1-1 一時間後の物語
「断る」
爽やかに、そしてこれ以上無いほどの最高の笑顔で少年は彼の願いをぶった切った。
その一言は彼の思考を暫し沈黙させるには十分過ぎた。
まさかの拒否だと?ーー彼は頭を抱える。
最も宇宙精神体の彼には抱える頭も無ければ身体も無い。
無重力の謎空間に漂う意識だけの存在と言えばいいだろうか。
先ほどの行動力、勇気、そして悪を許さぬ正義の心は嘘だったのだろうかーー彼は黒髪の少年に動揺を悟られぬように注視する。
線の細い少年は訝しむように彼をジッと見ていた。
身体的にはかつての彼と違って脆弱な印象を受けた、がしかし……。
「勝手なイメージを付けてくれるなよ?」
『エスパーか、君は!?』
「面白宇宙人の存在の方が驚きだ」
少年は溜息混じりに目の前の緑の光珠の方をその切れ長の目で見やる。
その表情は先ほどと打って変わって非常に冷めたものであった。
「だいたい何故僕なんだ?」
少年は訝しみながらも宇宙精神体に問う。
『それは君の行動に感銘を受けたからだ』
その程度でいいなら、もっと他に適任者がいそうだーー少年はシニカルに笑う。
ここまで来て彼はやっと悟る。
この少年は是が非でも協力したくないのだと。
正直に言うが、と少年が吐き捨てるように続ける。
「怪しいぜ? 新手の勧誘方法か?」
人類、いわゆる現生人類が誕生しておよそ20万年ほどと聞く。
彼の同志はそれよりも昔、遥か昔より宇宙に蔓延る悪と永遠と思える戦いを繰り広げてきた。
中でも彼は比較的若い戦士であるが、それでも地球年齢に換算しても軽く1万をも超えるベテランと言えるだろう。
数々の戦いを経て、数え切れぬ出会いがあり別れがあった。
辛酸を舐めた敗北、そして掛け替えの無い同志と分かち合った勝利も。
単なる思い上がりであるかもしれないが、友情を、絆を育んできたつもりだ。
ある意味、この少年に期待していた節がある。
しかし、現実はどうだ?
『怪しい……、ね』
全く逆だ。少年からの歩み寄りは無く……まぁ、これはこの星の住人が宇宙人の存在に不慣れであると考えれば仕方ないだろう。
がしかし、それにしても信用しなさすぎではないか。
取り付く島……いや、取り付く欠片すら存在しない。
少年と彼とのファーストコンタクトはかれこれ1時間前まで遡る。




