表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾風!プレステイル  作者: やくも
第四話 変わらない想い
32/75

4-2 野心の狼

 あれ以来、船内の士気が目に見えて高い。

というのも、ラウはあの宣戦布告の後にこの船内にいる者に対して「ある宣言」をしたからだ。


 暴風(プレステイル)を討った者にこの船の全指揮権を、この地位を明け渡そう、と。

彼らにしては願ってもないチャンスであろう。

野心の溢れる奴らのことだ、容易なエサを垂らせば我先に喰らい付く。

たった一人討てば、おそらく一生かかっても手に入れる事が出来ない力が手に入るのだ。

野心とは即ち向上心、利用するのは容易い。


「単純な奴らだ……だが、その方が助かるがね」


 ラウが一人玉座でほくそ笑む。

だが、ただ一人彼に異を唱える者がいた。

彼の優秀な右腕でもあるフェニーチェだ。


「ーーラウ様、どういうおつもりですか」


 深淵で赤く炎のように燃える髪が揺らめいた。

心無しか、その口調は棘を含んでいるように聞こえる。

ラウはその様子を嬉しく思うと同時に、非常に面倒に感じた。


「言ったはずだ。 これはゲームだとな」

「貴方は彼奴に付け入る隙をつくったのですよ」

「問題無い」

「……」


 その一言でフェニーチェは口を噤んだが、まだ何か言いた気な、そんな目をしていた。

目は口ほどに物を言うとはよく例えたものだ。

暫しの沈黙の後にラウが口を開く。


「俺が信じられんか?」

「いえ、私に貴方を疑う感情は存在しません。ーーただ」


 フェニーチェがつぶやくように続ける。

その目は憂いを帯びていたように思えた。

それもまた嬉しく思うが、今はその感情が煩わしいと感じる自分がいる。


「ただ、貴方の身を案じ……」

「必要無い」


 だが、ラウはそれを振り払うように言い放つ。

ラウは玉座から立ち上がりフェニーチェに近寄る。

そして、その小さな肩に手を置く。


「良いか? 俺達は宇宙海賊エグスキ、その精鋭部隊だ。 まず負ける事はあり得ない」

「それでは貴方が……」

「お前が案ずるのは俺が追放されることか? それとも処刑されることか?」


 フェニーチェは何も答えない。

……全くもって古い流儀だと彼女は思った。

用無しとなった船長は良くて宇宙の果てに追放、最悪の場合には惨たらしく処刑される。

元を正せば無能の船長を粛清するためのものであり、そして、この掟によりエグスキの精強性は保たれている……そう言っても過言で無い。


 プレステイルが討たれた時、恐らくラウは無能と判断され処刑されてしまうだろう。

それが、どうしようもなく、心苦しい。

しかし、フェニーチェはその心の在り処を知る由もなかった。


「だがな、俺も惨めな最期を望んではいない」

「……貴方は……矛盾しています」

「そうだ、その通りだ。 だが、俺は奴の希望を信じているだけだ」


 希望? 信じる? ますますわけがわからない。

混乱する彼女を他所に彼はいつもの調子でセリフを続ける。


「察しが悪いな。 ーーどうせ喰らうなら丸々と太った鳥の方が美味いって話だ」

「ーー貴方という人は……」


 その反応を見て愉快そうに嗤った。

自らの目的の為ならば全ては駒ということか。

その目的はただシンプルにただ一つ。

ただ強く、誰よりも強くなることである。


「ラウ様、貴方は何を成そうと言うのか」

「ーーフッ、男は常に最強を目指すもの……ロマンティストなのさ」


 ラウが鼻で笑うと彼女が呆れるように彼を見る。

彼の目は誰よりも野心に燃え、ギラついていた。

彼もまた大いなる野心を持つ男だったということである。

そして、彼女は諦めたように息をついた。


「我が身は貴方の為だけに存在します」

「優秀な右腕だよ、お前は」


 皮肉るように答えた。

まあ良いーーラウは一人ほくそ笑む。

何にせよ全ては望み通りだ。

餌をくれてやる、次相見える時までに俺に簡単に喰われないように鍛えておけ。


暴風(プレステイル)よ。 ゲームの時間だ」


 遠吠えに似た笑い声は闇の中に溶けて消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ