2-4 アウトロー・最強の賞金稼ぎ(自称)
何処までも広がる暗闇。
そこにポツンと明るい空間に一人の女性、フェニーチェが佇んでいた。
相変わらず、目をつむり静かな瞑想の時を過ごす。
「……何事ですか」
ゆっくりと目を開ける。
彼女の前に一人の狐目の男が現れ出る。
見憶えはあった、しかし彼はこの場にいるはずはない。
「…あなたはカシオペア方面の攻撃部隊のはず、ここにいるのは場違いですよ」
狐目の男はニヤリとして、軽口を叩く。
「自分で言うのは何だがーーエグスキ最強の賞金稼ぎであるオレが出向いてやったんだ、もっと歓迎して欲しいもんだ」
男が肩をすくめる。
その口元には薄ら笑いを浮かべていた。
対してフェニーチェは冷静に冷たい目で彼を見ている。
「質問に答えなさい、パルイフォックス」
彼は、パルイフォックスは、失礼しました、とわざとうやうやしく頭を下げた。
「このパルイフォックスはカシオペア方面攻撃部隊・部隊長の任についていたところ、大船長直々の命によりプレステイル討伐の為、太陽系攻撃部隊に配属となりましたーーで、よろしいかな? フェニーチェ様?」
その人を小馬鹿にした態度にフェニーチェの紅蓮の髪が微かに揺らいだ。
がしかし、今はそんな時ではない。
「ーー大船長の命…と言いましたね」
「言ったな。 何なら証拠でも見てみるか?」
そう言って懐からひとかけらのクリスタルを取り出し、彼女に投げ寄越す。
クリスタルは手のひらに収まる程の大きさであり、使用用途は地球上で言うところのメモリースティックによく似ている。
ただし、現在の地球の技術では再現はおろか、解析すらもままならない程のシロモノであるが。
「ふむ……真実、であるようです」
しかし、今はそこよりも注目すべきところがある。
クリスタル側面に刻まれた紋章だ。
複雑な紋様のそれは太陽を飲み込まんとする邪竜のように見えた。
宇宙海賊エグスキのシンボルマークと言うべきそれは同時に、大船長を表すシンボルマークでもある。
故に好き勝手に掲げる事は決して許されざる行為である。
逆に言ってしまえば厳しく取り締まるが故、この紋章が刻まれているものは信頼を置けるものでもある。
ある種の品質保証マークと言っても過言でない。
「……が、何故、大船長はプレステイルの討伐をお望みなのか?」
パルイフォックスは面倒くさそうに、オレが知るかよ、と吐き捨てた。
「ーーま、オレとしちゃあ、カネ稼ぎのいいチャンスと思っちゃあいるがね」
そう言って彼はクルリと背を向け、歩き出した。
「待ちなさい。 あなたはどこへ行くと言うのですか」
その背中が立ち止まる。
彼は振り返らない。
分かっているんだろーー彼は先程からのスタンスを崩さず非常に軽い口調で告げる。
まるで散歩に行ってくる、と言わんばかりに。
「ちょっと小遣い稼ぎに行ってくるさ」
パルイフォックスは再び歩み出し、背中が闇の黒に溶けて消えて行った。
その口もとには冷たい笑みを零していた。
「ーーさて、刈り取る嵐よ。 奴を討ち倒せますかね」
彼が行ってしまって消えた後、フェニーチェはポツリと呟いた。
何故、そんな事を言ったのか今となっては分からない。
フェニーチェはその想いを振り払うように頭を軽く振った。
「ーーいいえ、今の私は大船長が為の戦士……フェニーチェ……」
自分自身に言い聞かせるように…祈るように呟く。
その言葉は闇に吸い込まれて行った。




