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疾風!プレステイル  作者: やくも
第五話 素顔の仮面
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5-9 苦しみの赤と涙の緑

 ナユタが瞑っていた目を開けた。

落ちる彼女を抱きとめていたのは、プレステイル。

紅い仮面の青い宝石がキラリと光り、微笑む。


「あ、ありがと、セツナくん」

「バカナユタ! 僕はこっちだ!」


 声がした方を見ると両腕の翼を閉じ今まさに地上に降り立つ緑のプレステイルがいた。

ナユタは両方交互に見た。

似てはいるが色が違う。

彼は緑の仮面に紅い宝石、一方、彼女を抱きとめた方は紅い仮面に緑の宝石。

紅いプレステイルが微笑みを絶やさずに彼女を下ろした。

すかさず緑の旋風が間に割り込む。


「どういうつもりだ?」


 緑の剣が軌跡を描き、紅い仮面に迫る。

バサリと背中の紅い翼を羽ばたかせ、その緑の閃光を避けた。

紅い羽根が舞い散る。


「答えろ、フェニーチェ……! 貴様らの目的は何だ?」


 プレステイルが噛み付くように唸る。

その紅い仮面の下の素顔を見たわけでもない、その彼女の声を聞いたわけでもないのに、何故その正体に勘付いたのか彼自身わからなかった。


 だが、今はそんな事はいい。

彼女の立ち位置を、宇宙海賊エグスキの目的をハッキリさせたい。

例えばその目的が地球征服であるならば、その気になれば一週間と経たずに成し遂げてしまうだろう。

それは相棒が言っていたことでもあるが、彼自身大空市で16体のホルシード兵を相手取り立ち回り戦った時に実感していたことだ。

相手はまだ本気で攻めて来てない、と。

紅い翼のプレステイル、……フェニーチェは薄く笑っていた。


「その剣は何ですか? 第一、私は貴方たちと争うつもりはありませんよ」

「ーーそのマスク、引っぺがしてやる」


 ジリッと一歩にじり寄る。

剣を正段に構えフェニーチェを睨みつけた。

彼女は言葉とは裏腹に依然微笑みを絶やさずにいる。

あたかも彼が絶対に勝てないと確信しているようだ。

気に食わないーープレステイルの剣に力がこもり、踏み出そうとしたその時。


『待て、セツナ!』


 頭の中に声が響き、左手に持つ剣が光の粒子になって消える。

プレステイルは驚く暇も無く光に包まれ溶けていく。

強制的に変身が解除されていくのだ。

肌色の手のひらを見る。


「……どういうつもりだ、相棒?」

「セツナ、今のきみの状態は非常に危険だ!」

「そんなこと……自分が一番知っている」


 セツナはツイッと目の前を羽ばたく緑の鳥に向かってすかさず言い返した。


「冷静になれ、きみらしくないぞ」

「僕は至って冷静だ」

「それが冷静じゃないんだ」


 目の前で2人……いや、1人と1羽が言い争っている。

ナユタが真ん丸な目をさらに真ん丸にさせてつぶやく。


「と、鳥が喋ってる……」

「……バカナユタは黙っててくれるか?」


 セツナはため息をつく。

彼女のシリアスブレイカーっぷりにも参ったものだ。

彼は冷たい視線を送る、……興が冷めてしまったと言うよりも逆に冷静になれた気がする。


「ーー話はまとまりましたか?」


 フェニーチェは笑みを絶やさずに言う。

その様子は最早和やかささえ感じた。

そう、幼い姉弟を見守る姉のような穏やかな目だ。


「……不本意だが、任せるぞ相棒」

「すまない、セツナ」


 緑の鳥が静かに頷く。

フェニーチェと向かい合うと、溢れる感情を抑えるように言った。


「ーーフェニーチェ、貴女に会いたかった」

「そう、あなたが……。 直接会うのは始めてですね、プレステイル」

「この姿では、ね……」


 緑の鳥のつぶやきは誰も聞こえなかった。

再び、彼女を見据え言う。


「率直に聞きこう。 ーー貴女は本当にフェニーチェなのか?」

「おかしな事を聞きますね。 私は宇宙海賊エグスキのフェニーチェ・セイリオス……それ以上でもそれ以下でもありません」


 フェニーチェは笑みを絶やさず、だが怪訝に言った。


「それがどうかしましたか?」

「いえ、人探しをしていたもので……、どうやら貴女は人違いだったようだ」


 シュンとする緑の鳥。

フェニーチェはその様子に懐かしさを覚えた。

出処は分からない。

記憶の海をいくら潜ってもどこにも無い。

彼女がいつものことだと忘れさろうと海に沈めた。


「すまないフェニーチェ、御手数をかけてしまった」


 羽ばたきながら器用にぺこりと頭を下げる。


「本来敵である貴女に言うことでは無いのだが……彼女を助けてくれた礼を私の方から言わせてくれ」


 緑の鳥が言葉を発する。

地球人の2人には言葉の意味が理解出来なかった。


『ありがとう』


 フェニーチェは微笑み返す。


『どう致しまして』


 フェニーチェは自分の言葉に首を傾げた。

ーー今の言語はなんだ。

宇宙は広いとは言え、今発言した言語は全く知らない。

おかしな話ではあるが、自分の知らない言葉を聞いて理解し、その言葉で返した。

こんなことがあり得るだろうか?


 緑の鳥が目を瞑る。

そして、自分の言葉を確かめるように一言一言安らかに言う。


「やっぱり……今のは亡き私たちの星の言葉だよーー姉さん」


 驚くよりも先に緑の鳥が強い光に包まれた。

あまりの眩しさに思わず目を覆う。

何が起こっているのかセツナには分からなかったが、相棒と出会った時の心地よい風を思い出していた。


「……相棒、なのか?」


 光が収まった時、緑の鳥がいた所には1人の子供が立っていた。

顔立ちは幼い少年のようであり、凛々しい少女のようであり、あたかも西洋の人形のような不思議な感覚を覚える。

体格自体は見た目に違わず華奢で、しかし、深緑の長い髪がまるで羽のように広がっていた。

その子供の髪がフワリ風になびき、薄っすらとその赤い瞳を開ける。


「……その、姿は……?」

「姉さん、私だよ……バーディだよ」


 フラッシュバック。

その声、その姿、その名前……唐突に全てが回る感覚。

鮮明に蘇りつつあるセピア色の映像。

目の前の人物と重なる笑顔の誰か。

影が嗤い、黒い手が視界を奪う。


「うぅぅあぁっ!?」


 フェニーチェは頭を抱えもがき苦しむ。

何か、決定的な何かが頭の中を駆け巡る。

理解出来ずに全てを否定する。


「ーー私は! 私は……こんなの、知らない!」

「姉さん……会いたかったよ姉さん」

「ーーお、おい、相棒!?」


 よろめく彼女に子供……バーディが感情を抑えることができずに一歩踏み出す。

セツナは軽いデジャヴを感じながらもバーディの手を掴む。


「うるさい! バーディ!」

「姉さん!?」


 赤い炎の壁が立ち上がる。

あのまま進めばフェニーチェが発生させた炎によって丸こげになっていただろう。


「ーー私を、苦しめるな! バーディ!」


 フェニーチェの片手はズキズキと痛む頭を抱えて、もう一方は炎を纏い突き出していた。

息は荒く、そこにいつもの冷静さの欠片さえない。


「ーー私に……(バーディ)なんていない!」

「くっ…!」


 続けて数発手のひらから火球を放つ。

迫る火球、避ける暇は無い。

バーディが両手を広げると彼らの周りに風の壁が吹き荒ぶ。

火球は風に巻かれ弾けた。

また迫る火球、如何せん数が多い。

風の(バリア)が破られるのも時間の問題だろう。


「ーーすまない、セツナ。 早く逃げてくれ」

「そうしたいのは山々なんだがね……そうもいかないようだ」


 彼女が天を掴むように腕を上げると、その手のひらに炎が収束し始め巨大な火球を生成しようとしていた。

まるでそれは太陽のようにも見えた。

あの熱量、先の火球とは比較にならない。


 バーディは風の壁を解き、セツナとナユタの手を引き翔ける。

少しでも遠く、逃げるしかない。

だが、絶望的に時間が無さ過ぎる。

ゆっくりとフェニーチェの手が降ろされた。


「ーーダメだ! 逃げ切れない!」

「消えてしまえ! バーディ!」


 その時である。

フェニーチェの降ろされんとする手が掴まれ、合わせて火球が宙に霧散した。

影から彼女を掴むのは一匹の狼男、ウェアヴォルト。


「俺の飯を喰らってどうするつもりだ、フェニーチェよ」

「ーーラウ…さま?」


 彼女が最も信頼する人物、ラウ・ルクバー。

彼の姿を見たからか、息は荒いままであるが落ち着きを取り戻しつつある。


「フェニーチェ、帰還するぞ」

「しかし、ラウさま! 私は……!」


 ウェアヴォルトに掴まれていた手を払い抗議する。

彼が静かに重く言う。


「ーーもう一度言う……帰還するぞ」


 有無を言わさない程の威圧。

それはセツナ達に向けられているわけでも無く、遠く離れた此処でもピリピリと感じる。

気を抜けば蹴落とされてしまうだろう。

フェニーチェは無言で俯く。


「ーーウェアヴォルト……!」


 セツナが痛む身体を押して呪詛のようにその名を噛み締める。

呼ばれて初めて気が付き彼らを見下す。


「みっともない所を見せてしまったな、少年(プレステイル)よ」


 ウェアヴォルトの牙が光る。

セツナは唸り睨む。

嫌われたものだ、と狼の口が歪む。


「貴様らの成長は確かに素晴らしいものだが……勇み足は身を滅ぼすぞ?」


 ゆらりとウェアヴォルトとフェニーチェの周りの空間が揺らぐ。

空間転移だ。


「ーー待て! 逃げるのか!?」


 セツナの叫びにウェアヴォルトの牙はニヤリと輝く。

背中に氷を入れられたような感覚。


「まだお前はそのレベルじゃない。 せいぜいこのゲームを愉しんでいろーー」


 腹の底に響くような嗤い声を残し、彼らが消える。

残されたのはセツナとナユタ、それとバーディだ。

沈黙が周り包み、バーディがその沈黙を破る。


「行ったか……」

「行ったな……。 ーーところで相棒?」


 彼らが消えた空を眺めていたバーディがセツナの方を向く。

セツナは何故かため息をつき、ナユタからはジトりとした視線を送っている。


「なんだい、セツナ?」

「聞きたいことは沢山あるんだが、……まずは早急に鳥の姿に戻ってくれないか?」


 バーディが首を傾げた。

この地球人に近い姿の方が何かを話すのには何かと便利でいいのに……。

疑問を口にする。


「何故だ?」

「いろんな意味で流石にそれは無いが……このバカナユタの視線が痛いんだ」


 彼女の視線がジッと訝しむようにセツナと自分を交互に見ていることに気が付いた。

自らを見る。

スルリとした裸体だ。


「あ、ああ、すまない。 すっかり忘れてたよ。 ーーこれだから生身の身体は……」


 そこんとこやっぱり宇宙人なんだなーー全く恥ずかしがる様子さえ見せないバーディにセツナは呆れた。

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