Ⅶ 話
第七話です。
今回あんまり進展なしです。
すいません*
「おじゃまします、サリアさん、おじいちゃんしりませんか!?工房にいないんです!!」
大きな扉の音とともに入ってきたランティスは部屋に入るなり驚いた。探していた祖父がいる。
「おじいちゃん!工房にいなかったから何処に行っちゃったのかなって、探したんだよ!」
そう叫ぶなり、部屋を見渡すと、そこには祖父と、サリア、そしてミリナがいた。よく三人で話しているのを(ミリナは無理やり付き合わされているのだが。)ランティスは知っている。
しかし、今、ここに広がる空気はいつもの明るい空気とはま逆の、重たい空気だった。
「三人とも、なにかあったの?なに、この重たい空気は。」
思わず聞いてしまった。それぐらい、部屋の空気は重たかったのだ。
お前の母親の話をしていたんだよ、なんて言ったら、ランティスはすべてを知ろうとするから、絶対に言えない。
「ラ、ランティス、なにかあったのかい?」
ダンカンは、高ぶる心臓を落ち着けながら言った。
孫が工房まで来るのは珍しい。それに、いなかったからここに真っ先に来る、というのは、今何としてでも会いたかった、ということになる。何事だ?
「うん!急だけど、私、これからしばらく家を空けるわ!お留守番お願いします!」
ダンカンはしばらくの沈黙のうち、飲んでいたお茶をブホッと吐き出した。
「な…なんといった?」
「だ、か、ら、しばらく家を空けるからお留守番よろしくお願いしますって言ったの!」
どうやら、聞き間違いじゃなかったらしい。
少しの間のあと、ダンカンはうぅ…というように言った。
「ランティスが堂々と家出宣言をするなんて…おじいちゃんはさみしいぞ…」
「家出じゃないって!しばらく家を空けるだけよ!安心してね。おじいちゃんがさみしくないように、これあげるから!!」
家出宣言と間違えられたため、少し強めに言った。
そして、祖父に、銀のロケットを取り出して渡した。
「これを私だと思って、乗り切って」
祖父は困った。そのロケットは、アイビスが天より落ちた時、持っていたものだ。
アイビスがとても大切にしていたものだから、アイビスがいなくなった後も大切に取っておいたのだ。
まあ、ランティスが四つの時、欲しい欲しいとねだったため、今の今までランティスが持っていたが。
「ランティス…これはお前の宝物だろう?大切に持っていなさい。」
「でもおじいちゃん…」
ランティスは詰まった。それをみて、ふっと笑って祖父は続けた。優しい子に育ってくれた。
「おじいちゃんはいいさ。それより、このロケットは、絶対に落とすんじゃない。常に肌身離さずつけていること。いいね?」
祖父の瞳には、懐かしいような困っているような、そんな感じのが浮かんでいる。
その瞳を見て、ランティスは、祖父を困らせてしまったと思い、祖父も言葉にうなずいた。
「うん。私ずっとつけるわ。ありがとう、おじいちゃん」
そんな孫の言葉を聞いて、ダンカンは微笑んだ。
「ああ。きっと喜んでるだろうよ、あの娘【こ】も。大切になさい。」
「あの娘って、誰のこと?」
孫にそう聞かれ、ダンカンは、うっ、と心なかで言った。答えに迷っていると、ランティスと反対の方から視線を感じた。
「サ…サリアちゃん…ど、どうやって――」
助けを求めたのに、返ってきたのはとても冷たい言葉だった。
「あんたのせいなんだから、自分でなんとかなさい。もう用はないでしょ、帰った帰った。」
すると、ダンカンからではなく、ランティスから返ってきた。
「サリアさんもご存じですか?」
もちろん知っているが、ここで頷けば絶対に聞かれる。答えられないなんて、言えるわけもなく、
「私には、何のことやら。ダンカンの昔の愛人とかじゃないかしら?」
誤魔化した。その言葉にランティスは激しく動揺した。
「お…おじいちゃんにあ…愛人…がいたなんて…」
記憶の限りでは、祖父が祖母以外の女の人と付き合ってたなんて言う話すら聞いたことがない。でもそれは、まだ私が子供だったからなのかもしれない。
「ど…どんな女性【ひと】ですか?」
サリアは適当に答えた。
「そうねぇ…アイビスっていうとっても美人な…」
ランティスは興味身心である。
「サリア!」
サリアが言い終える前にダンカンは叫んだ。これ以上余計なことを吹き込まれてはたまらない。
いつもはおっとりとしているダンカンが急に叫んだので、サリアは驚いた。
「もう、遊ぶのはよしてくれ。ランティス、帰ろう。ミリナちゃん、邪魔したね。」
サリアではなく、黙って全てを見ていたミリナに告げると、ランティスを連れて家を出た。
「良いかい、ランティス。これ以上、なにも知らないでくれ。お前はなにも、知らなくていいんだ。」
家を出るなりダンカンは孫に訴えた。
「なんでよ。私だってもう大人よ!どうして教えてくれないの?」
祖父は何かを隠している。なぜ自分には教えてくれないのか。
「そんなに内緒にしたいの?『アイビス』っていう人のこと。」
祖父にはなんて答えていいか、わからなかった。
そのころ、サリアはいまだに驚いていた。
「今まで私を呼び捨てにしたこともないのに…怒鳴ってくるなんて…」
ブツブツと何かを呟く祖母に、ミリナは困った。話を聞いてくれる状況ではなさそうだ。
それでも、言っておこうと、聞いてるかもわからない祖母にミリナは言った。
「おばあちゃん、私畑に行ってきます。お母さん、心配ですから。」
今頃母は畑仕事を中断して一休みしているころだろう。
何か食べるものを持っていこうと思って、今朝焼いたばかりのベリーパイをバスケットに入れた。
「あと、あれでも持っていこうかしら」
そう言ってある物をバスケットに入れ、彼女は家を出た。