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疾風!プレステイル  作者: やくも
第二話 刹那の壁を打ち砕け
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2-5 頭痛がイタイ

 まだ頭がイタイ。

……何が、何があったんだ?

クオンと2人で朝食を取っていて、何か無性にムカついて、うぅ、そっから思い出せない…!


「え~、と……セツナくん、生きてる?」

「ああ、なんとかな…」


 学校へ向かう道程、甘栗色のポニーテールを揺らしながら隣を歩くナユタが心配そうに……いや、何故か申し訳なさそうにこちらの顔を覗き込んでくる。

気が付けばクオンはもう既に学校に行ったと言うし、そしてナユタが何時の間にか家に来てるし…。

ブラックアウトしたその間に何かがあった事は明白だ。


「とりあえず…クオン、ボコボコにブン殴る」

「クーちゃんに暴力振るっちゃダメだよぅ」

「大丈夫だ、問題無い。 外から見えないところを殴るから」


 セツナの口元がニヤリと邪悪っぽく歪む。

そーゆー問題じゃないんだけど、とナユタが言いどもる。

彼は時々本気かどうか分かりかねる発言をする。


「じゃあ何か? クオンの他に原因があるのか?」

「えと、それは……」


 誰がどう見ても挙動不審。

目を逸らし、吹けない口笛をすぴーすぴーと吹いている。

今日は初夏らしい暑さで汗ばむ程度の陽気であるとはいえ、それだけでは説明出来ないほどの汗をダラダラと流している。

あからさまに怪しい……。

怪し過ぎる。


 セツナが冷ややかな視線をナユタに投げつけると、そう言えばさ! と慌てふためきながら話を切り出す。

……コイツ強引に行ったな。


「あのね、セツナくん。 昨日の事なんだけど……」


 ナユタは非常に言い難そうに耳打ちする。

昨日の事と言えば……うん、アレしかないな。


「あの人たちって一体何だっただろうね」


 それを聞かれた時、セツナの心臓がビクリと跳ね、無意識に首を触っていた。

あの人たち、一方はリザードマンことフォイエザード。

もう一方は昨日の帰り道にナユタから聞いた鳥人の事だ。

その鳥人とは確実にプレステイルの事であり、プレステイル=セツナの事でもある。

それはまだ彼女は知り得ない秘密だ。


 正体を隠す必要があるとすれば、それは彼女の安全の為だ。

彼女に知られてしまえば、彼女にも戦いに巻き込まれるリスクを負わせてしまう可能性がある。

そうなれば守り通す事は格段に難しくなってしまうだろう。

守りきれないならば、何のためにこの身を犠牲したのか……アイデンティティを失ってしまう。

だからこれは秘密でないと。


「……どったの、セツナくん?」

「ん、また頭が痛くなっただけだ」


 そう言うとナユタはしゅんとして、ゴメン、と謝ってきた。

そんな態度を取られるとまるでこちらが悪人みたいだ。

何となく居心地の悪さを感じたからか、結果慌てるように言ってしまう形となった。


「昨日の事を誰かに喋ったりしてないよな?」

「うん、それはしてないけど……何で?」


 そりゃあ、お前を守る為だよーー小首を傾げる彼女に頭の中でツッこむ。

彼女が知っているとなると関係者ではないかと疑われ敵の標的になるかもしれない。

過敏かもしれないが、襲われる可能性は一つでも潰さなければ。


「そうだな……例えばだな、アレは某国の秘密兵器で機動実験中に暴走し、偶々この街に飛来した」


 口から出まかせをナユタは頷きながら食い入るように聞く。

扱い易いとは思ったものの、これでは会った人会った人にことごとく騙されていきそうだ。

彼女の将来がとても恐い。


「その後謀略の限りを尽くしたが、追手である武装したエージェントに始末されたーーと言うのはどうだ?」


 ほほぅと感心するナユタ。

しかし、喋っちゃいけない理由になってないよ、とまた首を傾げる。


「分からないか? ーーアレは秘密兵器だぞ。 話が広まったとあっちゃあエージェントが黙っていない」


 ナユタがゴクリと生唾を飲み込む。

眼差しは真剣そのもの。


「それでどうなるの?」

「もちろん……この情報を持つものを片っ端からこの世から抹消していくかもな」


 ナユタの顔が強張り、そのポニーテールが跳ねる。

どうしようどうしようどうしよう、とボソボソ呟く。

彼女の頭の中は相当なパニックだろう。

……こんな適当に言った事でこんなにパニクるとは、益々コッチが悪人じゃないか。

冗談だけどなーーセツナがため息をついた。

ナユタは一瞬フリーズしてから何を思ったのかホッと胸を撫で下ろす。


「あいつらが何にせよーーあいつの方は見てないがーー僕らにはもはや関係無いし、ナユタが関与すべきことじゃ無いさ」


 少々ぶっきらぼうに答えたがこれはこれで良い。

下手な事を言って変に勘ぐられるよりもマシだ。


「セツナくんっぽいけど……なんか違和感」


 ナユタは何か釈然としない様子であったが、それを発散出来ぬまま学校に着いてしまった。

セツナはこの学校の1年、ナユタはここの3年生、2歳差。

違う教室で授業を受ける事はかなりの過疎化が進んだ学校でない限り当たり前の事だ。

違うクラス、違う学年であるが故に接触し難い状況……よってこれ以上は勘ぐられにくい状況になったといえる。

これはセツナにとってありがたい状況だ。


 そうだな、スミゾメを囮に使うかーー昇降口で革靴から上履きに履き替えながらぼんやりと思う。

もし休み時間に彼女が来てもこれは2人だけの秘密と言った手前、この話にならないだろう。

強引に連れ出そうとしたらしたで別の策を考えている。

まぁ、ナユタの事だ。

放課後まで逃げ切れば忘れてるだろう。

上履きに履き替え終わり、昇降口から校内に入るとナユタも丁度入って来た。


「じゃ、セツナくん頑張ってね」


 ある意味ホッとした。

先程までのナユタに似合わない思案顔じゃない。

いつもの笑顔だ。

と言うかさっき迄の思案顔を忘れたかのようだ。

そこまで気にしてないなら、それはそれでこちらも都合がいい。


「お前がな。 この間の試験の結果を僕が知らないと思うなよ?」


 ナユタがギクリとする。

当てずっぽうで言ったのだが、まさかそうだったとは。


「ま、頑張れよ」


 ナユタに背を向けて、左手をヒラヒラ振りながら教室に向かうため歩き出す。

彼女は何か言ってはいたものの、チャイムによってそれは阻まれた。


「お姉ちゃんはセツナくんを絶対に見返すから覚悟してなさい!」


 捨てゼリフの如く捨て置き自らの教室に向かって駆けていく。

多分、放課後には忘れてるんだろうなーーセツナは何となしに思った。

今度は別の意味で頭が痛くなった。


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