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疾風!プレステイル  作者: やくも
第三話 ライトニング・ザ・ウルフ
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3-8 ブレイキング・ワールド

 雷でも落ちたのだろうか?

思わず跳ね上がるほどの轟音と閃光はどうやらあのビルに落ちてしまったようだ。


 空を見上げると黒い雨雲が立ち込めている。

いかにも一雨来そうだ。


「お天気お姉さんのウソつき……」


 ナユタは全ての不満を朝のワイドショーの気象予報士にぶつけるようにつぶやいた。

予報では終日、雲一つない快晴になると言っていた……いや、そんなことはどうでもいい。


 今日は珍しく彼の方からデート、いや買い物に誘って来たのは驚き、それと同じくらい嬉しかった。

今日はもしかしてもしかすると思って、一瞬、今日は子どもっぽいパンツを履いていたのを急に思い出しあれこれ断ろうとしたが、半ば強引に押し切られてしまった。

そして、街に繰り出したはいいが今現在、セツナとはぐれ絶賛迷子中である。


「……派出所とかでお世話になってないかな」


 さすがにそりゃないか……。

何度も言うようだが、最近とことんついてない。

幸せを味わさせてから、不幸な目にあわせるという高度なテクニックを持った悪霊でもついているのだろうか。


 あの雷、何かの予兆じゃないといいけどな…ーーナユタがぼんやり見上げる。

その視界にはそびえ立つ一際大きいビルに落ちてきそうな鈍色の空。


「……ほんと、どこ行っちゃったんだろ……」


 ナユタは、はふぅ、と小さくため息をついた。

街行く人は多いのに、心は孤独を感じてしまう。

こうしてるとドラマのヒロインみたいだ、ナユタはそう自分を紛らわし、またため息をついた。


「ーーおい? なんだあれは?」


 街行く誰かが空を指差す。

ナユタも、周りもつられて見る。


「黒い……風船?」


 空には黒い風船が浮かんでいた。

それも一つや二つではない、大量にだ。

風船は徐々に膨らんでいき、それにつれてゆっくと下降をしていく。


 ーーなんだろう、嫌な感じ。

周囲のざわめきが大きくなっていく。

無理もない。

誰もが異常だと感じておきながら、それが何なのか知らなかったからだ。


 やがてその膨張はピークに達し、一つ、また一つ、連鎖的に破裂していく。

風船の破裂、その中からは人影が現れ、やはり一つ一つ順々に地上に向かって落ちてくる。

思わず声をあげ、目を背けた。


 人影たちは地上に激突する瞬間、重力に逆らったように減速し地上に降り立つ。

その姿は人であって人ではない、海賊の子分のような大きな人形であった。

ナユタはそれが何かは理解は出来なかったが何処かリフレインするものがある。


「ーーなんだ、イベントか何かか?」


 そう言ってその人形の側にいた男がおそるおそる近付き触れようとする。

周囲は未だざわついてはいるものの、徐々に収束しつつあった。

男が言ったように、何かのイベントと思うことで。

その時である。


「ギ、ギギギ…」


 低い唸りをあげて人形の目が赤く灯る。


「な、なんだ?!」

「ギ? ギギ!」


 そのうちの一体が動き出し男を捕まえる。

もがく男を片手で軽々掲げた。

そう、まるで獲物を捕らえ嬉々と誇示するハンターのように目が爛々と輝いた。

男はこれから起こる事を悟り、血の気がサッと引いていく。


「た、たすけ……」


 懇願は届かない。

人形の腕に力がこもり振り上げ、男は宙に舞う。

全てがスローモーションだった。


 人形の右腕から筒のようなものが生える。

男が最期に見たのは人形の右手から放たれた閃光。


「ーーて……!」


 熱線は男を飲み込み、黒炭に変えた。

くずくずとしたものがドサリと地面に落ちる。

誰も状況を飲み込めなかった。

それだけあっさりしていた。

人の生死がこれほどまでに雑に扱われて良いものだろうか。


「ーーキ……キャアアア!」


 その誰かの叫びがキーと成ったのか、人形たちの目に赤い光が灯り動き出した。

ある人形は熱線を放ち街並みを破壊し、ある人形は力任せに振るい瓦礫に変え、ある人形は右腕を刃に変化させてそれを赤く染め、ある人形はーー。


 そんな中、ナユタの感情は妙に冷静であった。

いや、フリーズしていた、という方が正しいか。

どうしてこんな事になったんだろう、と答えが出ることがないループに囚われている。

まるで、自分が悪夢に囚われているのを何処か遠くの安全な所で見ている、そんな感覚がした。


 逃げる誰かがナユタを押し退け、彼女は尻もちをついた。

その衝撃は彼女を現実に引き戻す。

……そうだ、セツナ君を探さないと……。

彼女に黒い影がかかった。


「ーーあ」


 ナユタが視線を上げる。

目の前にはあの人形が右手の刃を振り上げ、今にも振り下ろさんとしていた。


 ーーああ、わたし、死んじゃうんだ。

最近、不幸続きだよ。

なんかよくわかんないものに襲われたし、変な人に絡まれていつの間にか人質になってたし、わけがわからないまま殺されちゃうなんて、そんなのってないよ……。

こんな事になるならカフェ・アステロイドのチーズケーキをお腹いっぱい食べ……いやいや、違うでしょ!

今際の際に何考えてんだ、わたし!

気を取り直して、こんな事になるならセツナくんに勢いに任せて言っちゃえば良かった。

……言っても結果は見えてるけど……悪い意味で。

はぁ、何やってんだわたし。

セツナくんが微笑んでくれるだけでもわたしは嬉しいのにな。

あ、そろそろ時間かな?

出来るだけ痛くしないでね?

痛いの、イヤだよ……まぁ、聞いてくれないんだろうけど。

最期にわたしはセツナ君と一緒にいれて幸せだったよ。

生まれ変わってもまた一緒だといいな。

じゃあ、またね、みんな。

さよなら、壊れた世界ーー。


「ーーブツブツ言ってるヒマあるなら逃げろよ、このアホが!」

「へ?」


 ナユタが恐る恐る目を開けると緑の鳥人が彼女に迫っていた刃を両手の翼で受け止めていた。

その背中が誰かと重なる。


「ーー邪魔を、するなよ!」


 その鳥人は人形の刃を弾き上げ、そのガラ空きの腹部に攻撃を叩き込む。

人形を一撃で叩き伏せた後、チラリとナユタに視線を送った。

何か言おうとしていたようだが、思い止まったようで未だ暴力を振りかざす人形たちを睨みつけ舌打ちをする。


「ーークソッ、ふざけるなよ……!」


 そう一つ舌打ちをして地を蹴り飛翔した。

ナユタはそれをただただ眺めていた。

そんな彼女をようやく降り出した大粒の雨が体温を奪い濡らしていく。

そして、言葉を紡ぐ。

夢なら覚めて、と。

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