1-5 謎空間、ファーストコンタクト
「…ここは?」
セツナが目を覚ますとそこは見知らぬ空間であった。
いや、見知らぬ、と言う表現は生温い。
人知を超えた空間、無理矢理表現するならば重力そのものが存在しない異空間と言ったところか。
これは夢である……いや、走馬灯と言ってしまえば楽であるが、そうとは言えない妙なリアリティを持っていた。
様々な色が混じり溶け合い、正視出来なくて思わず目を背ける。
しかし、背けた先もまた同じで……正直言って気がどうかなりそうだ。
毒でも吐いてないとやってられない。
「……悪趣味な」
『カガミ・セツナ……失礼なやつだな、きみは』
声がこの悪趣味空間に響く。
ハッとして前を向くと目の前にはバスケットボール大の光の珠が浮かんでいた。
あたかもこの空間の主であるかのように。
「 何故僕の名前を知っている?」
セツナがサッと身構える。
見ているものが夢であれ死後の世界であれ何であれ、目の前にいるものは得体のしれないものだ。
油断出来ない。
『きみの記憶を少しばかり読ませてもらった。 ーーそれにしても仮にもきみの命の恩人と言ってもいい存在だよ、私は』
セツナは無言で睨みつける。
命の恩人であろうが何であろうが、自分の記憶を覗かれるのは気分が悪い。
恩知らずとどんなに罵られようともそれはプライベート侵害だ。
『いやいや、ほんの一時間程度だよ?』
「……助けて貰ったことには礼は言う」
セツナはムスッとして光の珠をジッと見返すと、すまない、と彼は消沈しながら言った。
セツナがため息をつく。
「で、あんたはなにもんだ? 」
『ーーさて、どう説明したものか』
彼は少しだけ沈黙し、やがてこう静かに続けた。
『きみは、きみたちから見て…そう、宇宙人の存在を信じているかい?』
「宇宙人?」
日常会話の中じゃまず聞かないような単語を思わず素っ頓狂な声で聞き返す。
宇宙人とはあの宇宙人か?
SF映画とかのフィクションで出るような。
「信じてたワケじゃないが……。 ーーそうなんだろ?」
今日の事が枕物語じゃなければ、と付け足しつつため息をつく。
彼はあくまで静かに肯定の意思を示した。
『彼らは私を、刈り取る暴風『プレステイル』と呼んでいた』
「通称、プレステイル…、ね。ーー彼ら……と言う事はあんな奴らがまだいるのか?」
セツナの問いに呆れながらというか、ため息つきながらというか、肩をすくめるように答える。
『残念ながら腐る程ね』
宇宙は世紀末…か。
それでは宇宙人は存在した、というニュースはグッドニュースでは無くバッドニュースではないか。
『私はそんな輩から皆の平和を守る為に日々戦っている』
そう語る彼の言葉はとても澄んでいて、それでいて怒りに燃えていた。
使命感に燃えている、と言っても良いだろう。
その考えはとても素晴らしいものだと思う。
しかし、何故か気に食わない。
一つ補足しておくが、記憶を覗かれたこととそれは全くの別問題だ。
「ボロ負けしてたが?」
『ぐ……痛いところをついてくれるね』
当たり前だ。
そこを狙ったからな。
単に彼の事が気に食わない所為だろう、憎まれ口を叩くのは。
何度も言っておくが、記憶を覗かれた覗かれてないはやっぱり関係無い。
『この星はどうも勝手が違うようだ……。 そこでだ…!』
彼がずずずいっとセツナに詰め寄る。
一目で興奮していることがわかる。
思わず体を反って彼から避けた。
圧倒され蹴落とされそうだったから。
『きみは先ほど己が身体を犠牲にしようとしてまであの市民たちを助けようとしたね』
あの市民たち……一方はナユタのことか。
あーうん、それは一応間違っていない。
確かに彼女を助けるためだった。
セツナが頷くと嬉しそうに続けた。
『本来はその行動は無謀だと言うが、確かにそれの根底は勇気だ』
そうか?ーーセツナは目を細める。
そう言われて嬉しいわけではない。
むしろ心地悪い。
「それで、何が言いたい?」
イラつきをあまり隠そうとせずに続きを促す。
ちょっと待てと彼が深呼吸をする。
興奮した心を落ち着けるためだろうが、光の珠が深呼吸をしている。
とても、なんていうか、シュールだ。
『その、卑怯かもしれないが…私にはきみしかいない。 共に戦ってくれないか!?』
プロポーズかよ、あほか、と頭の中で罵りながらもセツナは頭を抱えた。
今日はいつもの日常から現在進行形でぶっ飛び過ぎてる。
さっきと言っていることは違うがこれが夢でないならば誰か他の可能性を示して欲しい。
「そうだな……」
命を救って貰ったと言う恩もある。
ある意味これは交換条件と言うことか。
これに関しては特に嫌悪感は抱かない。
ドライに思えるが世の中ギヴアンドテイクだ。
何もない方が逆に怪しい。
それに関しては好感を抱くのだ。
だがね。
ニヤリと笑みが止まらなかった。
それとこれは違うんだ。




