4-7 コモン・アイズ
「……と、とまった?」
シュンは未だ混乱する頭を振る。
いきなりフラッシュグレネードのような閃光が弾けたと思ったら誰かと誰かがが争うような轟音が襲ってきた。
光が収まり目が慣れてきたら、いつの間にかあの蜘蛛の怪人は消えてるし、バスの前ガラスはぐしゃぐしゃに砕けてる。
一瞬、安心しかけたが、安心出来るはずもない。
バスのコントロールは失われ、目の前いっぱいの遮音板が迫っていたからだだ。
「ーーその時、不思議なことが起こった! ってか?」
いやいや、流石にそんな事はねぇかーーシュンは自分で自分にツッコむ。
某黒い太陽の子供のようにそんな都合の良い展開が起こるはずもない。
だがしかし、そうとしか言いようがない。
急にバスが独りでにスピードを落としたのだ。
そして、ついに止まったのである。
それがこのざわめきなのだ。
「なぁ、せっつん、どういう事だろうな……」
違和感を感じた。
ここで間髪入れずに『せっつん言うな。 ーー僕が知るか』と言うセリフが入るはずなのに、返ってくるのは沈黙だけだ。
「あれ、どこ行ったあいつ?」
後ろの席を見るともぬけの殻。
探そうと見渡すと一番前に気を失っているナユタを介抱している後ろ姿がざわめきたつ人並みの中一瞬見えた。
あの男子生徒用のブレザーを着ているにも関わらずショートカットの少女にしか見えない後ろ姿はシュンが知る限りセツナしかいない。
「……流石セツナ、手が早すぎだぜ」
彼は、どれだけ彼女の事好きなんだよ、とセツナの速さに呆れた。
どんな事があってもナユタの元に行くなど、彼がブレなさ過ぎて逆に尊敬の感情すら覚える。
「ーー俺も何か手伝うよ」
「ーーおい、あれ見ろ!」
彼がナユタたちに近付こうとしたがとある乗客の声に阻まれた。
シュンが指の方向を見ると、バスの外に1人の鳥人ーー確かプレステイルと言ったか?ーーが佇んでいた。
睨む方向には立ち上がる蜘蛛の怪人、ベネノパイダスがいる。
湧き上がる車内。
いま話題のヒーローが悪の怪人を倒すために現れたのだ。
それも無理はない、とシュンは思う。
ーーだが。
「……って、ここにいちゃあぶねえかね? おい、セツナーーってありゃ?」
ヒーローマニアとしてヒーローの戦いを見ておきたい気持ちをグッと抑え、目を伏せた。
そして、早いところここから離れようと彼らに言おうと突然のヒーローに熱を上げる乗客をかき分け一番前に着いた時、セツナとナユタはもういなかった。
開けっ放しのドアからヒュルリと物悲しく風が舞い込む。
「だから、速いっつうの……」
シュンは頭をぐしゃぐしゃとかいた。
もう既に逃げてるとは……。
ここは名前通り速くなくてもいいだろうよ。
恐らくヒーローどうこうに興味無い彼の事だ、サッサと彼女を連れて退避したのだろう。
ヒーローを前にして燃え上がる気持ち抑えたこの気持ちを理解出来んのか、セツナは。
……こうなったら意地でも見届けてやる。
そして、後で彼がウンザリするぐらい話を聞かせてやる。
シュンはドカリとプレステイルとベネノパイダスの戦いが一番見えるであろう座席に座った。
危険であろうとなんであろうと関係ない。
ただただこの戦いを目に焼き付けてやる。
目はすでに据わっている。
そして、息を思いっきり吸い込んだ。
気分はビール片手にデイゲームを観戦するおっさんである。
「プレステイル! そんな宇宙人ぶっ飛ばしてやれ!!」




