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疾風!プレステイル  作者: やくも
第四話 変わらない想い
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4-5 女又心

「早く来やがれ、プレステイル! 早く来なければこいつら全員地獄行きだぜ!?」


 ここに既にいるんだがねーーセツナはため息をついた。

前回の戦いで顔はウェアヴォルトによってエグスキに割れてると思ったが、どうやら杞憂だったらしい。


 窓の外の風景が高速で流れて行く。

いまだにバスはハイウェイを爆走している。

そしてそれは本当に地獄への特急便でないかと錯覚させた。


「そのために色々手を回したっつぅのによ!」


 どうやらプレステイルと戦うために色々と策を張り巡らしてたようだ。

その情熱をトラップに割けばいいのにーーセツナが見たところ大掛かりなトラップは無い。

蜘蛛の巣に飛び込んだ自分も自分だが……。

一々癪に触るバカな奴だ、セツナは一人思う。


 早くプレステイルに変身して目の前の蜘蛛男、ベネノパイダスを討ち倒したいところであるが、偶然かどうかは定かで無いが、状況がそれを許してはくれない。

セツナは目だけで車内をそっと見渡し、状況を整理する。


 一番の前には敵であるベネノパイダス。

それに対しセツナはバスの後方にいる。

また、脅威になるのは車内だけでない。

車外に張り付くように飛び銃口を車内に向ける人形達である。


 人形の数は5体。

1体はバスの運転席に座り操縦をしている。

あとの4体の人形はベネノパイダスの死角を補うという理由があるのだろう。

幸か不幸か、セツナは前後の座席によってベネノパイダスからも人形からも丁度死角となっている。

ここだけを見れば反撃のチャンスが多いと捉えられるだろう。


『反撃には難易度が高過ぎるな』


 セツナも、セツナの中にいる彼の所見に同意する。

隙をついて変身したとしても、変身完了までの0,05秒、敵までの位置まで到達するのに0,1秒、生身の人間であったならば到底対応できるものでは無い。

だが、彼が相手にするのは生身の人間では無くサイボーグ化した宇宙人、機械仕掛の人形だ。

ただ行動するだけでは何かしらの対応されてしまうだろう。


 例えば、最初からお山の大将のベネノパイダスを狙い戦ったとしても、倒すまでの間に人形は行動を開始し攻撃を仕掛けてくる。

人形から狙ったとしても、少なく見積もって全滅させるのに3秒はかかるだろう。

問題は各敵までの互いの距離である。

それぞれの敵の位置が遠過ぎるのだ。


 仮に彼だけが囲まれていた場合であれば、一点突破で離脱、その後の戦闘が可能だ。

だが、今回は彼だけでなく、一般人ひいてはナユタの存在がある。

反撃を行いつつ彼女らの盾になる事は不可能である。


 ほんの数秒、敵の気をそらせればいい。

人形の制圧ならばそれだけで十分だ。

問題はその隙を如何様にして作るかである。


「ーーなぁ、スミゾメ」


 セツナは出来るだけ小さな声で前の席に座るシュンに話し掛ける。

シュンは振り向かず、彼もまた出来るだけ小さな声で応える。


「……なんだ、ナっち」

「ーーナっち言うな。 ーーお前ヒーローになってみないか?」


 シュンは、俺もお前の考えを読めた、と呆れながら言った。


「セツやん、お前、俺を生け贄にしようとしてね?」

「セツやん言うな。 ただジョーク言ってみただけだ」

「笑えんぞ、それ」

「ゴチャゴチャうっせえよ、後ろ!」


 ベネノパイダスの怒号が車内を響く。

シュンを囮にして安全確保すると言う作戦は二つの意味で失敗したようだ。


『セツナよ、流石にそれはないわ』


 全く、お前も本気にしてたのか。

セツナは心の底から引いている彼の声にため息をつく。

まぁ、ほんの、ほんの少しだけお調子者の彼ならやってくれると思ってたがね。


「ーーしかし、つまらんな」


 ベネノパイダスが心底暇そうに車内を見回す。

面白い物はないかと、


「……おっとヒマ潰しに良さそうなモノ発見っとね!」


 複眼が一人の怯える少女を捉える。

キチキチと耳障りな音を立てて牙を鳴らす。

視線の先はセツナの隣を向いていた。


「ーー!」


 隣には……ナユタが座っていた。


「ーーキャア!?」


セツナが反応するよりも早く、ベネノパイダスは六肢に分かれた腕から蜘蛛の糸を打ち出す。

セツナが手を伸ばす。

それによりナユタを拘束し自らの側に素早く引き寄せた。

セツナの手が空を切る。

反応出来なかった自分が許せない。


「俺、上玉の生娘を辱めながら喰らうの結構好きなんだよな〜」


 ナユタの顔がサッと青ざめる。

彼女の頭のすぐ上にはベネノパイダスの牙がキチキチ嗤う。

蜘蛛の肢が彼女を品定めするように触る。

怖い、気持ち悪い、マイナスの感情が駆け巡る。

制服をまるでカッターで裂くように肢が這う。

ナユタの顔は青ざめているのか、赤面しているのか判別がつかなかった。

恐らく両方だろう。


「……変態が……!」

『落ち着くんだ、セツナ!』


 もう、関係無い。

彼女さえ助かればそれでいい。

他の奴らなんて知ったことで無い。


 頭に血が上り、カッと熱くなる。

セツナはホケットの中のフェザーエヴォルダーに手を延ばす。


「ーーおやめなさい、暴風(プレステイル)

「……っ! お前はーー」


 後ろの席に座っていた女性の声に制され、フェザーエヴォルダーを引き抜く手を止める。

セツナはハッとし、冷静さを取り戻した。

もしこのまま変身したとしても悪戯に周りに被害を与え、そして彼女に更なる危険が襲っていただろう。


「落ち着きましたか?」


 その女性の声は不信感よりもむしろ安堵感すら覚える。

セツナはこの声聞き覚えがあった。

いや、懐かしさを感じたのは頭の中の彼だったろう。


「ーー何故、あなたがここにいる?」


 セツナは振り向くことなく低く呟くようにその女性を問いただす。


「全てはあの人の理想のため」

「ーーまさか、あなたはーーそう、なんだね」


 セツナ自身何を察したか理解出来なかった。

しかし、その女性との決定的な溝を感じざるを得なかった。

暫しの時、沈黙が2人の間を漂う。


「ーー私が奴の隙を作りましょう」

「どう言う事? 奴とは味方なのでは?」


 女性が小さく笑う気配がした。


「あの人……ラウ様の理想のためならば些細な犠牲です」


 ラウ、その名を聞くだけで悪寒が奔る。

手も足も出ず、挙句の果て見逃してもらったという苦い記憶が蘇る。

いつかは倒さなければならない敵、二つ名をウェアヴォルトと言う。


「協力するというのか?」

「質問が多いですね。 二度も言いませんよ」


 セツナは一瞬罠かと疑った。

いや、疑うばかりでは進めない。

女性の真意はわからないが、確実に言えるのは目の前の敵とは違う方向を見ているということだ。


「敵のまた敵は味方と言うことか……」


 ナユタの方をチラリと見る。

表情は怯えに固まっていた。

彼女の白い肌にプクリと紅い血の玉が出来る。

ーーいよいよ選択の余地は無くなったようだ。


「……どの位隙を作れるんだ」

「3秒。 それで十分でしょう、暴風(プレステイル)

「ーー勿論だ」


 セツナはニヤリと笑う。

これで奴を心置き無く殴ることが出来るのだ、笑みを浮かべずにいられようか?

セツナはフェザーエヴォルダーに手にかける。


「頼んだぞ、綺麗なお姉さん」

「ーーフッ、お世話でも嬉しいですよ」

「ーーうっせえぞ! またてめぇか!?」


 再びベネノパイダスの怒号が飛ぶ。

すぐそばで聞いていたナユタの体がビクリと硬直する。

思わずセツナの方を助けを乞うように見た。

セツナの口がゆっくりと動く。

まっていろーー声は聞こえなかったがナユタは安堵感に包まれる気がした。

それっきりセツナは何かを待つように目を閉じてしまった。


 一番後ろの女性が軽やかに立ち上がる。

そこだけ別の次元であるように感じた。

今度はベネノパイダスの顔が強張る。


「て、てめぇは……!」


 女性は何も言わず不敵に笑う。

その次の瞬間、白に染め上げる爆発的な光が広がる。

全てを吹き飛ばす無音が車内を包む。

セツナが目を開き立ち上がる。

そして、一つの言葉を口にした。


「ーー変身(コネクト)!」


 フェザーエヴォルダーを引き抜くと同時にセツナはベネノパイダスに向けて駆け出す。

両腕の翼を硬質化させ大きくしかし素早く振り抜いた。


「ーーサバいてやる!」


 白の刹那的な世界の中で緑の閃光が躍動した。

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