5-10 ロンリー・スターズ
宇宙海賊エグスキ所属、アルカディア号の船長室は相変わらず暗闇に包まれていた。
その中にスポットライトのように2人の影が浮かび上がっている。
ラウ・ルクバーとフェニーチェ・セイリオスだ。
「ーー気分はどうだ?」
ラウがフェニーチェに声をかけると彼女は既に落ち着きを取り戻したようでいつものように静かに言った。
「……問題、ありません。 ですが……」
フェニーチェは俯く。
「どうやら私に身に覚えの無い記憶があるようなのです」
「……大方、超々距離のワープに伴うコールドスリープの弊害だろう」
この広い宇宙を舞台に生きるならば惑星間での超々距離ワープは必要不可欠である。
また、エグスキの物はコールドスリープを併用することで身体の負担を軽減し、従来のものであれば身体に異常をきたすようなとは出力であっても問題無く使用することができる。
そしてこのエグスキが使用しているワープ装置は一種のオーパーツであり銀河系全ての技術を動員しても再現は愚か、解析することすら叶わないだろう。
神出鬼没、これにより宇宙海賊エグスキは宇宙をまたにかけた暴略をつくすことが出来るのだ。
ただし、負担を軽減するというコールドスリープが極々稀に問題を引き起こす場合がある。
記憶障害を引き起こす可能性があることだ。
引き起こされる要因は様々であるがいずれにしろ比較的軽度な物であり、起きる可能性としても低いとすればそれを問題とすることは基本的にないと言ってもいい。
現在の地球の乗り物を考えてみればわかりやすいだろう。
どんなに墜落事故が起こりうる可能性があったとしても飛行機がなくならないようにメリットがデメリットを遥かに上回る。
それに人の一生は宇宙の広大さに比べ短すぎるのだ。
「……私は、私が分からないのです」
確かに彼の言う通りかもしれない。
だが、あの垣間見た記憶は何だったのだ?
記憶と未来が別人のような感覚でキッパリと二分されている感覚だ。
「フェニーチェーー」
ラウの声にフェニーチェが顔を上げる。
彼がゆっくりと近寄ってきた。
表情は逆光でうかがい知れない。
何も抵抗出来ない。
至近距離、彼がそっと耳元に囁く。
「ーーお前は俺の右腕だ。 無駄な事は考えなくていい」
彼の目はまるで魔眼のような魔力を持っていた。
まどろみの中に堕ちていく。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
フェニーチェを下がらせた後、ラウは目の前の大きなスクリーンに投影された宇宙の海を眺めていた。
その中心には青い地球が浮かんでいる。
「ーーやはり、俺の見込んだ通りだ」
プレステイル、彼は着実に力を付けてきている。
むしろ、当初の予想を遥かに上回る程だ。
ベネノパイダスの野心を利用し、プレステイルに当てつけた甲斐があったと言う物だ。
それでもまだ自らの腹を満たすには満たない雛鳥。
このゲームを続けていけばいずれは丸々と太った鳥と成るだろうが、しかし、そうも言ってられなくなった。
プレステイル。
それが我が野望に近付く為の要である。
それにフェニーチェの他に同種の生き残りがまだいるとは思わなかった。
奇跡的な巡り合わせと言えなくもないが、同時にそれは大きな問題点でもある。
不完全な覚醒などリスクでしかない。
「……急がねばならなんようだな」
見上げた先には青い地球が煌々と輝いていた。




