6-11 とある蝉時雨の夏の日、或いは暗闇の中で
「ーー日差しが、僕を、殺しにかかっている……」
寝不足の身体に夏の太陽は地獄だ。
戦いは昨日今日の事でまだまだ身体は本調子でない。
それもこれもナユタの所為だ。
彼女が、大至急来て、何て言わなければ今日一日だけは自堕落していたのに。
「セツナくん、大丈夫?」
「全然。 アイスを所望する」
「か弱いなぁ、セツナくんは」
ダウンしてた所を呼んだのは誰だよーーツッコむ気すら起きない。
ナユタはやれやれとベンチから立ち上がる。
「お姉ちゃんがオゴってしんぜよう」
彼女が足取り軽やかにこの場を離れる。
元気だなぁ、アイツーーセツナはある意味羨ましく感じた。
日陰のベンチがひんやり気持ち良い。
茹だるような陽気にダウンしつつも視線だけは辺りを見渡す。
ここは自然公園、昨夜の戦いが嘘のようだ。
家族連れ、カップルや遊び仲間……思い思いに今と言う時間を楽しんでいる。
この風景を見るだけで少しだけ満たされるような心地だった。
「ーーセツナさん、隣良いですか?」
「アサミズキ先輩……」
呼ばれてハッとした。
声の方を見るとケイが立っている。
セツナが頷くと、失礼します、と言い彼女が隣に座った。
「ーー先輩、もう大丈夫なのか?」
「ええ、プレステイルさんのおかげです」
「プレステイルさん、ねぇ……」
昨夜の戦いの後、その足で彼女の家に向かった。
ケイに結晶を使い救う為だ。
深夜であったために当然戸締まりされていたが、プレステイルの力を使えば入る事など造作も無い。
結晶を使うと悪かった顔色が見る見る間に良くなっていく。
それを見て彼はホッと一息をついた。
彼女を救った後、朦朧とした視線ながらも何か言いたそうにしていたが、長居は無用とばかりにすぐにその場から離れた。
余計な人を巻き込む趣味は無いからだ。
その際、顔はまじまじと見られたが、所詮は仮面の上から。
一言も喋った訳でもない。
正体がセツナだと分かるはずもないだろう。
「プレステイルさんはまさに私の命の恩人ですよ」
ケイが優しく笑う。
そんな大した奴じゃないのだがねーーセツナポリポリと頬をかく。
彼女を助けたいと思ったのは本物の気持ちだが、ナユタの悲しむ顔を見たくないと言った気持ちが少なからずあった。
彼女が笑ってくれるなら、僕はーー。
「是非ともお礼したいのですが、今は何処にいるのか……」
その正体は自分である、と言うのは簡単だ。
だが、ネタばらしをしても意味は無い。
むしろ、色々と面倒な事になるのは目に見えている。
「また、お礼言うタイミングはあるよ」
「風にその名を呼んだらまた会えますかね」
面倒な名誉を受けるくらいなら、ちっぽけな自己満足で留めておこう。
セツナは一人納得して頷いていたが、彼女からの視線に気がついた。
ケイはセツナをジッと見ていた。
セツナも人の子、まじまじと見られると気恥ずかしい。
沈黙が気まずい、目のやり場に困る。
正面を見ると彼女がジッと見てるし、視線を逸らすとそれはそれで不自然だ。
オロオロしていると彼女がクスリと笑う。
そんなに可笑しかったのだろうか。
ケイがつぶやくように、しかし、セツナにも届くような声で言った。
「ーーありがとうございます、ヒーローさん」
「え゛?」
時が止まった気がした。
時間にて一瞬、セツナが出来るだけ冷静に、いつものように口を開く。
「それって先輩、どう言う意味……」
「さて、どんな意味でしょうね」
ケイが笑顔になる。
全く敵う気がしない、セツナはため息をついた。
白髪が増えてしまいそうだ。
「セツナく〜ん、ケイちゃ〜ん。 アイス買ってきたよ〜」
「あ、ナユタさん。 ありがとうございます」
ナユタが手提げ袋からアイスを取り出し手渡す。
だが、アイスを食べる気分が一瞬で吹き飛んでしまった。
「どったの? セツナくんは」
「さぁ? どうしたんでしょうね」
よく言うよーー溶けかけアイスをパクついた、とある蝉時雨の夏の日だった。
………
………………
………………………
暗闇の中。
玉座に座る一つの影、ーーラウ・ルクバーだ。
闇に溶け込むような声でつぶやく。
「ーームルシュラゴは討たれたか」
その声は僅かに震えていた。
たった一人の友を失ったのだ、無理はない。
哀しみが無い訳がない。
だが、慟哭よりも悦びの感情が強い。
「あいつも俺について来なければ、餌となる事は無かったというと言うのに」
ムルシュラゴは辺境の星の支配者であった。
その星は絶対君主制を敷いていたものの、豊かで美しく、何よりも真の意味で平和であったと聞いていた。
ムルシュラゴも民から慕われる良き君主であったが、ラウとの出会い全てを変えてしまった。
彼はその力に惹かれ、力を求めやがて……。
その後、彼の星がどうなったのかはラウは知らない。
弱者には興味が無い。
例え、栄華を極めようと、滅亡の道を突き進んでいたとしても。
「ーー失うには惜しい男だったが、……だからこそ失うに値する男だ」
彼のその瞳には星々の輝きの写していた。
「ーーこれでまた一歩、ヤツに……」
ラウの牙が静かに嗤うように輝いた。




