到着した時、会場が大いに盛り上がった瞬間でなかろうか。

クオンが対戦相手に決め手である胴回し回転蹴りを決めたところであった。

超至近距離の中段の攻防からのその捨て身の大技だ、避ける事防ぐ事など出来るはずもないだろう。


「そして、ガンッじゃなくてガガンッって感じだったのよ」

「おぉ、クーちゃんすっごーい!」


 パチパチと拍手し褒め称えるナユタ。

それに冷ややかな視線を送るセツナ。

彼女はよく分からないけどなんだか凄そうだから褒めておこう、と言う胸中に至っているに違いない。

こんな事をするからコイツが増長するんだ。


 正直言って彼女の話は擬音だらけで分かりにくい。

……全く分からないでもないのが少し不愉快ではあるが。

ナユタは頭にハテナマークを浮かべながらも熱心に頷き聞き入っている。


 最もセツナにとって癪にさわることは、クオンの『超至近距離の中段の攻防からのその捨て身の胴回し回転蹴り』と言う試合運びであった。

表面上は攻防の膠着を打破の為に一か八かの大技をクリーンヒットさせたように見えていただろう。


 しかし、真実は違う。

彼女は相手の力を引き出した上でそれを上回るような一撃を繰り出していた。

相手も決して悪い選手では無いだろうが、と、そう付け加えておく。

その彼女の一瞬に目を奪われてしまい、ほんの少しだけ悩みを忘れてしまった。

それが彼の心を乱すのだ。


 つくづく嫌な天才(ヤツ)だーーセツナは不機嫌にサンドウィッチを口に突っ込む。

タマゴの風味がふんわり広がる。

我ながら美味く出来たものだ。


「ーーところでさ」


 チョイチョイとクオンはセツナの袖を引っ張り呼ぶ。

顔を小さくしかめた。

ナユタに背を向けたのでそれに倣い同じ様に背を向ける。


「なんだ、小声で」


 聞きたい事があるようだ。

だが、それは聞かなくてもわかる気がする。

が、一応聞き返す。

クオンがチラリと後ろを見る。


「この子、なんの子。 気になる子〜」

「名前も知らない子ですから……ってか?」


 ナユタが小首傾げている、その彼女の膝の上でチョコンと座ってパクパクとサンドウィッチを啄ばむ幼女一人。

言わずともバーディである。

セツナとナユタにとっては既に見慣れてしまったが、しかし、クオンとはファーストコンタクトなのだ。


「あの子はバーディーーちょっとした知り合いのお子様だ」

「変わった名前だね。 外国の子?」

「まぁ、そんなところだ。あの子の親が一寸多忙なもんで少しの間面倒見てくれ、ってな感じだ」


 慌てる事なくあっさりと言い放つ。

だと言うのに、クオンは目を細め疑いの視線をセツナに送っている。


「どうした?」

「セツナって結構息を吐くように嘘付くよね?」

「そう思うんなら、これ以上首を突っ込むな、って事だ」


 ふぅん、とセツナを一瞥しパッと表情が明るくなる。

視界の奥でナユタとバーディがイチャイチャとじゃれあっていた。

彼女からしたらほっとかれて暇だったのであろう。


「ま、なんでもいっか」


 あっけらかんと言い放つ、その時こそコイツは危ないのだ。

昨夜だってこのパターンだったではないか。

セツナが反撃を警戒しサッと身構えた。

だが、そんなことどうでも良いとばかりにクオンはイチャついている2人の方に向き直る。


「あたしも混ぜれぇ〜!」


 と言ってじゃれ合ってる2人に混ざろうと飛び込んでいく。

無駄に元気な奴だ、とセツナはため息をついた。

午後からも試合があると言うのに、彼女には気負いと言うものは存在しないのだろうか。

あるいは何も考えていないのか。


 それなのに僕はーーふと視線を落とす。

食べかけのサンドウィッチの端から玉子が溢れ落ちそうになった。


『君とは、もう、共に戦えない』


 先程の戦いの後、バーディがもらした言葉が妙に頭の中を駆け巡っていた。

何故? と言う疑問の答えは分かっている。

戦いの中で怯え竦んでいる、そんなのは足手まといでしかない、そう言う事だろう。


『君とは、もう、共に戦えない』


 バーディとの意識の共有は一切合切カットしていた。

地球人と宇宙人……いや、一般人と戦士、元より分かり合えるはずもないのだ。


『君とは、もう、共に戦えない』


 セツナ自身グルグルと無限にループする思考の理由が分からなかった。

戦わなくても良い、と分かったのだ。

それは胸をなで下ろすべきところだろうか。

ループ思考にケリ付ける為に無理矢理にシャットダウンするーーそうか、僕は勝てなくて悔しいのだな。


 そう、納得することにした。

視線を上げるとバーディと目が合った。

何か言おうとして、何も言う事が分からなくて口をつぐんだ。

そうして目を逸らした。


「……今更何を言うんだ……」


 昼休憩の終了を知らせるチャイムが鳴る。

クオンは、もうそんな時間なのね、と席から飛び上がるように立ち上がった。

ややあって、会場の各所に設置されているスピーカーから放送が流れる。


『ーー準決勝に出場の選手は試合の30分前迄に受付をお願いしますーー』


 それを聞いたクオンはググッと伸びをして3人の方に向き直る。

白い歯を見せながら笑いかける。


「さ、あと2人、頑張ってくるね」

「うん、しっかり見ておくよ〜」

「ナユ姉がいてくれるから百人力だっ」


 笑顔で送るナユタにサムズアップで応える。

そして、バーディの頭を撫で、微笑む。


「バーディちゃん、クーちゃん頑張って来ますから応援よろしくねっ」

「あ、うん」


 バーディが呆気にとられ遅れ頷くと、クオンもまた満足気に頷く。

彼女は少し困ったように笑い返した。

最後にセツナの方を向く。

何だ、と少し不機嫌気味に視線を送るとクオンは満面の笑みで言うのだ。


「優勝パーティは豪勢にお願いね?」

「……知るか。 お前の小遣いから出すなら考えてやらんこともない」

「あっはっはっはー、ムリ」


 そう言ってヒラヒラ手を振ってクルリと背を向け出口に向かう。

表情は明るい。

これなら何も心配などする必要など無いだろう。


 次も勝って、その次も勝ってきっとクオンは勝利を手にするだろう。

彼女の強さとは何処が源泉なのだろう、そう考えた時にはいてもいられなかった。


「クオン」


 彼女の手を引く。

何よ、と言いつつ引っ張られるクオン。

ナユタとバーディから少し離れて口を開く。


「どうして、お前はそんなに強いんだ?」


 クオンは一瞬キョトンとして、すぐに無い胸を張り自信満々な顔で言い返した。


「そりゃあ、あたしだからよ」


 フンスと鼻を鳴らす彼女に頭を抱える。

聞き方が悪かったようだ。


「ーーじゃなくて、何で空手を続ける事ができるのかって言いたかったんだ」


 それは言うなれば何故ゆえ戦い続け勝利を手に入れる事が出来るのか。

セツナの真剣な目から、何かを感じたのかクオンはジトりと目を細めて言う。


「それってあんたの事?」

「う、まあ」


 言葉を濁すセツナにクオンは更に言葉を続ける。


「単純な事さね。 初心を忘れているのだよ、兄貴はね」

「忘れてる、僕が?」

「そ。 何やってるかはこの際気にしないであげるけど、セツナは忘れてるの」


 ニッコリとして言うのだ。

何が忘れてるのか分からない。

更に聞こうとするがクオンが先に口を開く。


「教えてあげても良いけど、それじゃセツナの為になんないからねー」

「……出来た妹だよ、お前は」


 本当は忘れているわけでは無いのだろう、気付かない振りをしているのか。

肩を軽く叩き檄を飛ばす。


「頑張って行けよ?」

「あたりぼーよ」


 互いに背を向ける。

ナユタの近くに戻ると彼女はニンマリ笑顔だ。

少しムッとしながらその笑顔の訳を聞く。


「いやぁ、セツナくんはツンデレさんだなって」


 指摘され真っ赤になりながら必死に否定する。


「なワケ無いだろうがよ! いいからさっさと片付けて黙って観戦するぞ!」

「はぁいっ」


 考える時間はまだある。

幸い、かどうかは分からないが、バーディはあまり話さない。

かと言って今話し掛けて来られても何をどうすれば良いのか分からない。

少し、頭冷やそう、そしてまたーー。


 セツナはバーディの視線に気が付く事はなかった。

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