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疾風!プレステイル  作者: やくも
第一話 ヒーローの身長がいつも190㎝オーバーばかりと思うな
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1-7 きみだけをまもりたい

「おーい、セツナく~ん?」


 声だけが不気味に反響する空間。

本来ならば7月には工事が終了し、8月にはオープンしていたであろう超大型デパートは一見してそうとは見えない程に荒れ果てていた。

中は薄暗く、出て来るはずも無いと言うのにまるで出て来そうな雰囲気があった。


「頑張るの、わたし…! セツナくんはお姉ちゃんが守らないと危なっかしいんだから……!」


 怖い、がそんな事言ってられない、きっとセツナはもっと怖いはずだから。

ナユタは気合いを入れるためにパンッと自分の頬を打った。

それにしてもいつからだろうか、彼が無謀な行動をとるようにになったのは。

昔は大人しいコだったのにな。


「セツナくんなら…絶対こっちに行くよね…多分」


 あの子を安全なとこまで連れて行った後に直ぐに戻ったが残っていたのは街の残骸。

それを辿っていった先がココだ。

もちろん危険であると言う事は百も承知だ。

なんかよく分からないものがいることだし。

でも、彼を捨て置いて良い事にはならないはずだし、それに何とかなりそうだと言う根拠のない自信を感じたのだ。


「白身魚のフライをあげるから出ておいで~。 今ならタルタルソースも付けるよ~」


 返ってくるのは自分の声だけ。

好物を言えばひょっこり出て来ると思ったけどな。

やっぱりそこまで子どもじゃないか。

ナユタは苦笑し頬をかいた。


 それとももう逃げた後なのかな。

ナユタはムムムと腕を組む。

ガラリと後ろの瓦礫が崩れた。


「ーーうひゃ!」


 心臓が口から出て行ってしまうかと思った。

後ろを振り向くと瓦礫の隙間からネズミが飛び出して横切って行った。

ナユタは未だ収まらない胸を撫で下ろした。


「な、なんだ…ネズッチョか…。 脅かしっちゃってから」


 わたしはそんな暇はないの、とばかりに踵を返す。

菅発いれずに壁にぶつかる。

あれ、こんな所に壁なんかあったかな?

鼻を摩りながらゆっくりと見上げる。

正面にはあのよくわからないもの、セツナ風に言えばリザードマンがニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべていた。


「ーー!?」


 声にならない。

心臓がそれだけで麻痺して止まってしまいそうだ。

蛇に睨まれた蛙の気持ちが良くわかった。

ああ、ホントに動けないんだ。


「ウンガイイ…! ホントウニ!」

「…う、雲丹じゃないやい!」


 やっと言い返したのがそんな意味が分からない、意味のない言葉。

混乱している。

自分でも理解出来るくらい。

そんな中でも理解出来たことがある。

ともかく逃げなくちゃ……!

怪物とは逆方向に弾けるように足がもつれながらも駆け出す。


 無駄と分かっていても、頭の奥底では奇跡を信じている。


「ーーっ! はぁ、はぁーー」


 運動はともかく、持久走は苦手だ。

直ぐに息の上がるこの身体を恨めしく思いながらもそれを無視して走る。

ただひたすら走る。

迷路のような工具棚の隙間を縫って走る。

メチャクチャに、このビルのどこを通っているかそんな事が分からなくなるくらい走る。

お気に入りのロングスカートが破れようと関係無いし、ましてや気にも留めなかった。


 振り向く、化物はニタニタとして近づいてくる。

しっかりと8mの距離を保っているのが逆に気味悪く吐き気を催させた。


「ーーぁ、はぁ、はーーうへぇ!」


 おにごっこは唐突に幕を閉じる。

何かに足を引っ掛けて転けた。

すかさず身体を起こし足を動かーー


「痛ぅっ!」


ーーせなかった。

転んだ時の衝撃か、どうやら足を強く捻ったようだ。


 ナユタは祈るように後ろを見た。

どうか振り切れてますように、と。

しかし、現実は無情だ。


「サキホドノチビスケトイイ、オマエトイイエモノニハコマラナイ」


 チビスケ…セツナの事だろうか。

怪物は今にもスキップを踏みそうなくらい嬉しそうにナユタに近寄る。


「チ、チビスケに何したのよぅ…」


 ナユタは涙を堪えてキッと睨む。

リザードマンは邪悪に微笑み答える。


「ヤツハチョウシニノリスギタ……ダカラ、コロシチマッタ」

「ーーえ?」


 それこそ理解できなかった。

血液が逆流して全身に氷が流れる心地がした。

頭の中がぐるぐるとしてる。

殺した、と確かに言った。

死?

本当に?

実感は無いが妙なリアリティが脳内を支配していく。


「セツナくん、助けてよ……」


 全てがスローモーションに見える。

何時の間にか涙と鼻水で折角の顔がグチャグチャになり、呟く。

どうして、こんなことに?

彼をほおっておけなかったから。

どうして、こんなことに?

彼と一緒にいたかったから。

いや、違う…どうして、こんなことに?

彼の意志を無視したから。


 ナユタはハッする。

なんて都合の良いバカな事を言ったのだろう!

もう彼に既に救われていたではないか。

セツナが勇気を振り絞ってこの化物に立ち向かって逃げる隙を作ってくれたというのに、これじゃ何の意味が無い。


「ゴメンね。 お姉ちゃんは強くないといけないのに…」


 一言で良いから謝りたい。

それが許されなくても。

あの頃の、遠い記憶のセツナの顔がフラッシュバックした。


 リザードマンの右腕がナユタに向けられ、赤灼する。

ぼんやりと、すこしあついな、と思った。


「アイツノアトヲオウガイイ」


 熱光線が放たれるその刹那。


「ーー十分強いさ、おまえはな」


 横っ跳びに掻き消えさったように吹っ飛ぶリザードマン。

何者かに蹴られたということを暫く分からなかった。

ゆっくりと振り上げた脚を降ろし構える。

その小柄な身体の何処にそんな力があるのか。

彼は瓦礫からのそのそと這いずり出てきたリザードマンを挑発する。


 彼の事を一言で表すなら緑色の翼を持った鳥人。

脚は細くしなやかであり、腰からは鋭く伸びた尾を持っている。

前腕部からは象徴とも言うべき程の大きな緑翼が伸び、その体は極限まで無駄な筋肉を削ぎ落としたかの様な黒いプロテクター。

そしてその顔には緑色のクリスタルの仮面が装着されていた。

その仮面は透明感溢れると言うのに中の顔を知ることができず、目なんてものは見当たらない。

強いて言うなら仮面中央に位置する紅い宝石が眼であろうか。


「キサマ……ナニモノダ…!」


 彼の、唯一露出した口元が僅かにニヤつく。


「さあな、僕が知るか。 ーーおい」


挿絵(By みてみん)


 彼は振り向かず、ポカンとほおけているナユタに向かって言う。


「いつ迄そこにいる気だ? サッサと逃げろ」

「え…アッハイ」


 脚は……多少はマシになった。

ナユタは壁を支えに立ち上がるとひょこひょことここから離れて行く。

その折一度だけ振り返る。

彼は優しく微笑んでいた。


 後は任せろよ、バカ姉ーー彼は誰にも、自分にさえ聞こえないように呟いた。

彼女は意味あり気な視線に首を傾け、答えを得ることに無意味さに気付いたのか、また歩き出す。


 彼女が離脱したのを確認し、改めてリザードマンに向き直り構える。

戦闘準備なんてとうの昔にできていた。

さぁ、反撃の時間だ。


「疾風『プレステイル』いざ参る……!」

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