1-3 チキュウジン、コロスベシ
爆音、爆風、熱風。
一瞬で、今さっきまで彼らがいた辺り巻き込む。
後に振り返り思う、あと数十秒ナユタが腕を引いてあの場から連れ出すのが遅かったならば、明日の新聞の一面を飾っていたかもしれない。
「ナユタ、無事か?」
地面を舐めるような結果となってしまったが、五体満足、身体を強打した以外は何も問題は無い。
「う、うん。 だいじょぶ…」
ナユタが頷く。
見た目上は多少の怪我さえあるものの命に別状はないらしい。
胸をホッとなで下ろし、改めて何が起きたのか確かめるべく立ち上がる。
ズキリと身体が痛む。
爆心地であろうクレーターからはメラメラと炎が燃え盛り黒煙が天に伸びていく。
不幸中の幸いか、怪我の大小こそあれど直接的に巻き込まれた者はいないようであった。
「ちょっとビックリしたね」
この状況をちょっとビックリの一言で終わらそうとするお前は何者だ、セツナが隣に冷たい視線を投げ付ける。
それにしてもこの爆発は何が原因か?
セツナが再び爆心地に目を戻す。
何故かとてつもなくイヤな予感がした。
ガス爆発……いや、違う。
ここにガス管、それに類するものは通っていないはずだ。
隕石……それも違う。
数センチの石っころでも想像を絶する破壊力だと言う、しかし、そのクレーターは隕石とは思えないほど小規模だ。
となれば爆弾テロか?
しかし、その爆心半径5メートルは我が身一つで不審物どころか何もは無かったははずだ。
「ん? 」
見間違えだろうか。
燃える炎の真ん中に人型がゆらりと見えたのは。
「セツナくん…あれ」
不安な表情のナユタがキュッと袖を掴んだ。
彼女を隠すように一歩前に出る。
僕が、いつまでも、どこまでも、なゆ姉だけを、守るから。
小さな頃の記憶が、涙ぐみながらかわした約束がセツナの頭の中で反芻する。
小さく舌打つ。
炎が黒煙が次第に小さくなっていく。
そして浮かび上がるシルエット。
それを隠す様に人垣の影と起こるざわめき。
無理もない、そのシルエットは人の型を取っていながら人の形をしていないからだ。
さながらリザードマンと言うべきか。
鉛色のそれはゆっくりと周りを見渡す。
赤く、嬉しさに狂うように、眼が光る。
「チキュウジンーーコロス、ベシ」
しゃべった?
いや、そんな事はどうでもいい。
上手く説明出来ないが……アレはヤバい!
「逃げるぞ、ナユタ!」
「え? え?」
理解しようとしまいと関係無い。
セツナはナユタの手を引き駆け出す。
一度も振り向く事なく。
リザードマンが両腕を広げるとそこから赤い光の束が伸び発射された。
石畳、あるいは樹木、あるいはソーラー式の電灯、あるいはこの広場のオブジェ、あるいは近くの鉄筋コンクリート造のビル、あるいは……。
一寸の間赤色に染まり、融解、まるで花火のように炸裂した。
阿鼻叫喚とはこの事を言うのか?
一瞬にしてこの街を地獄に変えたリザードマンはさも当然、息するのかの如く破壊活動を続ける。
リザードマンが何を考え、何を思い、何を目的に活動するか、それは理解できない。
だが、最低限こちらを狙っていない、それは好都合だ。
それだけここから逃げ出す隙が出来るからだ。
逃げ延びればこっちのもの、警察やら自衛隊に任せればいい。
ともかく、無力な一般市民が関与すべきでないことだ。
今はただ、ナユタの安全を確保する事が肝要である。
「! セツナくん待って!」
不意に掴んだ手を振り払い、ナユタが逆に駆け出す。
逡巡、セツナは彼女の進行方向を目で追う。
泣き叫ぶ小さな子ども、歳は4、5歳か。
そして、その前には歪んだ狩人のような濁った瞳のリザードマン。
走ったものの計画なんてまるで無い。
目に入ったから助けるしかないと思ったからだ。
「ーーーあんの馬鹿!」
ナユタがズザァっとスライディングするように2人の間に割り込む。
何かよくわからないものから小さな命を守るように両腕を広げ、震えて涙目で情けない顔になりながらキッと睨む。
怖いけどここは譲らないぞ、と意志を示すように。
ニタリとした顔が益々不快にさせるように歪んだ。
馬鹿だ! 馬鹿だ! 迂闊だ! 何と救い様がない!
ただ、彼女だけのヒーローになれば良いのだ。
確かに心は痛むが1人を救うためだ、セツナにとって彼女にはそれだけの価値がある。
心は決まった。
ならばあとは行動のみ。
このまま無策に突っ込むのはただの馬鹿の二の舞いだ。
止め助けに入るのではない。
注意を引けば良い。
2人に鉛色の手が伸びる。
「ーーーガ!?」
頭部に突然の鈍痛。
視線を落とすと拳大の石が転がっている。
続けて石が飛んできた方向を探る。
少年がいた。
手には石、挑発しているのか?
「待てよ化け物、僕が相手になってやろう」
忌々しそうに睨むのを見てもう一方の石をお見舞いする。
ダメージを受けてないわけでもないようだが、しかし、楽観は出来ない。
我が身で倒せない今、必要なのは一撃必殺でない。
気を引くための手数が必須なのだ。
敵意がヒシヒシと伝わる。
リザードマンはこちらを正しく標的と認識したようだ。
一瞬ナユタを見る。
ナユタはキョトンとして止まっている。
いいから逃げろ、とセツナが視線を送るとナユタはハッとして正しく理解したかどうかは別にして頷く。
ソッとナユタが小さな子どもを連れて逆方向に向けて駆け出す。
とりあえず成功か、セツナが満足そうに見送った。
ここからが本番だ、何処か遠くに行ったところを確認してから改めてリザードマンを睨む。
「さぁついて来い、トカゲ男。 僕をやりたければな 」
どこか遠くでキラリと宇宙からの緑色の光が降り立った。
アレは何所に逃げ込んだのか?
早く追わなければ、全てが手遅れとなる。
光がフワリと宙に浮き飛び立った。