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疾風!プレステイル  作者: やくも
第四話 変わらない想い
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4-1 あれから……

『ーー次のニュースです』


 セツナはそのニュースを裏庭で聴きながら、休眠で鈍った身体を空手の演舞で目覚めさせていた。

まだまだ本調子とはいかない。

しかし、いつ、どこでエグスキが襲撃して来るか分からないのだ。

出来るだけベストに近づけるべきだろう。


『ーー世界中に大きな傷を残した謎の集団、宇宙海賊エグスキ……今朝はその正体に迫って行きたいと思います』


 とりあえず日常は戻って来た。

ただいつもと同じとは言い難い。

失ったものは戻ってこないのは当たり前であるが、誰もが見えないものに怯え偽りの平穏を演じているように感じていた。


 一週間前のエグスキの襲来はどうやらこの街だけのことだけではないらしい。

全世界の主要都市に対して同時多発的に行われていた。

しかし、大空市に現れた人形達は全部で16体だったが、他の都市では1、2体、多くて3体ほどであったらしい。

多かった分、被害の規模が増えたということだ。

この事はセツナをどうしようもなく惨めな気にさせた。

多勢に無勢だったとはいえ、もっと良いやり方があったはずだ、と。


 襲来に対応して某国は徹底抗戦を表明した。

我が国でもそれにつられるように同様の決断を下した。

自分の中にいる彼曰く、話し合いが通じる相手じゃない、故にベストな選択だ、と。

問題はエグスキに敵う戦力があるかどうか、とも言っていた。


 彼が言うにはエグスキは全宇宙でも五本の指に入る程の戦力を持っており、方面部隊レベルの戦力でもこの星の戦力を軽く超える。

故にまともにやり合って勝てる見込みはない。


 また、どうも世間では世界の終わりだとか突拍子もないことを叫び出す者もいるらしい。

大部分の民衆には相手にされていないが、それも徐々に広がりつつある。

それが拡散しきった未来なんか想像したくない。

きっと、絶望しか無いだろう。


 だが、何も暗いことばかりではない。

謎のヒーローの存在……言うまでもなくプレステイルの事である。

巷では緑の鳥人、バードマンとか言われているらしい。

まぁ、何だって良いが。


 あの襲撃以来にそのバードマンから守られたという人が数多くいたという話をよく聞く。

別に人を守ったわけじゃない、成り行きだーーとセツナが言うとすかさず彼は言うのだ。


『セツナってツンデレさん、だな』


 と。

誰がツンデレだ、と言うか何処でそんな言葉を覚えているんだ?


 何にせよ、エグスキ襲来のニュースに持っていかれがちだが、そのヒーローの存在を待ち侘びて信じる者も少なからずいる。

信じてる者の為に戦う、それもーー。


『悪く無いだろう?』

「……洗脳すんじゃねぇ」


 セツナは一息に鋭い足刀蹴りを繰り出す。

彼が感心したように、やるじゃないか、と言う。

駄目だ、こいつがいると調子が狂う。


 自分が戦うのは後にも先にも彼女の為だけであるだろう。

ナユタが笑ってられる世界を創れるなら、悪魔でも人類種の天敵にだってなる。


『だが、私が見る限りあの娘はそんな事をして笑顔になる子ではないだろうな』

「……お前な、僕はそれだけの覚悟があると言いたいんだ」


 気が付くと時計は6時半を指していた。

そろそろいい時間だ、やめよう。

体もほぐれたし、そして何よりも彼のせいでやる気が削がれた。


「ーーフゥ……」

「おぉ、朝っぱらからようやるね、セツナ」


 額の汗を拭う彼の後ろで大胆不敵にいたのは双子の妹、クオンだ。

彼女はタオルを投げ渡す。

珍しく気が利く。


「サンキュ。 ーー空手部のお前こそやるべきなんじゃないか、クオンよ」

「ん〜、あたしはいいの、センスの塊だから」

「自分で言うか、普通」


 汗を拭き取り、ため息混じりに裏庭からリビングに上がる。

汗をかきっぱなしは流石に気持ちいいものでない。

シャワーでも浴びよう……。


「なんか勿体無いよな、セツナって」


 洗面所に向かう最中、クオンが思い出したように言ってきた。

セツナはジトリと横目でヒョコヒョコと金魚の糞のようについて来る彼女を見た。


「何がだ?」


 洗面所の扉を閉める。

セツナは着ていた道着を脱ぎ捨て、洗濯カゴに投げ入れた。


「それをあたしに言わせるのが勿体無い」


 クオンが呆れて肩をすくめる。

ずっと続けてりゃ、結構良いトコまで行ってたと思うんだけどなーーしみじみと言った。

またその事か、セツナは明らかにめんどくさそうに返す。


「飯を食らうだけの奴がよく言うよ」

「あたしに料理させないだけマシと思いなさいな」


 ああ言えばこう言う、セツナはため息をついた。

セツナは道着の下衣にかけていた手を止める。

そして、出来るだけ低い声で威圧的に言った。


「ーーんで、いつまでいるつもりだ?」


 セツナのこめかみがピクリと動く。

振り返るとクオンがケータイの構えていた。

彼女のケータイからピロリンと間抜けな音が鳴る。


「セツナの成長を見ようかと」

「出て行け、即刻、今すぐ、早急、全力で」


 クオンが持っていたケータイを蹴り上げ、呆気に取られた隙にクオンを洗面所の外に放り投げる。

そして、転がるクオンの尻目に戸をピシャリと閉め鍵を掛ける。


「ムービーだけ……動画だけで良いから!」

「余計悪いわ!」


 ドンドンと戸を叩く彼女対して思わず声のボリュームが上がる。

全く、朝っぱらから大声出させるなよな。

セツナが戸の外にまで聞こえるようにため息をつくと、彼女がポツリと言った。


「ま、元気になって良かった。 ……じゃないと」

「クオン……」


 まさか、元気付けてくれたというのだろうか。

やり方は少し疑問であるが、確かに一週間前の敗北に始まってずっと現在進行形で気が気でない。

心がスッと軽くなった気がした。


「ありがとーー」

「じゃないとあたしの食いぶちが確保できないよ」

「餓鬼か、お前は!」


 前言撤回。

クオンはやはりクオンであった。

セツナは一瞬でも彼女を見直した自分が馬鹿だったと深く後悔した。

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