1-6 意地っ張りとプライドが高いことの違いは
『どうしてもダメか?』
「何度でも言ってやろう。 嫌だ」
このやり取りも何回目だろうか。
無限ループに陥りかかっているというのに交わらず平行線のまま。
だのに互いに妥協案はなく、歩み寄りも存在しない。
深い理由なんて存在してなかったと思う。
何度も言うが彼の事が何となく気に食わない、癪に障るのだ。
セツナ自身何となくとしか感じてないのだ、15年程度しか経験の無い少年に分かるはずがない。
「何度言っても僕の考えは変わらんぞ、悪徳商法宇宙人」
彼は、あの宇宙人のように契約契約と迫っていない、と声高らかなんだか狼藉しているのか分かりかねたが否定はしていた。
ところで誰のことだ、その宇宙人は。
『ーー今、きみの身体は命が尽きかけている。 私が離れればきみは…』
「構わないさ」
僕は、そう……あいつを助ければ良かったんだ。
名前通りの生き方とどうぞ笑ってくれ。
後悔はないと言えば嘘になるが、生き方に悔いはない。
あいつを救うのが僕でなくなった、それだけだ。
セツナは静かに呟いた。
『……きみはどうしてそんなにニヒルなんだい?』
彼が寂しそうに呟いた。
心無しか彼が薄く見えた。
「そんなこと僕が知るか」
彼はそうか、とだけ答えた。
『では……断腸の思いだが……。 !?』
「どうしたんだ」
その時マーブル模様の空間が激しく歪み始めた。
さっきとは違う、明らかに異常な事、危険だと直感が告げている。
彼が念じるとぽっかりと空間に穴が空き、映像が流れた。
外の様子が映されているのだろうか。
『この空間はきみたちの空間と時間の流れが違って遅い。 だが、のんびりする暇なんてなかったのだ』
セツナは出来るだけ冷静に務めながらもその映像をを見た。
そこには最早廃ビルと化したビルをバックに先ほどのリザードマンがいる。
その目の前には見知った顔があった。
「……ナユタ?」
意味が分からなかった。
どうして先に逃げたあいつがあそこにいるのか。
『きみの知り合い……だね』
セツナは頷く。
正直混乱しそうだ。
わざわざ探しに戻ったというのか。
反対側の方向に誘い込んだ自分が馬鹿みたいだ。
幸いにもまだ捕まってはいないがしかし、それも時間の問題だ。
彼女には現状を脱する策を絶対に持っていない事だろう。
十何年共に過ごしてきたのだ、それ位分からないでか。
そして、最も問題な事は彼とは同じ奇跡は起こり得ない事だ。
このまま指をくわえて見ているだけと言うのか。
彼女に何もしてあげれないだけなのか…いや、方法が無いワケでは無い。
いや、それはしかし…自分の考えを屈辱的に曲げ裏切る事だ。
それはプライドが許さない。
このまま黙って見ているだけか、あるいは彼の語るヒーローになり彼女を助けに向かうか。
しかしそれは一か八かの賭けであるのを忘れてはならない。
現にセツナも、彼も負け犬の称号を得ているのだ。
融合して必ず勝てる通りはない。
首根っこを掴まれたあの感覚が蘇る。
出来るのか?ーーセツナは頭の中の天秤で測る。
行くか、行かないか。
セツナは1人ほくそ笑んだ。
そうだ、選択肢なんて意味が無かった。
「おい、狼狽え宇宙人」
セツナはジッと彼を正面から見据えた。
真っ直ぐで迷いが無い眼だ。
「力を貸してやる。 ーーだから、お前の力を貸せ」