3-5 ドント・コール・ミー・ストーカー
今日は嵐が巻き起こるんじゃなかろうか。
ナユタはそっと部屋の中の様子を覗きつつ思う。
部屋の中にはセツナと親友であるケイ。
どうやら耳をすまして聴こえて来たところによるとセツナが生徒会長であるケイの仕事を手伝っているらしい。
珍し過ぎて思わず、ドアの影に隠れてしまったが一体全体どうしたことだ。
いつもの彼なら素通りしていただろう。
しかし、現実は楽しくお仕事中である。
「ーーで? どうしてナユはストーカーじみた事をやってるんだい?」
「もう…、レキちゃんは分かってるクセにさ……」
むぅ、とナユタがほっぺを膨らまし後ろに立っているレキを見上げる。
ハーフアップに結んだ髪から清廉なイメージを受けそうになるが、彼女の拗ねた幼稚な表情がそれをぶち壊していた。
「さて何を、かな?」
「イジワル……」
レキが彼女を見て含み笑いをする。
知ってるくせに、とナユタがプイと拗ねる。
「ーーそれにストーカーじゃなくて探偵さんと言ってほしいな」
「この事件、迷宮入り確定だな」
「そんな事ないよぅ」
「ほら、そんなに騒ぐとバレるぞ?」
しぶしぶ視線をセツナとケイに移すと、彼らは仕事を終えてまったりと話していた。
ただ単に幼馴染と自分の親友が当たり障りのない話しているだけである。
嫉妬することはない。
「でもなんかじぇらしぃ」
ただ話しているだけ。
それは分かるが、頭の中がザワザワ落ち着かない。
今すぐ跳び出してセツナとケイの間に割り込みたいのだが、レキに、駄目だぞ、と肩を掴まれてどうしようもできない。
レキちゃんはこれをセツナくんをイジるネタにしたいだけでしょ? と、ナユタがため息をつく。
出て行く事を諦めて、また二人を観察しようとしたその時である。
「アレがコレでコレがソレでソレがアレで……キャー!」
唐突の大声。
一瞬、覗いていた事がバレたかと身を縮こませた。
恐る恐る部屋の中を覗きこんだがどうやらバレたわけではないらしい。
むしろ、全く気付いていない。
ケイが顔を赤らめガトリング砲のように一方的に喋っているところからセツナの一言で彼女が暴走してしまったことが分かる。
その様子を見てナユタがホッコリとレキに話し掛けた。
「ケイちゃんの暴走って凄いよね?」
「ーーナユはそれ以上暴走するけどな」
レキがすかさず言い放つが、ナユタはキョトンとした顔になる。
どうして、何故そんな思い当たる節がありませんと言いたげな顔をするんだ君は?
「え? わたし、暴走してないよ?」
「え? なにそれこわい」
驚くレキ。
そんなに驚かないでよ、バレちゃうでしょ?
ナユタがジト目で彼女を見る。
「……すまない。 ーーまさか無自覚とは、流石手強いぞ、ナユ……!」
レキが後ろで何か呟いているが軽くスルーして、改めてセツナとケイの方を見る。
ケイのガトリング砲は一向に止むことを知らず、激しさを増してコトダマというダンガンを打ち出すだけだ。
もしナユタがこのダンガンの一つでもを受け取っていたならば、この先の展開がガラリと変わっていただろう。
彼女はその未来を、その言葉を知る由もない。
セツナは呆れてため息をつき、手に持っていたプリントの束を丸め彼女にツッコむ。
おお、いい音だ!
「ーーわたしにもしてほしいな」
ギョッとしながらレキがナユタを見る。
まさか君、そっち側かっ!
生暖かい視線に気が付いたのか、ナユタは慌てて訂正しようとする。
ただし時すでに遅し、であるが。
「ち、違うって、わたしも構ってほしいなぁって思っただけでーー」
「……ふぅ」
「はぅっ! や、やめて……その可哀想なものを見るような目だけは」
誤解だって言ってるのにヒドいよ、レキちゃん。
るるると俯くナユタ。
「ーーま、少年だったらナユの特殊な趣味について行けるさ。 ガンバレ」
「目覚めさせたらどうするのよぅ」
「その時はその時で。 ……ところでナユ?」
わたしまだ納得して無いのですけど、とムスッと応える。
「少年の立ち位置についてだがーー」
「うん?」
突然何を言い出すか、と彼女を見返す。
「私にとって少年は好敵手と言っても過言じゃないな」
「自然と納得できる……」
目に浮かぶのは過去の数々の戦い。
顔を合わせると何かと争い出す二人。
仲が決定的に悪いかと言うとそうでも無い。
仲良く喧嘩しな、という歌が聴こえてきそうだ。
「ーーナユにとって少年は夫婦漫才の相方だな」
「夫婦ってまだ早いよぅ……って漫才!?」
「ナイスツッコミだがここではスルー」
レキがコホンと小さく咳払いをし、さてここで問題です、と改めて続ける。
「ケイにとっての少年はどんな存在か?」
「へ? ……友だちの幼馴染、とか?」
「んふふ、振り返って見て御覧」
言われるがまま振り返るとそこには仲睦まじく手を繋ぐセツナとケイの姿があった。
思考がフリーズする。
えと、これはどうゆうことデスカ?
彼らは二人してジッと見つめ合う。
その視線は熱が帯びているようにも見える。
まさか、二人は……。
ナユタの頭の中に拡がるイメージ。
「おやおや、二人はお似合いのアレ、だな」
「そんなのダーーむぎゅっ」
レキは右手でナユタの口を塞ぎ、残った左手で器用に彼女の動きを封じる。
痛い!
痛いよ、コレ!
カンペキに関節キマってるって!
「……おや、ナユは痛いのがお好みでは?」
「むぅーむぅ〜!」
涙目で訴える。
レキはそんなナユタを満足そうに微笑む。
心無しか、彼女の頬が微かに紅潮していた。
「うんうん、ナユはイジられカワイイな」
「もが! もがが! もご〜がもがが!」
おに!
あくま!
げどーのきわみ!
ドSだよ、この人!
わたしをアッチ系の人ってレキちゃんはネタに出来ないよ……ってドSだからしているのか……。
何とかその痛みから逃れたい一心で身をよじり抵抗するが焼け石に水のようだ。
ビクともしない。
「んふ、お次は精神的にはどうかな?」
グイっと首を向けさせられた方向にはセツナとケイが仲睦まじくいた。
それだけでも効果は抜群であるのに彼らはナユタの目の前で徐々に近付いていき、そしてーー。
ダメ、そんなの……!
火事場のバカ力と言うべきか、自分の身体を押さえつけているレキの両手を振りほどきダイナミックに部屋に転がりこむ。
そして、大きく息を吸い込み叫ぶ。
「そんなのダメ〜!」




