4-6 次のレベル
気合い一閃、セツナは両腕を振るう。
世界が光で白く染まり何も見えてはいなかったが関係ない。
ナユタを傷付けぬように、彼女を拘束する蜘蛛の腕を断つ。
「ーーぎ--」
叫ぶ暇さえ与えない。
彼女を奪還、抱き寄せつつ空いた方の手で思いっきりダッシュの勢いのまま殴りつける。
セツナは殴られバスの前面ガラスに張り付けのように叩きつけられたベネノパイダスに向かってナユタを抱き寄せたまま跳躍、蹴りを放つ。
大きなガラスを突き破り、ベネノパイダスが吹き飛ぶ気配が緩むことなくバスの進行方向に吹き飛んでいく。
二、三度スーパーボールのように跳ねて右カーブの遮音板にぶつかり合いようやく止まった。
ナユタは自分を抱き寄せた人物の顔を見た。
顔が逆光めいてよく見えなかったが、彼の面影を思い出していた。
「ーーセツナ、くん…?」
プレステイルはドキリと心臓が跳ねる心地であったが、彼女は安心したのか気を失った。
彼女は自分が守りたいが……今はあの女性に任せるしかない。
今は自分だけが出来ることに集中しなければ。
彼女をそっと横に寝かせてから、バス運転席に座りコントロールする人形を裏拳の一撃で頭部を粉砕する。
プレステイルも突き破った窓から外に飛び出す。
ベネノパイダスが遮音板にめり込みすぐには動けないことを確認してから、宙で反転しバスに正対した。
残る人形は前面に2体、後方に2体。
人形たちは車内の異様さ……敵の襲撃を勘付いたのか今まさにバスに銃撃を放とうとしていた。
プレステイルは両腕を大きく広げ翼を硬質化させる。
「ーースナップラフィカ……ッ!」
同時に身体の前で交差するように両腕を振るうと鋭い羽根、いやナイフの如き刃が射出された。
閃光と化した羽根がまるでダーツのように前面の人形の頭部を、後方の人形の銃を穿つ。
「命中!」
頭部を穿たれた人形がバランスを崩し一瞬遅れて爆発四散する。
敵、プレステイルの存在にようやく気が付いたのか、奥の2体が銃を敵方に向け構え弾く。
しかし、弾は放たれず。
プレステイルはニヤリとほくそ笑んだ。
額の赤玉が輝くと同時にプレステイルは分身、残る2体の人形に向け飛びかかる。
2人のプレステイルは同時に左手を右腰に当てて緑の宝剣を生成、一気に引き抜いた。
人形たちが慌て手元の剣を構える。
ーーだが遅い。
「ソード……ラファール……!」
すれ違いざまに緑の光芒。
プレステイルがフワリとバスの上に降り立つと両断された人形が4つの光球に姿を変えた。
彼がフゥと息をつき加速能力を解除する。
安心したつかの間、足下……つまり車内から悲鳴が聴こえパニックになっていることに気が付いた。
とっくの昔にあの女性が創り出した目眩ましの閃光は収まっている。
パニックになるのも無理はないだろう。
プレステイルは思い出したように頭をかく。
まだ変身して3秒も経っていない。
ついつい自分の体感速度までも変化していることを忘れてしまう。
「まったく……時間感覚狂うな……」
バスはコントロール不能。
進行方向には遮音板、激突すれば大事故は免れない。
車内の人間でこの事態に対応出来る者は皆無であるだろうし、もし出来た者がいたら喜んでヒーローの役目を譲ろうと思う。
どちらにせよ、急ブレーキかけても間に合わない速度と距離であるが。
彼が片膝を立て、バスに触れると額の赤玉が光った。
「ーー加速」
バスが緩やかにスピードを落としていく。
対象物を加速する能力、それを応用する。
進行方向とは逆に力を加え、加速する力をプラスマイナス0に持って行けば止まるはずだ。
速度に合わせ力を緩める。
車内から見れば、バスが独りでに急に速度を落とすように見えただろう。
バスが完全に停止する。
激突まであと数メートルのところであった。
「これでとりあえず良し、だな」
プレステイルがバスから手を離し、軽やかに跳躍、ベネノパイダスが激突した遮音板の前に降り立つ。
プレステイルは手の宝剣を腰に収めるとそれは宙に光の粒子になって溶けた。
呼吸一つ、精神統一、気を落ち着かせ目を閉じる。
残る敵は、ベネノパイダスただ1人。
剣は必要無い、ただどうしようもない怒りをぶつける拳だけが必要だ。
「ーー今日の僕は少々荒っぽいぞ」
プレステイルは目を見開き、倒すべき敵を見据え拳を構えた。




