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疾風!プレステイル  作者: やくも
第二話 刹那の壁を打ち砕け
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2-2 僕と小鳥とそれから天敵

「……ん、朝か」


 カガミ・セツナは寝ぼけ眼をこすり、うるさいと叩きつけんばかりに目覚まし時計を止める。

時間を見る。

まだ6時を回ったばかりだ。


 ……それにしても懐かしい夢を見た。

ある意味で彼のルーツとも言えるあの頃。

あの頃の誓いはどうやら根深いようだが、今の自分にはほとんど意味を成さない。


 もっと別の感情で動いている、そんな気がしてならない。

セツナは頭をかいた。


「……ん…」


 セツナは背伸びをしてからベットから飛び降りた。

彼の朝は早い。

だが、むしろ今日は遅いくらいだ。

昨日は『色々』あったからな、疲れてたんだろう。


『おはよう。 きみは朝早いんだね』


 頭の中に直接響く、正直言って耳障りな声が聞こえる。

セツナは挨拶を返しながらもあからさまに大きくため息をついた。

昔の事を思い出したのは多分、上手くは言えないがこいつのせいだ。


『どうしたんだ、セツナ?』


 どうしてお前は人が華麗に流そうとしている事を思い出させるのだ。

セツナは頭を抱え彼と交信する、何でもねぇよこの台無し宇宙人、と。


『酷いな、きみ。 あ、朝は眠くて機嫌が悪いとかか? それならば納得がーー』


 それで良いから黙れ、ジャマッケ星人ーー会話を一方的に打ち切る。

彼は何か言いたそうではあったが、セツナは無言の圧力にてそれを潰しにかかる。


 ようやく頭の中が静かになった。

セツナはまたため息をついた。

全く小うるさいヤツだ、小鳥かよ、と。


 洗面所にてイマイチまだ本調子のでない頭を働かせるために顔を洗う。

冷んやりとした水が心地よく、生き返るように染み渡る。

タオルで顔を拭くと、さて、とキッチンに向かう。


 今日もまた朝飯と昼の弁当の用意をするためだ。

食いっぱぐれたくは無いからこれくらいはする。

材料を冷蔵庫から取り出すと、よし、と早速調理に取り掛かる。

 

『…ふむ、手慣れたものだね』

「これくらい出来ないでか」


 フン、と鼻を鳴らす。

小気味良く包丁の音を立て、香ばしい匂いが立ち込める。

彼の言う通り、最も我がの評価でもあるが、手慣れた手つきで次々と調理の工程を済ませていく。

いつもやってれば、これくらいは出来るのだ。


『いつもこんな事を?』

「あぁ、そうだな。 片割れが全くやらないから、こんなスキルばかりが上がっちまう」


 そう、アレが少しでもやってくれりゃ少しは楽になるのに。

思わず包丁に力がこもる。

彼が、片割れの事を尋ねてきた。


「……もう、降りて来る頃合いだろうさ」


 ぶっきらぼうにスクランブルエッグをかき混ぜつつ答える。

いかん、アレの話をしていると思わず、手元が狂ってスクランブルエッグにワサビやらカラシをチューブごとそれにブチ込みそうだ。

……料理に妥協は出来ない。

話を変えねば。


「なあ。 お前は僕の事ばかり聞いているが、……僕はお前の事を全く知らない」


 知っていることと言えば、宇宙の悪を潰して回る正義バカ、通称プレステイルと呼ばれていること、あとは……バカ。

その程度だ。


『私の事か? ーー別に聞いて楽しいものでもないとは思うが……』


 と仰る割には声が踊っているが。

ああ、彼はどうしようもなくおしゃべりが好きなようだ。

益々もって小鳥みたいな奴め、セツナは小さくため息をついた。


『ーー私の生まれは遥か銀河系を越え、ーーアンドロメダ銀河に位置するーー付近にーーと言う星のーーと言う大陸のーー』


 正直に言って半分、どころか殆ど聞いていない。

彼には悪いがあまり興味は無かったし、一般人に馴染みのない固有名詞を次々出されても聞き取るのも苦労する。

それに調理に専念したかった。


『ーー族のーーに生まれし戦士ーー』


 彼の声をBGMにバックに調理を進める。

話を振っといてなんだが、いい加減くどくなってきた。

これ程長々話されるとは思わなんだ。

頭痛くなってくる……。


『そして、不死鳥に連なる血を受け継ぎし、我が名はーー』


「ぅはよ~」


 唐突にそれは遮る。

それはどんなにセツナにとって憎たらしい声であっても救いの声に違いない。

セツナが振り返り挨拶を返す。

そこには、彼と同じ年頃の、長い黒髪をざっくばらんに束ねた少女が立っていた。


「セツナ、今日の朝飯…何?」

「……いいから先に顔洗って来い。 朝飯は逃げんぞ」


 ういっす、と非常にローテンションに返事して洗面所に消えて行く。


『セツナ、今のは?』

「双子の妹だ。 非常に憎ったらしいが」


 名をカガミ・クオンと言う。

容姿はセツナによく似ているのだが……彼を中性的と例えるならば彼女はボーイッシュと例えるべきだろう。

雰囲気がそれ程までに違う。


『兄妹か…。 良いものだな』

「別に良くねぇよ」


 クオンに対しての愚痴ならそれこそ二夜三日あっても言い足りない程だ。

掃除洗濯料理は全て彼に投げっ放し、稀にやったかと思うと何処かで大ポカをやらかして台無しにするし、あとで食べようと残して置いたプリン・ア・ラ・モードを勝手に食べるし、女子の恥じらいなぞ皆無で下着姿で部屋をうろつくし、学校では酷い猫被りだし、その所為か仲を取り持ってくれと言ってくる奴も少なからずいるし、無駄使いが多い癖にモノを直ぐにブチ壊す程のクラッシャーだし、プリン・ア・ラ・モードを勝手に食べるしーー。


 そのフリーダムさと言えば、かの天然トラブルメイカー・ナユタを軽く凌駕し、彼は幾度も辛酸を舐めさせられた。

所謂、彼の天敵のような存在だ。


『私は、羨ましいよ』


 セツナは言い返そうとしたがやめた。

その口調は何処か懐かしむようで……寂しげであったからだ。

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