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疾風!プレステイル  作者: やくも
第八話 探し物は見つけにくいものですか
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8-3 ドゥ・オア・ダイ

 黒煙に突っ込んで行く。

火元と思われる部屋はここ、そして、白い影ーーホルシード兵の姿が見えたのは丁度この部屋だ。

敵がいるとすればこの近く、プレステイルは警戒しながらも部屋を見渡す。

部屋は炎の照り返しで赤く染め上げられ、薄暗く煙が立ち込めている。

目が慣れて来るとその部屋の様子が分かり出す。


 このリビングは広く、大きい。

高給所得者向けの物件であるのだろう。

多少動き回っても不自由はしない広さ、ここならば立ち回れるはずだ。

だが、注目する点はそこでは無い。

消防隊員が数人倒れていているのだ。


「おい、大丈夫なのか?」


 倒れている消防隊員に駆け寄り抱え起す。

防火服はじっとりと血で滲んでいており彼は苦しそうに呻いていた。

息がある事にホッとしつつも傷の様子を見る。

致命傷、とまではいかないが決して浅くはない裂傷は確実に命を蝕むだろう。

加えてこの火災現場と言う劣悪な環境だ。

蝕む速度は加速していく、一刻も早く救出するに越したことはない。

そして、自らも如何に変身して身体を強化しているとは言え、この環境に完全に対応できているわけでもないことを忘れてはならないのだ。


「ーーお、奥の部屋に……」


 今にも消えそうな声で奥の部屋を指差す消防隊員。

絶え絶えの声で伝えるのは、要救助者が居る、と言うことだ。

見知らぬ人物にーー例え、巷を騒がせているヒーローと言えどもーー自らの使命を託されるとは、誇りに思うと同時に重責となる。

プレステイルが頷く。

宇宙海賊(やつら)を倒す、と自分のちぐはぐさに気が付かないままに。


「ーーキャアァァァッ!」


 悲鳴。

その声に触発され直ちに奥の部屋の扉に駆け寄り蹴破る。

こんな状況で叫ばなければならない状況とは更に強大な危機に面した場合である。

蹴破った先の部屋には、声の主と思われる少女、それとその少女に刃を振るわんとするホルシード兵がいた。

刃は落とされた。


「スナップラフィカ!」


 右手の羽根を引き抜くと同時に硬化と加速エネルギーの注入を行ない、それを投げつける。

爆発的な加速は緑の閃光は落とされた刃を打ち弾いた。

少女はいつまでも来ない痛みを恐る恐る確認する為、ホルシード兵はあたかも愉しみを邪魔され恨み垂らしくプレステイルを、見た。


「お前を倒すのはこの僕だ。 プレステイルだ」


 右腰から緑の宝剣ーーソードラファールを引き抜き構える。

ホルシード兵はプレステイルに向き直りもう片方の腕を刃に変化させ一対の刃を構えた。

ーーそうだ、お前の敵は僕だ。


 先に仕掛けたのはホルシード兵だ。

奇っ怪な叫びと共にプレステイルに向かって飛びかかってくる。

だが、遅い。

お粗末な程に大振り、であればカウンターは楽に取れるはずだ。


 大きく後ろにステップを踏み、距離を取る。

いや違う、戦いのイメージが違う。

隙をみて剣を叩き込むつもりだった。

しかし、実際はただ刃の範囲外に下がっただけだ。


 次の行動に先に移ったのはまたもやホルシード兵。

両の手から繰り出される剣の舞は彼に考える暇を与えず襲い掛かった。

激しい金属音と火花、プレステイルは打ち付けられる剣舞を負けじと払う。


「ーーコイツ、強い!?」


 そんなはずは無い、心で否定していた。

刃の切っ先は目で追えている。

反応も出来ている。

動きも合わせて打ち払えている。

なのに、手も足もでない。

まるで身体と精神が剥離しているような……。


「ッ!? しまっ……!」


 迷いが隙を生む。

重い金属音と共に左手の剣は大きく打ち上げられた。

刀身は砕け、緑の粒子が舞う。

だが、驚く暇など無い。

迫る刃に炎が写る。


 恐怖が身体を突き動かす。

大きく身体を捻り後方へ逃れる。

宙でホルシード兵の刃が床を裂くのを見てゾッとした。


『セツナ! 今だ!』


 頭の中で響くバーディの声。

彼はハッとして右の手のひらをホルシード兵に向け左手で支えた。

手のひらに渦巻く空気と加速エネルギー、それを大砲のように打ち出す。

言うなれば空気砲だ。

狙いは僅か外れ、しかし、ホルシード兵の右腕を奪うには十分であった。


「まだだ!」


 順次発射される空気砲。

ホルシード兵の左のカメラアイを抉り、右胸を穿ち、腰を貫き、左太腿を砕いた。

バチリとスパークし、ホルシード兵は糸の切れた人形のように倒れる。

この息切れは決して疲労から来るものでは無い。


 この感覚は……。


『セツナ、反省会は後でだ。 今はーー』


 そう、障害を排除した今、やるべき事はこんな事じゃない。

震える手をジッと見る自分の表情が分からなかった。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


「良い手際だ。 だが」


 虚空に黒いコートが翻る。

男、ラウ・ルクバーの視線の先には中空に浮かぶ立体映像(ホログラフィー)

そして、それにはあの火災の発生していた高層マンションが投影されていた。

黒煙は今尚、大きく天に昇って行く。

今、丁度、プレステイルが最後の負傷者を連れて高層マンションから脱出しているところである。

ラウは宇宙海賊船アルカディア号のクルーに命じ、ホログラフィーを消す。


「ーーだが、何と情けない事だろうよ」


 前哨戦だけでこうも見苦しいものを見せられるとは流石に微塵も思わなかった。

無論、我が方の惨敗に関する事で無い。

あのプレステイルの無様な戦いの事だ。

感情のままにここから飛び出したい衝動に駆られたほどである。


 確かに発破をかけたのは自分だ。

だが、萎縮しきってしまうとは思わなんだ。

せっかくプレステイルにお誂えの試練を用意したと言うのにこれでは無駄である。


「ーーグロムスタイン」


 ラウがその名を呼ぶと大きな影が彼の後ろに音もなく現れる。

そのシルエットは人の形を成しているーー腕は2本、脚も2本、頭は1つーーがその姿は異様だ。


 一言で言うならばアンバランスなのだ。

右腕は筋骨隆々としているのに、逆に左前腕はそれ以上に太く丸太のようで相対的に左上肢は細く見える。

そして、身体はパッチワークかモザイクのように継ぎ接ぎだ。

顔を覆い隠すガスマスクは彼の表情を隠し、不気味さを一層引き立てている。


 グロムスタインがしゃがれ声で苦しそうに言う。


「ラウ……サマ、オレヲヨンダ、カ?」


 その愚鈍でアンバランスな怪物を一瞥すると、口元がニヤリと歪む。

グロムスタインは愚直である。

こと、力を求め力に従う事柄については、これほどまでに正直にである者をラウは自分と彼以外の者を知らない。


「あぁ、呼んださ。 ーーおあずけばかりではお前もフラストレーションが溜まる一方だろう?」

「ソレデ、ハ」


 ラウが演劇めいて大袈裟に頷くと、怪物の仮面の下の顔が狂喜に変わる。

何も疑いもせずに歓び、そして当然のように戦地に赴く。

これ以上に扱い易いモノもない。


暴風(プレステイル)を打ち倒してみろ」


 グロムスタインは虚空に吠え叫ぶと光に包まれ消えた。

また、静寂がこの船室を包む。


「ーーさて、奴は未来を切り裂く牙を捨てる男であろうか?」


 俺に立ち塞がる試練となるまで、その心のまま野蛮に踊れ。

やらねば、死んでいるのと同じだ。

奴が死んでいないとするとーー。


「そうであるならばーー」


 ラウの異常に発達した犬歯がギラリと輝いた。

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